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【実話をもとに再現】地球が宇宙人に侵略される悲劇

はじめに

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現役の東大・京大・東北大生が「"身近な事象"と"教養"」をテーマに、一部の人には「学問」として敬遠されてしまう「教養」をわかりやすくまとめています。

先日こんなニュースがありました。

今年4月に、アメリカ海軍が未確認飛行物体(UFO)と遭遇した映像を公開しました。これを受けてアメリカは自体を深刻に捉えているという認識を示し、調査を開始しました。これを受けて日本政府も先日、河野太郎前防衛大臣から、UFOへの対処に関する指示を初めて自衛隊に出しました。

「国防」という観点から"正式に"UFOへの対応についての議論が進められており、現在、急に宇宙からの"侵略"というのも現実的に考えられる気がしてきました。

このnoteでは、宇宙人によって地球が侵略される未来を描いています。ただの空想の小説ではありません。実際に過去に起きたことであり、それに基づいて描いています。物語を読んでいただいた後、今作品についての解説を行なっています。

では始めましょう。

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1.地球の発見

宇宙望遠鏡から、いつもどおり星のデータを受信したジョンは、おやという顔をした。

「おい」

彼は隣に座るグレッグに声をかけ、眼鏡を乗せた鼻先に、写真を突き出した。

「これ見てみろよ、なんだろうな」

受信したデータを出力した写真には、無数の星が点になって写っている。素人が見れば、ただの星空の写真だ。しかし、普段から星々の定点写真を見慣れているジョンとグレッグには、異常はすぐにわかった。

グレッグは眼鏡の奥の眉を寄せ、写真にぐっと顔を近づけた。写真を持ってきたジョンの顔を見て、今度は眼鏡が汚れているのではないかと、レンズを確かめる。

「おいおい」

グレッグは息を吐き、PCに向き直った。稲妻のようにキーボードを叩く指先とは裏腹に、彼は意外に冷静な声で、写真を持つジョンに言う。

「まだわからないぞ。宇宙塵が邪魔してそう見えているだけかもしれんし、小惑星とか彗星が横切ったのかもしれん」

ジョンは再び写真に目を落とし、肩をすくめた。

「俺はそうであってほしいよ」

地球に接近しつつある謎の光については、NASAが発表するまでもなく、アマチュア天文家の口コミで、民間に広まった。SNSには無数の写真がアップロードされて、普段の星空とどう違うのか、懇切丁寧な説明が様々な言語で添えられた。近づいてくるものが異星人か隕石かについても、議論が戦わされた。

議論の結論を待つまでもなく、光が接近するにつれ、その形ははっきりとわかってきた。一見、岩の塊のように見える不格好なものだったが、周囲にはアンテナらしきものや、噴出孔のように見える部分もあった。光は全部で3つあり、それが並んで地球に近づいてくる様子は、まるで何かの映画の序章のようだった。

異星人が3隻の船に乗って近づいて来るらしいというニュースは、たちまち世界を沸き立たせた。何の目的で来るのかということが、今度は議論のテーマになった。ある者は侵略だと言い、またある者は親善だと言った。しかし異星人の目的が何にせよ、近づいて来る宇宙船を止める術はない。議論は次第に、異星人がどこに降りようとしているのか、ということに変わっていった。各国政府は、宇宙船がどのような行動をとっても対処できるよう、自国の軍隊を待機させていた。政府間の連絡網も、密に敷かれていた。

運命の日、日本中のスマホが、一斉に鳴り響いた。宇宙船が、東京湾沖で停止したというのだ。品川のオフィス街からも、3つの島のような宇宙船が降りてくるのがよく見えた。付近の船や飛行機はただちに撤退して、自衛隊の護衛艦が東京の海にずらりと並んだ。衛星を通して世界中が、宇宙船がどう出るのか、息を呑んで見守っていた。

