四月二日 芥の壺

花の芥
希望の芥
眼窩の奥に散り積もる

光の芥
若葉の芥
鼓膜の裏に積もりおる

のどけき、春の光
さやけき、青々しい始まり
かしまし、春の始まり
むず痒し、初々しい暖かさ

鈴懸の木よ
氷のかけらのように
光の煌めきのように
そういえば聞こえは良いが
たんぽぽの綿毛のしつこいののように
砂埃の厄介なやつのように

頭蓋の奥の奥の方まで
海馬の表層まで
百会が噴火するまで

粘膜を侵す
鈴懸の子どもたち

瞼をひっくり返して洗った
鼻の奥にブラシを入れて洗った
喉仏をお茶に浸して洗った
頭を取り外して水道水を満たして振って
洗ってやって

出てきた茶色の水を
ドブネズミが飲み下す

ドブネズミは花粉症になった
彼は下水に戻って言った
人間が頭を振って洗ってる限り
表へは出るなと

じゃば、じゃば、じゃば、
河岸に頭蓋を抱えた骸骨が
列をなして並んでいる

花の芥よ
希望の芥よ
下水より地中海に至るまで
光の芥よ
若葉の芥よ
春の嵐が全て洗い流すまで
決して己が春の風情と
思い上がるな、
油断めさるな

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