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学校は安全な場所でなければならない
部活における死亡事故
2017年12月、群馬県の高校。陸上部員が投げたハンマーが、サッカー部の生徒に当たり、生徒が亡くなりました。どれほど痛かったでしょう。親御さんはどれほど苦しいでしょう。
県警は業務上過失致死の疑いで、当時の陸上部顧問の教諭を前橋地検に書類送検しました。そして教育長は「捜査に協力したい」とコメントします。
「書類送検」とは、捜査を検察に委ね、起訴・不起訴を決めることです。地方公務員法28条の2には、「刑事事件に関し起訴された場合、職員の意に反してこれを休職することができる」とあります。つまりこの教諭がもし起訴された場合、休職、さらに有罪となれば懲戒免職となる可能性があるのです。
部活動は教育課程外の活動であり、正式な業務ではありません。百歩譲って業務だと仮定しても、この事故は勤務時間外に起こったことです。それに対し「業務上過失致死」の捜査が行われ、最悪の場合、この先生は犯罪者となるわけです。
部活顧問は「自発的勤務」、つまり各個人が勝手にやっていることとされていますが、事実上断れません(法的には断っても問題ありませんが、とてつもない圧力があります)。そして、いざとなったら責任を押し付けられる。これまで部活の矛盾を放置し続けた結果が今の状態です。
共同通信(2019/12/11)
2017年12月、サッカー部の2年男子生徒の頭に陸上競技用のハンマーが当たり死亡した事故で、前橋地検は11日、業務上過失致死容疑で書類送検されていた元陸上部顧問の教諭を不起訴処分(起訴猶予)とした。
地検は処分理由について「過失の軽重、被害者ご遺族に対する謝罪と和解状況、再発防止策の実施状況などから総合的に判断した」と説明した。
事故当時、教諭は不在だった。
結果的に、その先生は不起訴となりました。それ自体はよかったと思いますが、亡くなった生徒が帰ってくることはありません。親御さんの悲しみが消えるわけもなく、先生だって心の傷を一生背負っていくことになります。
当然学校側は再発防止策を講じることになります。すると、「部活中は必ず顧問がつくこと」とならざるをえません。しかし、勤務時間外の活動に必ずつくことを命令するのは労基法違反なので、現場としての対応は、「勤務時間外に、自発的に部活を必ず見ること」になります。
どうでしょう、もはや日本語として成り立っていないですよね。つまり、部活は矛盾の中でしか成り立たない『鬼子』なのです。だから「働き方改革」が叫ばれても、部活に関する矛盾は見て見ぬフリです。本気で手をつければ、とんでもないことになるからです。もしも自分が校長や教委の担当者だとしたらどう考えますか。数年経てば任期が終わるのに、わざわざ火中の栗を拾いには行きませんよね?
今こそ、見て見ぬフリをやめよう
部活は真に「生徒の自主的・自発的な活動にすべき」であり、顧問も「やる・やらない」の選択権があるのが当然です。やりたくない人にも強制しなければ維持できないような活動であるなら、今の仕組みそのものに無理があるのです。
その無理を温存し続けてきたことで、多くの命が失われてきました。そしてそこに「悪意」がないため、誰も責任は取りません。しかし現実として、今の部活のあり方のままであれば、生徒たちの安全を保障することはできません。
現場の教員に責任があるとするなら、矛盾を見て見ぬフリしてきたことではないでしょうか。であれば責任の取り方は、「おかしい」ことに対して「おかしい」と声を上げていくことではないでしょうか。
「部活が嫌なら教員やめろ」などと、いまだに言う人もいますが、現実に少なくない数の生徒が、部活で亡くなっているのです。教員でも部活が主因の過労で亡くなっている人もいます。自分の価値観を絶対視し、「嫌ならやめろ」などと言う人は害悪でしかありません。
部活をやりたい人を非難するつもりもありませんし、「部活こそが教育の要」という価値観をもつ人がいることも否定しません。しかし、それぞれ価値観が違うからこそ、その違いを調整するためにあるのが法です。価値観をぶつけ合うのではなく、法律に沿った運用がなされているかどうかを議論していくべき時期にきていると考えます。
勤務終了後はその人の時間なのだから、やりたい人に「やるな」と言う今のガイドラインも理屈に合いません。「ガイドラインで部活の負担を減らす」という人もいますが、ガイドラインは部活の加熱を防ぎ、生徒の命や健康を守るために存在するのであって、教員の労働問題は労働基準法をベースに考えていくべきです。
過渡期の対策として、全員顧問制をなくすことと部活数を減らすことを学校や教委に提案しています。文科省も設置する部活数を適正化するよう通知しており、福井県では県教委が主体となって部活数を減らす計画を立てています(これは、法的には問題があるのですが…)。
「それでは生徒の権利を奪ってしまう」と言う意見もあるでしょう。しかし、そのために「教員が犠牲になるのは当然」というやり方は、とても持続可能な部活のあり方とは言えません。そして学校がすべてを抱え込む、矛盾だらけの今の仕組みを延命していくことは、長い目で見れば、生徒のためにならないと考えます。世論の後押しがある今こそ、抜本的な改革が必要です。
しかし、家の中で願っているだけでは現状は変わりません。誰かが変えてくれるのを待っているだけでなく、声を上げ、行動しなければ、「働き方改革」など絵に描いた餅でしかありません。
気づき、考え、行動しましょう。
Yes we can!
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