やがて、護衛艦から1メートルと離れていない空中で停まった乗り物の前部が、次第に開き始めた。その様子を、護衛艦の上にずらりと並んだ自衛隊員は固唾を呑んで見つめた。斎藤もその一人だった。

扉の中は、銀色に光っていた。そこに長い影が差し、体を屈めるようにしてゆっくりと姿を現したのは、予想されていた以上に人類にそっくりな異星人の姿だった。長い手足は2本ずつで、長い耳と大きな目を持っている。体は大きく斎藤が見上げるほどだが、横幅はモデルのように細かった。宇宙服でもなさそうな変わった衣服を身につけていて、むき出しの手や顔の肌は緑色だった。すぐにもう1人が後ろから出てきた。真っ赤な色をした目をぎょろりと動かして、2人の異星人は斎藤たちを見下ろした。斎藤は一瞬たじろいだが、クリップボードにとめた紙と鉛筆を異星人に示し、そこに「Hello」と書きつけて見せた。音楽も笑うことも、どこに異星人の地雷があるかわからないので、互いに書きつけてみせるという苦肉の策だった。

差し出された紙と鉛筆を、異星人たちは意外に興味深そうに見つめた。片方がもう一人に何か言い、もう一人はうなずくと、腰のポケットから何かの装置を取り出した。自衛官たちの間に、一瞬緊張が走った。もし異星人たちが攻撃してくるようなことがあれば、後ろに隠れた迎撃隊が、反撃する予定だったからだ。

予想に反して、異星人たちは装置で鉛筆と紙をスキャンした。小さな画面に映し出された結果を見て、彼らの顔は曇ったように見えた。何か誤解させたのだろうか。斎藤は不安になった。

異星人たちは、今度はクリップボードのスキャンを始めた。ボードからクリップまで丁寧にスキャンし、映し出された結果に、顔を輝かせた。

異星人は斎藤に向き直り、クリップボードを指さして何か言った。斎藤には何のことかわからなかったが、クリップボードをもっと持って来いというような意志は汲み取れた。何の意味があるのかはさっぱりわからなかったが、初めて異星人たちが示した意志だ。斎藤を含む自衛官たちは一斉に駆け出していき、船中のクリップボードを集めて戻って来た。

妙な光景が出来上がった。まるで先生に採点してもらう生徒のように、自衛官たちはクリップボードを持って、異星人の前にずらりと並んだ。異星人の片方がクリップボードをスキャンし、もう片方に手渡していく。異星人の長い腕には、クリップボードが山と抱えられた。

斎藤の番が来た。斎藤は、青いプラスチックでできたクリップボードを差し出した。異星人は斎藤のクリップボードをスキャンし、急に顔をしかめると、クリップボードを海に投げ捨てた。そして、斎藤の顔に向かって何か叫んだ。

斎藤は呆然として、異星人を見上げていた。何が彼らを怒らせたのかわからなかった。異星人は不意に長い腕を伸ばし、斎藤の胴体をつかみ上げた。自衛官たちの間にかすかなどよめきが走ったが、誰も止める者はいなかった。止めていいものか、わからなかったのだ。斎藤は激しく首を振ったが、その体は引きずられ、異星人たちと共に銀色に光る扉の中へ消えていった。

斎藤という自衛官が異星人たちに連れ去られたというニュースは、またたくまに世界中を駆け巡った。異星人がなぜ鉛筆や紙に興味を示さず、クリップボードだけに目を留めたのか、またなぜ斎藤だけが不興を買ったのか、あちこちで議論が交わされた。答えは出ないまま、3日が過ぎた。

一人だけ、孫という中国人が、クリップボードそのものではなく、異星人が捨てた斎藤のクリップボードに注目した。青いプラスチックのクリップボードが海に捨てられる様子は、TVで世界に中継されていたのだ。

