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妹の日曜日

地震で揺れたのと、母から電話が来たのが同時くらい。その記憶はあるのだけど、まだまだ身体が起き上がらなくて、気づいたら11時だった。

「おねえちゃんと おかおおでんわしたいな!」

起きたら年の離れた妹からラインが入っていて、今朝の母からの電話は妹の仕業だなと気づく。スマートフォンを使いこなす妹。デジタルネイティブだなあ。


妹と話す元気あんまりないなあ、元気のないおねえちゃんじゃかわいそうだなあ、と思いつつ、あのキラキラの声を聞けたら私はちょっと元気になるかもなあ、なんて思い直してリダイヤルした。

妹じゃなくて母が出た。電話の向こう側からは妹がピアノを弾く音が聞こえる。ポロンポロンと鳴る音の粒がやんだと思ったら「ねえ!わたしも、おかおしたいんだけど〜!」という声と、ドタバタとした足音が近づいてくる。もうそれだけで元気のお裾分け。


遠くに住む母と妹とはたまにこうしてFaceTimeで「おかおおでんわ」をしてるのだけど、妹は電話したいと言った割にすぐ画面からいなくなり、お気に入りのタオル(2枚“いる”。それぞれ名前がついてる妹のベストパートナーたち。)を持ってきたり、おもちゃをお披露目したくれたり、きゃはきゃは言いながら目まぐるしく動いている。

その間に母と「最近どう?」なんて話をする。

母と話していると妹が割り込んできて、最近の公園の遊び方を伝授してくれたと思ったらまたどこかへ行く。

今日はよく晴れていて、電話越しの母の家が日差しでとっても明るくて、ザ・日曜日の昼下がり。


そのうち妹がシャボン玉をすると言ってベランダに出る。「ここはとてもいいきもちですぅ〜ぐふふふ」と干してある布団に顔をうずめてニマニマする妹を見ていたら、干したての布団のお日様のにおいが鼻を掠める気がした。

私も家の窓を開けてみる。春と初夏の間みたいな風が吹き込んできた。

画面の向こうでは、お日様でいっそうキラキラした妹がシャボン玉を飛ばしてる。いいねえ、日曜日ってかんじ。キラキラの妹がパタパタと動くのを、我が家のソファから贅沢にぼーっと見る。

妹は妹で好き勝手喋るし、母は母で全然違うことを喋るので、それを適当な相槌でふんふんと聞いているのが面白い。


母は意外と植物を育てるのが得意で(私には全く遺伝しなかった)、今回はスーパーで買ってきた豆苗を育ててみたら花が咲いてキヌサヤができたと言って見せてくれた。

ちょうどいい塩梅のがいくつか出来てるようで、2人でわっせわっせと収穫している。もはやスマートフォンの画面にはあまり写ってないんだけど、なんか楽しそうだからいい。

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収穫を終えた妹がベランダからバタバタと家の中に戻る全景がスマートフォン越しに伝わってくる。あ、洗面所。手、あらうのね。玄関。シャボン玉を戻しに行ったのか。たまに「ふう」とかいう、ちょっとおねえさん風のため息が聞こえてきて可笑しい。

「ねえねえ、いま、みせるからさ、ちょっとまってて」

というのでハイハイ待ってたら画面が反転する。

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今日の収穫品


わざわざ背の高い順にちゃんと並んでいるのが、いちいち愛おしい。

見せたら満足したらしく「じゃ、もうきるね!ばいばあーい」といって終わった。


画面越しのお日様のキラキラが頭から離れなくてベランダに出て煙草を吸う。

はあ。お日様。幸せ。

今日は私もお布団を干そうかな。そしたら妹みたいに、思いっきり顔をうずめてやるんだ。

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