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第6回 組織運営のコツ②

教育委員会の立場から「平成」の校長たちに学び、自身も校長として現場に立ち実践を続けてこられた竹内弘明先生(現・神戸親和女子大学教授)に、「令和」の学校経営を担う校長先生たちへ受け継ぐべきスキルとノウハウを語っていただきます。
※第6回のテーマは、前回に引き続き「組織運営のコツ」。管理職として教職員をまとめ、学校組織を回していくために、改めて意識しておきたいキーワードです。

ポテンヒットをゆるさない

 学校の掃除の話です。学校では各クラスに清掃箇所を割り当てて、子どもたちが掃除をします。各教室と廊下、そして特別区域を割り当てます。教員もまた担当が決まっており、当番の子どもたちを指導しながら一緒に掃除をします。
 そのとき、3年1組と3年2組の子どもたちはそれぞれ教室の前の廊下も担当箇所としてあたっています。1組の子どもたちは1組の教室前の廊下を、2組の子どもたちも同様に2組の教室前の廊下の掃除をします。その際、1組と2組の境界がありますが、お互いが境界までしか掃除をしていないと、その境界にゴミが残ります。お互いが境界の50センチ向こうまで掃除をすれば、ゴミは残りません。
 ポテンヒットはテキサスヒットとも言いますが、野球でゆるく舞い上がったフライが野手と野手の間に落ちてヒットになるものを言います。「打ち取ったり」と思ったものの野手のあいだにポテンと落ちてヒットになります。
どうしても追いつかなくてヒットになるものは仕方ありませんが、お互い相手が捕球すると思い、その結果お見合いをしてしまってボールを落としてしまうのは完全にミス、チョンボです。自分の守備範囲を自分で決めて、この球は自分の球ではないと判断してしまいます。お互い声をかければ簡単に防ぐことができるミスです。
 処理できる球をポテンヒットにしてしまうのは痛恨のミスです。
 組織はどうしても縦割りになることが多くなりますから、その間に隙間ができます。その隙間の仕事をお互いが相手の仕事と思っていると、そこにポテンヒットを打たれてしまいます。
 隙間の仕事自体は大きな仕事ではないかもしれませんが、蟻の一穴、そこから大きな穴になり、修復不可能な事態になることも考えられます。事が小さなうちはきちんと対応すれば処理できる問題も、放っておくうちに次第に事が大きくなっていきます。そういうことのないよう、組織内でお互いが連携をとって情報の共有やプロセスの共有を図ることで未然に対応することができます。
 行政でのいわゆるたらい回しもその一例です。
 県民が苦情の電話をして「こんな事がありました」と説明をすると、「その件は当課では対応しかねます。○○課です」と言って○○課へ電話を回す。「○○課です」と電話に出るとまた「こんな事がありました」と説明をする。すると、「申し訳ございません、その件は△△係で承っています」と、また電話を回される。△△係でまた一から説明する、すると「今は担当者がいないのでまた後日連絡を頂けないか」……等々、電話をかけている方は、電話を回される度に一から説明をしていると次第にイライラしてきます。
 △△係につながる頃には腹が立ってきます。「担当者がいないので後日連絡を……」と言われた日には「どうなってるの?」と怒鳴ってしまうのもわかります。「あなたでは話にならん、上の者を出せ!いったいどういう指導をしているのか」という苦情になり、もともとの苦情にたらい回しの苦情もプラスされます。そして当初の苦情をしのぐ大きなトラブルになってしまうことも間々ある話です。
 隙間の課題を気づかずに放置したまま、やがて大きな事件になってから気づくと言うこともあり得ることです。
 お互い連携を密にして、簡単なことであれば聞き置いてあとで関係課に伝える、他課の内容であれば、電話を回す時に簡潔に話の内容を伝えて回す。受けた方も「こんな事での相談と承りましたが……」等々、相手の気持ちを和らげながら応対すればトラブルに至ることはないことと思います。
 学校で言えば、生徒指導部が用件を聞いておきながら当該学年との連絡がとれていなくて、担任も知らされずにいると、保護者から連絡があり「あれはどうなった」と聞かれ、「えっ何のこと?」と言うことから不信感をもたれる……といったことが起こります。
 隙間を破られてその修復にかけるエネルギーを考えれば、隙間を破られることのないよう、お互いがカバーをすることははるかに小さなエネルギーですみます。野球と同じ、声かけをすることで簡単にミスを防ぐことができます。
 隙間のない組織づくりとともに、隙間をつくらないように組織間がしっかりと連携することが大切です