孫はSNSに「異星人は、クリップボードの金属に目を留めたのでは?」と、英語と中国語で投稿した。投稿はたちまち拡散されて、何万人もTV中継を見返した。確かに、斎藤の持つクリップボードだけがプラスチック製で、他の自衛官たちが持つクリップボードは、クリップやボード部分のどこかに鉄が使ってあった。異星人たちが謎の装置で確かめていたのは、物質の成分だったのでは、という仮説が立った。

日本政府は、斎藤の安否を案じていた。3隻の宇宙船は、初めに着陸したところのまま微動だにせず、沈黙を守っていた。それを遠巻きに取り囲む護衛艦も、何が戦闘の引き金になるかわからず、手を出せないでいたのだ。孫の言うとおりであれば、鉄と引き換えに、斎藤の身柄を取り戻せるかもしれないという希望が見えた。
早速、一隻の護衛艦の甲板に、鉄やそのほかの金属が積み込まれた。上村という艦長の指揮のもと、護衛艦はゆっくりと宇宙船に近づく。異星人たちにも船が近づくのに気づいているのか、岩のような宇宙船の一部は開き、様子をうかがっているようだった。

上村は大胆にも宇宙船に接舷して、「斎藤はいますか」と大声を出した。異星人に連れ去られた斎藤がまだ生きているなら、自分の名前くらい伝えているだろうと考えたからだ。

上村の読みが当たったのか、程なく宇宙船の入り口らしいところが開いて、2人の異星人が出てきた。上村は宇宙船の中を指し、「斎藤」と言い、次に甲板に積んだ金属を示して、「鉄」と伝えた。甲板に山と積まれた金属を見て、異星人たちの赤い眼が、輝いたようだった。

異星人たちは護衛艦に乗り込むと、例の装置を取り出して、念入りに金属の成分を調査した。やがて互いに目を見かわすと、両腕に鉄を持てるだけ持ち、宇宙船の方へ戻って行った。

1分も経たないうちに、3隻の宇宙船の扉が皆開いて、中から赤い目をぎょろつかせる異星人がぞろぞろとあらわれた。並べてみると、体格や顔つきは、それぞれ少しずつ違うし、身につけているもののデザインも異なる。中でも立派な体格で、目立つデザインの服装がリーダーらしいとわかった。上村は異星人のリーダーに向かって自分を指した。

「ウエムラ」

次に、宇宙船の方を指す。

「サイトウ」

リーダーは上村を真似て自分を指さすと、「コロム」と言った。そして何事か仲間に言い、上村に宇宙船の方を見るように言った。

見れば、異星人に手を引かれるようにして、斎藤が宇宙船から出てくるところだった。斎藤はやつれて、疲れ切った顔をしていたが、足取りはしっかりしていた。

「艦長」

斎藤は上村に抱えられるように甲板に降り立つと、つぶやいた。

「この人たちは、金属をとりに地球へ来たそうです。特に鉄が不足していて、彼らの星では高く売れるのだとか」

上村は目を見開いた。

「斎藤、君はたった3日で異星人の言葉を覚えたのか?」

斎藤は首を振った。

「彼らが必要なことだけを、叩き込まれたんです。鉄をもっと集めて、彼らに渡すようにと……。さもなければ、ここに集まった者から殺していくそうです」

上村はぎょっとしてコロムと名乗る異星人を見た。彼は初めて微笑みと見える表情を浮かべ、上村を見返していた。その手には、長いロープのようなものが握られていた。触れてみろと言うように突き出してくるので、上村がおそるおそるそのロープの表面に指を触れると、ジュッと嫌な音がして、指先がやけどした。上村が「熱い」と叫ぶ様子を見て、異星人たちは一斉に甲高い笑い声をあげた。

異星人たちが鉄や金属を欲しがっているというニュースに、世界中は色めき立った。代わりに宇宙船の技術を教えてもらおうという声も上がったが、穏便に立ち去ってもらうべきだという声の方が強かった。

