箱とは。
とある女性が、片付けなくちゃと思うたびに箱や収納を買ってしまうんだと言っていた。
彼女とは2ヶ月に一回、1時間ほど会うだけの用事があるのだが、旦那さんのことや子供がたくさんいて一人一人性格が違うこと、など、短い間に実にさまざまな話をしてくれる。
あっけらかんとした性格の彼女は、若くておしゃれで、インテリアが好きで、明るい印象だ。
そんな彼女は、箱をついつい買ってしまうと言う。ものを捨てられないから、片付けようとして箱を買うそうだ。
その箱が積み重なり、家の収納はパンパンになる。その都度旦那さんに怒られるという。
子供のものは捨てられるんだけど、自分のものは捨てられない。旦那さんは増えていく物(箱)の量に、いつも苛立ちを感じているといった様子らしい。
箱の魅力
なぜ人は箱や入れ物が好きなのか、考えてみた。
先ほどの彼女だけではなく、整理収納のお客さんの多くは「入れ物」をたくさん所持している。「何かを箱に入れる」作業はそんなに気持ちいいのだろうか。
「箱」は、何かを「まとめる」のに最適だ。散らかったものを、ひとまとめにして、「運ぶ」ことができる。
引っ越しの時には段ボール箱、衣装ケースが活躍する。「まとめて、運ぶ」これが箱の一番の役割ではないかと思う。
思ったサイズの「箱」に出会い、思い通りの量が収まったあの感覚こそ、「箱」の魅力なのかもしれない。
だからなのか、ニトリやホームセンターの収納コーナーには真剣な眼差しでメモを見つめる人が必ずいる。
次に考えるのが、使いやすくするための「分類」と言う役割だ。
この世にある「箱」には種類がたくさんあり、取手や蓋がついているもの、麻やプラスチック素材、大小様々だ。値段も100円で買えるものもあれば、高級なものまで幅広い。
細かなものを分類する時、職場などでその分類を共有する時、「箱」は役に立つ。
分類されているからこそ、例えばカフェではスプーンとフォークが混ざらないという効果がある。
レジ横にはレシートを入れる箱があるからこそ、そのまま「ゴミ箱」というこれまた別の「箱」に捨てることができる。
仕事をよりスムーズにするためにも、「箱」は、人類にとってなくてはならないものなのだ。
その他にも、食べ物をちょっといい箱に入れてプレゼントしたり、「箱」の存在は、中身をグレードアップしてくれる、いわば洋服のような役割でもある。
運転代行のおじちゃんが、パリッとスーツを着ていたら、なんだか高級な運転手さんになった気がするように。
箱の種類は多種多様で、まとめる、
運ぶ、分ける、
ギフトには欠かせない
何かから何かを隠したい
WEBで収納、箱、と検索すれば、おびただしい数の検索結果が出てくる。そのぐらい、人は何かを何かに納めることに夢中なのだ。
最後にもう一つ、「隠す」という役割がある。生活感があるものをオシャレな箱に入れて隠す、見られたくないものを隠す、という役割だ。
まとめて隠す場合もあるし、蓋があればお菓子などを隠すこともある。金品を隠す金庫というあれも、鉄製の大きな箱である。
先ほどの彼女は、片付かない物たちを、旦那さんから隠したいんだと言っていた。その言葉で、今まで彼女が話していたことと繋がった気がした。
会った時は決まって、旦那が文句ばかり、うるさいんだと明るく笑いながら言っていた。
そして、「いつも下に見られている」とも言っていた。きっとたくさん傷ついてきたのだろうと思った。旦那さんはこういう人、と諦めることは、彼女の明るく生きる道になっているのだ。
旦那さんに認めてもらったり、褒められた記憶もないという彼女は、怒られても怒られても、箱を買うそうだ。
片付かない物を隠そうとするのは、散らかった状態で怒られないようにしているようで、実は反対の意味も含まれている。
新しい箱を買うことで、旦那さんに反発しているのかもしれない、と彼女は言った。「いいと思う」としか、言えなかった。
このような悩みや話を聞いていると、物の量と人の関係が実は夫婦関係が原因だった、なんてことは珍しくない。
「物」と「感情」は紙一重で、感情によって家の中までもが左右されるのが人間である。
立派な商品の「箱」
「箱」との付き合い方は、人によって全然違う。実際にメルカリなどで、箱に入っているものは同じクオリティなのに、値段が違ったりするから不思議である。
楽天などでコスメを買うときも、箱なしの方が安い。そのくらい、箱には大きな影響がある。そんなにも箱は守ってくれているのだろうか?割れ物でもない限り、一体何から守られていたいのか。
エコだなんだという前に、この世の「箱に入れなくてもいいもの」から考えたらどうかと思う。過剰梱包にいつも矛盾を感じている。
問題は転売するわけでもない、普通の人である。ホコリから守りたい、という気持ちはわかる。
しかし、箱は立派なほど捨てにくく、箱に入れてしまった物ほど使わない傾向がある。
実際、収納が全然なくて…というお宅に伺った際、いらない箱を捨てただけで問題が解決したこともある。
片付けの観点からいうと、箱はあった方がいいとか、ないとかの問題ではなく、「今後その物をどうしたいか」によるのではないかと思う。
誰かにあげたいからとっておく、型崩れを防ぎたいから箱に入れておく、という明確な理由がない限り、箱はとっておかなくてもいいと私は思う。
その理由の一つに、紙の箱は虫がわきやすい点がある。中の紙がボロボロになっていたり、閉まっておいても中に虫の卵があったりする。
防虫剤をこまめに仕替える人はいいが、大抵の人は最初の防虫剤に絶大な信頼を寄せてそのまま忘れる。
箱のままカビていたり、保存の環境に左右されるので、箱に閉まっているから100%安全ではない。
そんなことになるよりも、大切にたくさん使った方が、物の気持ちとしては嬉しいのではないだろうか。
私たちも最後には箱に入る
よく、クラブとかライブハウスのことを「箱」というが、それに関しても、つくづく人間は箱が好きだなと思っていた。それともカッコつけてハコ、と言いたいのか。
人間は箱にものを入れるのが好きで、箱にタイヤをつけて移動したり、箱に持ち手をつけてカバンやバスケットにしたり、とにかく何かを何かに入れたがる。
収納グッズを見にいく時というのは、何を入れて、あれしてこれして…というワクワクが背景に必ずある。
私もそのうちの一人で、理想や夢を膨らませては、商品を買っていた。買ったらすぐに帰宅し、試したくなる。
そのくらい、入れ物とはワクワクするものなんだなと思う。私たちを魅了する「箱」は、やはりなくてはならないものであり、しかし箱も物の一部なので邪魔にもなるため、付き合い方を考えなくてはならない。
そして、人間は死んだら大きな箱に入って燃やされ、小さな箱に収納される。箱を愛した生き物は、最後には箱に入るのである。
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