崇拝

夜、俺はベランダで煙草をふかしていた。

今日、彼女に言われた言葉を反復する。

「あなた無しでは生きられない」

・・・・・・

この言葉を聞いた途端、まるで炭酸の泡が消えていく様な、花火を水につけた様なそんな感情が俺を襲った。

「・・・そうじゃないんだよなぁ」

口から紫煙が零れる。

なぜそんな悲しい事を言うんだ。

その一言で俺達の関係に力関係が生まれてしまったのだ。

同等、同じ目線で付き合っていきたかった。

しかしもうそれは叶わず、俺はもう彼女を見下してしまっている。

俺は最低だ。

君の愛が少しばかり俺の愛を上回ってしまったばっかりに。それを言葉にしてしまったばっかりに。

・・・そんな言い方はないだろう。

彼女は俺がいなければ死んでしまうのか。彼女はそんなちっぽけな存在だったのか。

「そんなのただの崇拝だ・・・」

彼女の天井を見てしまった気分だ。

買ったゲームが想像していたよりも早く終わってしまった時のような、俺に見せた彼女が等身大だと、それ以上見せるものはないと言われたような。

プルルルル

「・・・・・・」

彼女から電話だ。

しかしどうも取る気になれない。ボタンを押す、それだけでの事がとても億劫に感じる。

「あっ・・・」

足元に置いておいたビールの缶が足に当たり流れる。

トクトクトクトク・・・音を立ててビールは黄色い川を作っていく。

携帯の画面を見ると電話が切れ、LINEが来ている。

流れてしまったビールを啜ることもできず、俺はそっと携帯を仕舞った。





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