「彼らはたった3隻の船で来ているのです」

朝のニュース番組で、コメンテーターがしたり顔に話をした。

「これを機に交易を結ぶということも考慮に入れた方がよいでしょう。しかし私は、彼らを遭難者と考えるべきだと思います。なぜなら、彼らとはまだ言葉も通じ合わず、宇宙船の技術を教えてもらうことなど夢のまた夢だからです。まずは友好を結び、互いの文化を理解していくことが先決です」

各国政府も、コメンテーターと同じ意見だった。意思の疎通ができないのに、貿易の話はできない。彼らは何も宇宙船の中に持っていないらしく、手まねで何かと交換したいと話しても、首を振るばかりだった。うなずく、首を振る、そして名前を呼び合うのが、唯一のコミュニケーション手段だった。

結局、異星人たちは3隻の宇宙船に大量の鉄や金属を積み込み、地球を旅立っていった。TV中継されたその光景を、涙を流しながら見つめる人々もいた。

これで終わったかに見えた異星人訪問だったが、これはまだ最初の1回に過ぎなかった。

2.地球への侵略

1年後、再び地球に近づいて来る光点があるという報告がされた。その数を聞いて、世界は騒然とした。今度近づいて来る光点は、17つだった。

楽天家たちは、今度こそ異星人と友好協定が結べるに違いないと期待した。しかし人類の多くは、不吉な予感に震撼した。

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地球に接近した17隻の宇宙船は、ばらばらに降下し始めた。各国政府は防衛軍を組織して、息をつめてその様子を見守った。港に接舷した宇宙船は、前よりもずっと大きな船だった。その怪物のような口が開き、中から赤い目をぎょろつかせた異星人が、ぞろぞろと群れを成して出てきた。その手には、あのロープが握られていた。さらに恐ろしいことには、異星人たちの足元には、長い手足と鋭い牙を持つ、ライオンのような獣が付き従っていた。獣は居並ぶ防衛軍を見ると、歯をむき出して唸り声を上げた。

彼らの目的は明らかだった。各国の防衛軍は、一斉に火ぶたを切った。大砲が撃たれ、機関銃が轟音を上げた。異星人たちの幾人かは倒れたが、彼らの獣が防衛軍の中に躍り込むと、形勢は一気に逆転した。獣たちは防衛軍を蹴散らし、大砲をなぎ倒し、機関銃の弾をぶちまけた。防衛軍は退却するよりほかなかった。壊された武器は鉄くずの山になり、異星人たちはそれらを嬉々として宇宙船へ運んだ。

日本にやって来た宇宙船のリーダーはコロムだった。最初の戦闘が終わると、コロムは「ウエムラ、サイトウ」と呼んだ。上村と斎藤が進み出ると、コロムは大砲を指さした。そしてその指先を、上村と斎藤の後ろに広がる、日本の町や山へ向けた。

「もっと欲しいと言っている」

斎藤が怯えたようにつぶやいた。上村は青ざめた顔のまま、首を振った。するとコロムは歯をむき出し、上村をロープで打ち据えた。上村は声も出さずその場に倒れ、その倒れたところから、ゆっくりと血が広がった。

これが、戦闘以外で起きた最初の殺人だった。上村を殺してしまってから、異星人たちは歯止めが利かなくなったように見えた。町を縦横無尽に歩いては、金属のものをマンホールと言わず車と言わず持ち帰ってしまう。道を歩いているだけで、スマホや自転車を取られた者もいる。邪魔をしようとすると、例のロープで打ち据える。このロープは灼熱の塊のようで、打たれたところの皮膚はただれ、悪くすると骨ごと焼き切られてしまった。

病院には、ひどいやけどを負ったり、手足を失った人々があふれた。気の毒な人々に医者が手当てをしたくても、病院まで薬が届かない。道路の信号機や標識は抜き取られ、マンホールは口を開き、車そのものさえ奪われて、町と町は寸断されているのだった。連絡は、電話やSNSだけが頼りだった。しかしSNSを覗いても、結局世界中どこも同じ状況なのだと突きつけられるだけだった。

