青と冬

地下鉄の階段を上りきった時に
金の銀杏とその奥の青空がひとみを焼く

毎日毎日を
昨日を忘れたかのように
あっけらかんと繰り返す
東京の冬の日
夏の沈黙のような灼熱を思ったが
それは既に遠い思い出だった
生きている限り毎年毎年繰り返していても
他所の季節の思い出はいつもこの世のものではなかったかのように見える


飽くことなどないかのように
金色は弱い風に揺れている
ジーを待ちながら、クリステンは地下鉄から出てくる人を眺める
あれに似ている、
ありの巣から次々と出てくる蟻。
穴の深いところから、ごー、と地下鉄の音がしている。
似ていないのは、
みんなが少しずつ違う色をまとっていること。
黒、
紺、
灰色、
茶色、
黒、
紫、
ーーー金色
は、として、
それが風に舞ったイチョウの葉であることに
視界が揺れた。


太陽の位置が変わって、日向の向きも変わる。
それを追うように、腰掛けているガードレールの位置を少しずらす。
ここは白や灰色と黒や紺、
そして、抜けるような遠い青と金色だけだけれど
その青を背中に、寒々しい枝の先で揺れる
濃い橙色の柿の実を思った。
何もない、柿の実だけだ。
氷の季節を迎えてなお
はち切れんばかりに輝く柿の、艶のある肌。
それに触れたら確かに冷たいはずなのに、
温かそうな光沢。
山間を吹く冷たい風。


びう
ビルの間を抜けて来た湿っぽく冷たい風が
また蟻の巣に目を向けさせる。
ーーーさよならも言わずに、秋が去って行ったのを、青空の奥を目で追って感じた。

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