服務規律の確保

 服務規律の確保は管理職が所属教職員に求めるものですが、当然管理職自身も自らを律する必要があります。勤務時間や服務規律等、法令遵守は当然のことですが、私的なことにも気を使いたいものです。
 最近はセクハラパワハラといったハラスメントも多々あります。
 ハラスメントとはいうまでもなく、いろいろな場面での嫌がらせ、いじめのことです。その種類は様々ですが、他者に対する発言・行動等が、発言・行動をした本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えることです。
 大切なことは相手がどのように感じ、どう思うかです。このことは個人個人によって違いますから細心の注意が必要です。

酒席での振る舞いに注意
 また、お酒の席も注意です。時に、アルコールが入ると人が変わる校長、酩酊して記憶をなくす校長がいます。本人がどんな状態であれ、周囲の人は校長としてみています。
 たまには酔っぱらうこともあるかと思いますが、酔いつぶれて前後不覚になるのは校長としてはまずいことでしょう。酔いつぶれてしまっていたその時に、もしも何か事が起こったとしたら、対応できません。マスコミが押しかけてきて「一言お願いします」と言われて酔っぱらって対応するなんて、とんでもない話です。酔ってマスコミの前に出ることは、絶対に避けなければいけません。酔っていること自体を非難されますし、口にする言葉も正気の発言ではありません。
 いつ何が起こるかわからない、という意識は常に持っていてほしいものです。
 口は災いのもとで、調子に乗っていらぬ事をしゃべり失敗する。失言は間々ありますが、酒の席でも覚えている人は、校長の言葉としてしっかり覚えています。
 さらに悪いのは、酔っぱらってのセクハラ、パワハラです。パワハラ、アルハラ、セクハラのそろい踏みは最悪です。そんなことにならないよう、自身をしっかりコントロールできることも大切です。
と言っても、頭ではわかってても飲んだら忘れてしまうし……、という人は、周囲の人に頼んでおくことです。自分は酔うと意識がなくなるので、連れて帰ってほしい、と言って頼んでおくことです。教頭に頼んでもいいのです。校長に恥をかかさないようにするのも実は教頭の仕事だからです。教頭がいなければ他の誰かに頼む。家に帰る自信がなければホテルに泊まる。店からすぐにタクシーに乗る等々、自分で手配をしておくことも必要です。
 酔って意識がなくなる人は本当に気をつけないと、財布をすられるくらいならまだ自分だけのことなのでいいのですが、個人情報の入った鞄を盗まれたり、痴漢だといって陥れられたり、そんなことになれば組織のトップのしたこととして、組織そのものが世間から非難されかねません。
 服務規律の確保についてはくれぐれも自分への戒めとして、何事も自重することです。

人材育成

 子どもたちのために汗をかこうとする教職員は応援してあげたいものです。それが本当に子どもたちのためになり、公平性等にも問題がなければ校長としても応援してあげることで、教職員も意気に感じて一層頑張ります
教職員の思いに耳を傾け、実現可能な提案は一緒に検討し、そしてその仕事を任せるなど、ボトムアップの手法を用いることで、教職員の意欲を喚起し、自信と達成感、成就感につなげていくことができます
 その際も、失敗したら校長が責任を持つと言い切ることで、教職員も安心して思い切って取り組むことができます。「支援する」ということは「責任を持つ」というところまで含めて支援しないと意味はありません。「応援するけど失敗したら責任は自分でとれよ」では不安でやる気もそげます。
①若い先生には具体的な指導をする
 若い先生にとって、校長先生や教頭先生は雲上人です。その方から頂く指導というのは影響力も大きいものです。若い先生が、校長から「授業がすごくうまくなったな」と言われるとそれでまた張り切って頑張ります。若い先生をうまく育てて欲しいと思います。
 ベテランが普通にこなす仕事も、若い先生にとっては大仕事です。不安を抱えながら、四苦八苦しながら取り組んでいます。そんな取り組みに対して声をかけ、感想を述べ、一言、指導・助言をすることで教師力が向上します。
 若い先生は知らないことも多いので、抽象的な指導ではなく、具体的な指導が効果を発揮します。授業では発問の仕方、指名の仕方、板書のポイント等、学級経営でも、掲示板の使い方、席替えの意義、掃除のポイント、号令のかけ方、挨拶の仕方等々、基本的な事柄についても具体的にアドバイスしてあげるとどんどん吸収していきます。
②中堅や管理職候補については、仕事を任せて育てる
 社長の一番の仕事は後継者を決めることだと言います。管理職にふさわしい人物を見出し、育てることも校長の大きな仕事です。
 見込みのある教職員には、仕事を任せて育ててほしいものです。そう大きなことでなければ、校長の考えと少しずれていても、任せた教職員の思う通りさせてやることも必要かと思います。
 そして、任せた仕事が失敗しても、部下の責任にせず、責任をとってやること。そうすれば、部下は失敗を恐れず思う存分知恵を出し、挑戦することができます。その結果、部下が育ち、組織はどんどん強くなっていきます。
「うまくいったら部下の力、失敗したら自分の責任」というスタンスで取り組んでいけば、教職員との信頼関係も強くなっていくものです。
くれぐれも逆はいけません。「うまくいったら自分の手柄、失敗したら部下の責任」。これは嫌われます。
 また、管理職を目指している人には、教頭の立場でものを見たり、考えたりできるように育ててほしいものです管理職試験の面接の場での回答でも、まだまだ発想が教諭目線という人は少なくありません
 管理職としての視点で考える力を養う方法の1つとして、「教頭・校長の椅子に座らせる」という方法があります。
 この方法はけっこう効果があります。教頭席から職員室を見渡すと、今まで見えなかったことも見えてきます。教頭席からは職員室全体が見渡せます。教頭はこういう景色の中で、常に全体の事を考えながら、事を進めていくのだな、ということが見えてきます。
 また、教頭を目指す人には、「自分が教頭ならどうするか……」ということはよく考えさせると思いますが、もう一段考え方を上げて、「ここに教頭を目指す人がいる、さて、自分が教頭だとしたら、この人に何を求めるか……、どんなことを要求するか……」を考えさせてみるのです。
 そうすれば、今自分がすべきことが見えてきます。その求めていることを為せばいいわけです。そんな声かけも有効かと思います。
 また、管理職の打ち合わせに同席させることも効果があります。管理職の多くは毎朝、打ち合わせを行っていることと思います。そこに管理職候補者を同席させるだけで大きな研修になります。