自衛隊は異星人たちにゲリラ戦を挑んだが、敗北するたびに武器は戦利品として奪われ、次第に戦える手段そのものが少なくなっていった。
町を略奪しつくすと、異星人たちは、今度は地球人たちに鉄を持ってくるように求めた。斎藤を始めとする、少しばかり異星人たちの言葉がわかるようになった者たちが、通訳した。

「鉄のできる場所はどこか。案内しろ」

コロムの言葉を、斎藤は国会で首相に伝えた。異星人たちにとっては、国会議事堂も他の建物と変わらない。壁の中の鉄柱まで抜き取ろうとして、破壊が始まっている国会議事堂の中で、首相は眉を八の字にした。

「鉄の採掘場は、我が国にはほとんどない。この人たちが持って行ったものだって、外国から輸入してつくったものだ。アメリカでも中国でも行ってくれと伝えてほしい」

首相の言葉を聞くと、コロムはまた何か言った。斎藤は疲れた顔で機械的にその言葉を日本語にした。

「それでは、日本人一人一人が、1週間以内に1キログラムの鉄を持ってこい」
コロムはロープを足元で打ち鳴らした。

「持ってこない者は、手足を失う」

コロムの言葉はニュースになり、日本中を恐慌が襲った。誰もが家の中に残ったわずかな鉄をかき集め、それでも1キログラムに満たないと、自分の家を破壊して鉄を引きずり出した。コロムの指示か、宇宙船はその威を示すように、日本の空をゆっくりとめぐった。それが更に恐慌をかきたてた。

鉄鉱石の取れる山や砂鉄の取れる川を知っている者たちは、現地へ走った。閉山された採掘場も破られた。そんな細かいところまで宇宙船からは見えていたのか、1週間経たないうちに、コロムがまた斎藤を連れて首相のもとへやって来た。

「鉄のできる場所は、ここにある。ここで鉄をつくれ」

首相にノーとは言えなかった。

太平洋戦争を彷彿とさせるような、労働力の徴収が始まった。既に掘りつくされた採掘場へ、何百人もが投入され、わずか1キログラムの鉄を掘り出すために、その何十倍もの土を削った。監督するのは異星人で、少しでも動きが鈍ると打ち据えられた。

スマホやPCも奪われ、だんだん投稿の少なくなっているSNSからは、同じようなことが世界のあちこちで起きていることがうかがえた。グレッグという人物の投稿が、その中で突出したメッセージを持っていた。

「異星人たちは、俺たちを猿以下に考えている。あのライオンのような獣の方が、よほどいい待遇を受けている」

採掘が始まってから1ヶ月以上が経ったころ、妙な病気が流行り出した。高熱が出て、肌にはできものができ、それが体中に広がるころには、ころりと死んでしまうのだ。初めは、採掘場の環境の悪さが原因だと思われた。ところがほどなくして、地球人たちはさらに絶望を味わうことになった。

「異星人が持ち込んだ伝染病です」

TVも異星人たちに奪われた世の中で、どうにか残されたラジオが、破壊された街中で情報を伝えていた。

「異星人たちにも治療法はわからないようです。発症したら、できるだけ他の人と接触しないようにして、安静にしてください……」

しかし、町の中にはもう安静にできる場所はなく、隔離できる設備もなかった。病気になった人々は家族のもとへ帰され、今度は家族が同じ病気を発症して、死者は倍増した。

異星人たちは、死者が増えることについては意に介していないように見えた。しかし、採掘場の労働力が減ることについては、いらいらしているようだった。

ある日、異星人たちは山の木を切り倒し、腕を広げた首のない像のようなものをつくって、採掘場で働く者たちをそこへ連れて行った。異星人たちは、像の前でひざまずき、頭の上で何度も手をまわした。そして、意味が分からず眺めている労働者たちに向かって、同じことをやれと言った。

