【私小説45】血潮
ある日小学校から帰宅すると、酒乱の祖父が自慢げにカラスを見せてきた。カラスは怪我をしているのか飛べないようで、どういう風の吹き回しか、祖父が道で発見したものを連れ帰ってきたようだった。祖父はパンを牛乳に浸したものをカラスに与えていた。私は動物が好きなんて言う資格ないけど、でも犬もネコも鳥も可愛いと思うから、だから嬉しくて、カラスを育てる事になった事が楽しくて仕方なかった。そのカラスには私が名前をつけた。カラスだからカロールという名前にした。当時カローラⅡのCMがよく流れていた影響もあったように思う。
カロールが我が家にやって来てどれくらいの時間がたった頃かまったく覚えていないけど、学校から帰宅するなりカロールが入れられていた小屋を覗くと小屋は空っぽだった。飛べるようになって空に帰ったのかな?と思った。
一抹の寂しさと、家の中で飯でも食わせてんのかな、という楽観的な気持ちとで祖父に聞きに行った。
「カロールは?」
祖父は言った。
「せっかく餌やってんのに食わねえから殺した」
と。
この日の時間が、今私が生きている時間に繋がっているという事が本当に、心の底から恐ろしくて。恐ろしくて。恐ろしい。
私は何年か前に祖父が死んだ時、死体も見なかったし、線香もあげなかった。
生まれ変わったら動物を救う立場の人間になってほしいと、そう心で思った。
祖父の葬式の日、わがままで偏屈なひとだったけど、と それでも涙する者もいたが、孫一同の中で祖父と共に暮らしていた私と姉だけが、泣いていなかった。
やっと死んだと思った。
ただ、自分に祖父の血が流れているのは事実だ。
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