「校長を守る」のも教頭の仕事
 教頭を目指す教職員には教頭のあるべき姿も指導しておく必要があります。教頭は校長の補佐役です。目指すは最優秀助演男優賞、最優秀助演女優賞です。主役は校長であることを忘れてはいけません。
 そして「校長を守る」ことも心得ておいて欲しいことです。
 校長は学校の最終責任者です。ですから、基本的には校長が出る場面というのは最終の場面になるのが一般的です。もちろん簡単な対応では校長が出て、シャンシャン、で終わればいいのですが、何か事が起こったときは、教頭は校長の防波堤にならないといけないということです。例えば、「校長を出せ!」といってクレーマーが来たときには、まずは教頭で食い止めると言うことです。そこで、「はいわかりました。校長先生お願いします」といって代わるのでは教頭失格です
「上の者を出せ」と言われて上の者に代わるのなら誰でも対応できる話です。「校長を出せ」と言われて「校長室へどうぞ」では校長を助けるどころか、校長の邪魔をすることになります。もちろん、場合によっては、校長が出て収めることもありますからその見極めも必要ですが、簡単に代わっていたら、教頭の意味がありません。「この件は私がお話しさせていただきます」と言って、校長の防波堤になるという気構えが必要です
 職員会議で校長が糾弾される場面、クレーマーが校長を問いつめようとする場面、校長が多忙で仕事に押しつぶされそうなとき等々、校長に災いが及ばないように食い止めるのも大きな仕事です。
 また、校長の欠点をしっかり把握しておき、校長が失敗したり、恥をかかないようにすることも校長を守ることにつながります。校長が法律に弱いなら、そんな場面で恥をかかさないように「事前の確認です」と言って補足しておく、時間にルーズなら「校長、そろそろお時間です」といって催促してあげるといったフォローが有効です。
 管理職試験、特に校長試験の面接で聞かれる質問に「あなたの学校の校長の欠点は何ですか?」というものがあります。
意地悪な質問です。中には凍りついて何も言えなくなってしまう受験者もいます。どう答えていいかわからず凍りついてしまうのですが、これも危機管理の1つです。やがて、胸を張って「本校の校長には欠点は全くありません」「ホントにないんですか?」「いや、完璧な人です」と言う人もいますが、ちょっとクエスチョンです。前述のように、校長の弱み・欠点を知っていてこそ校長を助け、補佐をすることができるわけです。この質問にはそういう意図があります。決して意地悪ではなく、日頃からの姿勢が問われる質問です
 さすがに、この時とばかりに校長の悪口をいう人はいないでしょうし、もしいたら不合格でしょう。

次回「校長の心得①」は、2022年1月中旬公開予定です。

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