首のない像は異星人たちの神らしいということが、次第に地球人たちの間に知られ始めた。似たような像が、街中と言わず港と言わず、あちこちに建てられた。そして、病気の治療法を何か知らないかと尋ねると、彼らは祈れとでも言うように、像を指さした。

こうして2年あまりの月日が流れたころ、またもや何隻かの宇宙船が地球へ飛来した。そのことに気づいたのは、宇宙船を実際に見た人々だけだった。スマホもPCも奪われた今では、グローバルな連絡手段は消滅し、見たこと、聞いたことだけがすべてだった。

斎藤は、コロムに連れられて宇宙船を迎えに行った。3年近くコロムに仕えた斎藤は、彼らの言葉に相当精通していた。コロムも、斎藤を気に入っているようなそぶりを見せることがあった。

「どのような方がいらっしゃるのですか」

斎藤の質問に、コロムは短く答えた。

「偉い人だ。私よりずっと地位の高い方だ。この星の総督としておいでになる」
それが地球にとっていいことか悪いことか、斎藤にはもうわからなかった。
例の宗教像が立てられた港に巨大な船が接舷し、異星人たちは胸を張って入り口の開くのを待った。斎藤は、コロムのそばに控えていた。やがて、宇宙船の入り口が開き、コロムよりさらに体格の立派な異星人と、少し小柄な異星人が、連れだってあらわれた。

「総督閣下」

コロムが進み出て挨拶した。体格の立派な方がコロムに少し目をやり、「ご苦労」と言った。小柄な方は、気ぜわしく手をより合わせ、きょろきょろと辺りを見回した。

「ずいぶんひどい。あなた方は鉄を掘るために、この人たちの町を破壊したのですね」

総督は、赤い目をぎょろつかせて小柄な方を見た。

「破壊は仕方がない。吹けば飛ぶような町ではないか。我々が新しい町を作ってやった方がよほどよい」

小柄な方は、ため息をついて、両手を頭の上で動かした。それが異星人たちの祈りのポーズだということは、斎藤はもうよく知っていた。小柄な方は、港に立っていた宗教像を見て、少し安心したような顔をした。


「それでも、神については教えているのですね。この人たちは理解しましたか」

小柄な方は斎藤を指さして言い、コロムは赤い目をぐるりと回した。

「わかったと言えるかどうか。本当に理解するには、あなたの力が必要でしょう。我々も、あなたの到着をお待ちしていたのです。野蛮なところにこそ、あなたの存在が必要です」

小柄な異星人は神父のような役割らしい。彼は斎藤に目を向けたまま、またコロムに話しかけた。

「この人たちに、もともと宗教はないのでしょうか」

「神みたいなものは信じているようです。しかしすべて空想の産物です。我々のように、理論的に信じているわけではないのですよ」

「おやおや」
神父は赤い目で何度も瞬きをして斎藤を見つめた。斎藤はなぜか恥ずかしい気がして下を向いた。頭の上を、異星人たちの会話が行き来した。

「しかし、総督とあなた様がお着きになられたからにはもう安心です。ここでも、文明的な生活ができるようになることでしょう」

「まずはあんたたちが荒らした街を立て直さなければなるまい」

「教育もしなければなりません。かわいそうに、この人はどうしていいかわからないようではありませんか」

斎藤は、異星人たちの侵略が、新たなステージに移行したことを悟った。

異星人たちは、地球人を労働力として駆使する一方で、新しい学問を教育し、彼らの宗教を教えた。それを受け入れる人類もいれば、拒否する人類もいたが、一貫して変わらないのは、いつでも地球人は異星人のワンランク下に存在するということだった。そう位置づけることに、異星人は疑問すら感じていないようだった。

地球人の中には、異星人にゲリラ戦を挑む者もいた。しかし、身の回りにもう金属はなく、武器は石や竹やりばかりである。異星人たちの相手にはならなかった。異星人たちの宗教に傾倒し、そこに救いを求める者もいた。こうした地球人たちは、地球の裏切り者として、陰で軽蔑されていた。

