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樹木の病虫害って何だろう

ある違和感

  樹木医は、文化財である天然記念物の名木、古木が失われないように専門知識を用いて樹勢回復等をするためにできた制度である。私は樹木医になったが違和感を感じることがある。名木、古木に限らず、木は病気になる。虫にも食われる。これを被害と捉えて、樹木の健康を害するものとして、診断し、処方する。
しかし、虫には虫の生き方があり、樹木の病気をもたらす菌類には菌類の生存戦略がある。視点を樹木から生態系に移すだけで世界は違って見えるのだ。樹木医の立ち位置は様々で、人が楽しめることに重きを置く人もいれば、樹木の健康長寿に重きを置く人もいる。生物多様性が一番大切だという樹木医もいるのである。

イモムシの生態系

 捕食、被食の関係、寄生や共生など生物同士の関わり方は多様である。
タイトルの上にある写真にある翡翠のようなイモムシは、マエアカスカシノメイガの幼虫。ネズミモチやトウネズミモチを、今、食害している。ネズミモチはやや樹勢が弱くなるが、枯れる訳では無い。トウネズミモチも同様に被食されるが、生態系被害防止外来種に指定され、厄介者扱いなので、むしろ樹勢が衰えることは歓迎されるものなのかもしれない。
マエアカスカシノメイガは、鳥たちの程よい餌になり、多くの鳥がやってくる。鳥たちにとっては、イモムシの時の方が餌として美味しいのだろう。でも、幼虫の時は色が葉と同じで見つけにくい。

葉が枯れたように見えるネズミモチ

人間の事情

 かくして、葉は上の写真のように枯れたようになり、枝先は葉がなくなる。この姿を美しいという人はあまりいない。これを虫害といって駆除するのは人間の事情である。駆除してしまえば、鳥は来なくなる。鳥が来なくなることを自然が好きな人は嘆く。
明治にトウネズミモチを持ち込んだのも、それを厄介者と指定したのも人間である。一方、ネズミモチもトウネズミモチも女貞子といって薬効のある実を付ける。これを煎じて飲めば、視力改善、老化防止、筋力向上など薬効がある。メルカリなどで、沢山売られている。人間の事情による攪乱は多彩であるが、その影響力は極限にまで達しているといえよう。

人も生態系の一部

 人間のエゴは行き過ぎている。それは、種としての継続を危うくするほどだ。よく言われることだが、コロナウィルスが蔓延するのも、より大きな感染症が今後拡がることが予想されるのも仕方がないことだ。生態系を攪乱し、生物多様性は大きく減じているのは紛れもない事実である。でも、人も生態系の一部。生き物は人の環境破壊を新たな環境として受け入れ、利用しようと常に工夫する。人もただ壊すだけでなく、環境を創り出すこともできる。多様性を拡大することもできる。

環境の創出

 人間が環境をつくるだすことができ、多様性を拡大することができるのなら、病虫害を「樹木の健康を害する」と捉えるのはやめにしたい。病虫害は、樹木の周辺の生態系のバランスが一時的に崩れただけである。たとえそれが、見た目に美しくなくても。樹木医はそれを時間をかけて程よく補正してあげれば良い。生態系のバランスを常に一定に保とうとするのもまた不自然。「ゆらぎ」が必要だ。適度な乱れは、多様性を生み、変化があることは人の心に安定をもたらす。なので、私は、病虫害撲滅へむけて血眼になるより、環境を創出できると信じて、樹木やあらゆる生き物と接していきたい。そして、人々に潤いと安らぎを与えることができれば本望である。

多様性を創出する森へ

#生物多様性 #樹木医 #病虫害 #環境の創出 #生態系