「私はそろそろ故郷に戻る」

ある日、コロムが斎藤にそう告げた。

「お前は初めて会った地球人ということもあるし、特別親しみの湧く存在だったが……」

コロムは赤い目をぎょろつかせて斎藤を見つめ、おもむろに切り出した。

「お前さえよければ、私の故郷へ連れ帰ってやってもいい。この野蛮な土地よりはいい暮らしができると思うぞ」

斎藤は迷った。しかし、異星人たちが闊歩し、いいようにほじくり返されていく地球を見るのは、もう辛かった。

「連れて行ってください」

斎藤はコロムにそう申し出た。

出発の日、昔は引きずり込まれた宇宙船に、斎藤はコロムの後に続いて、自分で足を踏み入れた。銀色に光る廊下が続く。その材質が、少量の金属を組み合わせた合金だと知ったのはついこの間だ。

コロムはいくつかの角を曲がり、やがて一室に入った。そこは暗く、嫌な臭いが立ち込めていた。

「ちょうど一つ空いている」

そう言って、コロムは赤い目をぎょろつかせ、長い指で一点を指し示した。
それは、ライオンのような獣が入っていた、鍵のかかる檻だった。

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3.解説編

いかがだったでしょうか?最後まで読んでいただきありがとうございます。

現代は、イーロンマスクの火星移住計画をはじめ、私たちが宇宙へ向かうという意識が一段と強くなっています。そんな中で、我々が侵略される側となることも考えてみると興味深いと思います。

上の物語を読んでいただいて、「宇宙人は、なんと傲慢で恐ろしいのか。」と思われたかもしれません。実は、今回のこの物語は、過去に人類が行なった史実を参考にして書かれています。既に想像のついている方は非常に鋭いです。気づいた方は非常に鋭いです。これは今から500年ほど前の、いわゆる「大航海時代」の歴史が参考にされています。

ぜひ、その地球の歴史を知っていただきたいと思います。

その解説をこれから見ていきましょう。

4.地球外生命の存在について

大航海時代の話に入る前に、宇宙の話を少しだけ。

宇宙には、地球と似た生命が存在できる惑星があると考えられています。その惑星には太陽のようなエネルギーを持つ恒星と適切な距離を取ることで液体の「水」が存在しています。そのような生命が存在する最適な領域をハビタブルゾーンと呼びます。

ハビタブルゾーン:地球と似た生命が存在できる天文学上の領域

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当然のことですが、地球のある太陽系でハビタブルゾーンにあるのは地球だけです。ですので、現時点では太陽系内での生命体の確認の可能性は極めて低いと言われており、太陽系外での探査が続けられています。

もしかしたら、このハビタブルゾーンにある未知の惑星の知的生命体が地球に乗り込んでくる可能性はあるかもしれません。

ちなみに最近では、太陽系の惑星である金星にも生命が存在する可能性がニュースとなっていました。

5.地球の歴史を振り返る

ではこの章では地球の歴史について知っていただこうと思います。

まずは15世紀、西欧の人々は、マルコ=ポーロの『世界の記述(東方見聞録)』などに刺激されて、ほとんどの西欧の人々が知らない世界であるアジアに対して、富や文化に対する関心が強まる一方で、羅針盤の改良や快速帆船の普及により、遠洋航海が技術的にも可能になっていました。

西欧の人々は当時、香辛料が非常に高価なものとして扱われていたため、香辛料を求めて新しい世界に探索をする動きも活発でした。

上の小説の中では、香辛料ではなく、が異星人の興味の的として扱われていました。それは、鉄が彼らの富に直接的につながるものだったからです。

そのような中で、1492年、スペインはコロンブスを「インド」に向けて派遣したが、最初にコロンブスの船団が辿り着いたのはアメリカ大陸でした。これらの土地を「インド」と勘違いしたため、先住民を「インディアン」と呼びました。

このアメリカ大陸の発見は、歴史的な「発見」だったのです。(当時の西欧の人からしてみたら)

ここまでで少しずつ整理されてきたかと思いますが、上の物語の侵略者である異星人は「当時の西欧人」を、被侵略者である地球人は「先住民("インディアン"など)」を表現しています。

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上の写真は、アメリカ付近の島にたどり着いたコロンブス一行の絵です。おそらく平和だった原住民たちは宝を渡そうとおもてなしをしています。さっきの写真のような宇宙人がもしきたとしたと考えたら、右の先住民たちの気持ちもなんとなくわかる気がしてきませんか?そのおもてなしの後ろで、十字架を土地にたて、領有を主張している姿が見えます。

スペインは加えて、アメリカ大陸に征服者たちを送り込みました。

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先住民たちは、馬や鉄器を全く知らなかったため、スペインからの征服者に恐れを抱きました。物語でも地球人たちが知らないライオンのような獣は、当時の原住民たちからしたら非常に恐ろしいものであったことは想像できます。身体能力では、原住民の方に武があったかもしれませんが、これらの武器を駆使した征服者たちはあっという間に征服を果たしました。

そして先住民たちを奴隷労働に従事させます。スペインは征服者に対し、原住民の保護とキリスト教化を条件に、支配の権限を移譲します。先住民は鉱山の開発やさとうきびの収穫で過酷な労働に従事させられました。

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加えて、先住民たちにとって最も大きなダメージだったのは、西欧人が持ち込んだ天然痘などの伝染病でした。先住民の人々は免疫がなかったので、場所によっては人口が約1000分の1ほどに減ってしまった地域もあったと言われています。

ただ、このような状況で、征服者の中にもこのような制度に反対した人はいました。名前は「ラス=カサス」(下の写真の人物)と言い、彼は征服制度や奴隷労働による先住民への虐待をスペイン王に報告・弾劾し、「インディオの天使」と呼ばれています。

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侵略した当時、今でも人種問題になっている肌の色については、当時は「人種」というカテゴリーがなかったため、違う肌の色の同じ人間を、「同じ人間」として理解することはなかったと思われます。

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これは、もし宇宙人がきたとして、上のような宇宙人がきたら、同じ人間だとは思わないですよね。おそらく、宇宙人も私たち地球人のことを同じ人間だとは思わないでしょう。それは上の物語でも描かれていました。

しかし、出会いから700年後の現在では、当たり前のように同じカテゴリの動物であり同じ「人間」だと考えられています。至極当たり前ですが、当時からしたら全く当たり前ではありません。

この小説が終わり、700年後の世界は、奴隷として扱われた我々地球人の人種問題がうたわれているのかもしれません。

6.最後に

今回のお話はここまでです。

地球の歴史はこの後、先住民は移民に追いやられる地域や、移民と共生する地域など多様に分かれていきますが、差別や文化の破壊は続きました。そして2020年現在が、先住民とヨーロッパ文明の出会いから800年ほどが経ちました。それが今の地点です。

人間や生物がどこまで普遍性があるのかは、宇宙のレベルでは全くわかりませんが、「征服する・される」のは過去を反省するのは重要であるにせよ、普遍的に起こりうる事態です。私たち地球人が、未知の宇宙の探査を行うのは、未知の宇宙へのロマンと同時に、地球外生命体などの未知の脅威からの自己防衛の目的もよく理解できます。

その「征服」という判断の中でも、今の我々の価値観だけでなく、もっと広い価値観が必要なんだと考える必要があります。これは日々の生活の中でも変わりません。幅広い視点の価値観について、私たちのこのなどのnote発信を通して感じていただければ、非常に嬉しいです。

これからもこのような新たな気づきができる教養コンテンツをお送りしますので、ぜひフォロー・スキよろしくお願いします。

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

小説制作協力:藤平

追記

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