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第1回 職員室をみんなでつくろう

●「明日も行きたい!」学校をめざして

はじめまして。


横浜市立旭小学校で教務主任を務めている玉置哲也(たまき てつや)と申します。
このたび、「教職研修オンライン」で本校の取り組みを発信する機会をいただきました。1年間(12回)の連載です。

連載タイトルは、「とある職員室の「ああでもないこうでもない」日々――みんなでつくる公立小学校」。
なぜこんなタイトルになったのかを初めにご説明します。

先日、「未来にチャレンジしている」として複数の学校が紹介されている雑誌(一般読者向けの雑誌です)を手にとりました。確かにどの学校の取り組みもすばらしく、勉強になるものばかりでした。
一方で、この特集で多く取り上げられていたのは私立の学校です。公立の学校はあまり紹介されていないことに、寂しさを感じたのも事実です……。

私は、今年度(2024年度)で横浜市の公立小学校教員19年目となりますが、市内・外問わず、すばらしい実践、改革を行おうと日々奮闘している公立の学校、公立で働く教職員の方たちがたくさんいると実感しています。そんな公立学校の姿も、世の中にもっともっと紹介される場があるといいなぁと思いました。

そんなタイミングで、本連載のお声かけをいただいたのです。
謙遜でもなんでもなく、本校は本当に周りの公立小学校と何も変わらない学校です。
お声かけいただいたときは、「こんな先進的な取り組みをやってます!」と堂々とした成果を発信することはむずかしいから、お断りした方がよいかも……とも思いました。

ですが、俗に言う「普通」の学校である本校でも、日々、子どもが「学校が楽しい! 明日も行きたい!」という場になるように、そして教職員が「この学校は働きやすくて、学びもある」と実感できる場になるように試行錯誤する「プロセス」なら発信できると考えました。
この連載では、そのなかでも「職員室」に焦点を当てて発信していきます。

ぜひ、読んでいただいた方からご意見をいただきたいです。もちろん、批判的なご意見も大歓迎です。コメント欄にどんどん書き込んでください。できる限り返信もさせていただきます。
本校教職員の声、本校児童、保護者、地域の方からの声、読んでいただいた方からのクリティカルなフィードバックを活かして、日々試行錯誤していく「プロセス」を1年間通して「継続的に」発信します。
この連載が、それぞれの学校がどのように職員室をつくっているのかを共有したり、チャレンジしたいことの悩み相談をしたりするきっかけが生まれる場になれば、うれしいです。
1年間、よろしくお願いいたします。

●初日の内容はほとんど覚えていない!?

さて、4月の新年度です。
新年度には、「2つの初日」があると思っています。
一つ目は、基本的に4月1日に迎える新年度の教職員がみんなそろう「大人の初日」。
二つ目は、始業式・入学式が行われる「子どもとの初日」。
どちらも大切です。
ただ、昨年度から教務主任をつとめるようになってからは、「大人の初日」をとくに重要視するようになりました。そうなったのは、これまでの私の異動初日の経験が大きく影響していると思います。

私は、現任校が3校目で、今年度が4年目の勤務になります。
2校目に異動したのが7年目のときで、12年前になります。
思い返して見ると、2校目に異動したときも、現任校に異動したときも、初日は職員会議やさまざまな校務分掌の顔合わせがあり、さらに自分の机を移動する職員室の座席移動が行われたりして、まさに分刻みのスケジュール。あっという間に一日が終わりました。
2校目に異動したときは、コロナ禍前だったので、そのまま「お花見」という名の懇親会が行われました。お酒が好きで飲み過ぎてしまうという私の特性もあり(すみません)、皆さんと楽しくお話をした雰囲気だけは覚えているのですが、会話の詳細は覚えておらず……。このときも、あっという間に初日が終わったという記憶があります。

改めて思い返してみると、自分が新しい職場に異動してきた初日にいろいろと引き継いでいただいた児童の情報や学年事務、校務分掌の内容については、シャワーのように浴びせられるけど、ほとんど記憶に残っていなかったと感じています(お酒の影響を除いても)。

とくに子どものことに関しては、顔も見たことのない状況で数十人の情報を細かく伝えられても……と感じていました。
また学年事務や校務分掌の内容についても、「郷に入っては郷に従え」というような感じで、言われるがままに進めていた記憶があります。
そんな初日を終えた感想は、「ふぅ、なんとか一日終わった」と、ただただ安堵、でした。

このような経験がありましたので、自分が教務主任として年度初日の場をデザインすることになったときには、「やらなければならないこと」よりも「初日を終えた教職員のみんなにどんな気持ちになってほしいか」ということから考えるようにしました。
考えていくうちに、新しく異動してこられた方も、前年度から引き続き勤務される方にも、「この学校ってなんか楽しく働けそうかも」「1年間、楽しくやっていけそうかも」と思ってもらいたい!という願いが芽生え、そこからスタートして新年度初日の場のデザインをするようになりました。

●みんなが「自分の働きやすい職場をどうつくるか」を考えるように

私が、これまでの教職員生活のなかで最も強く影響を受けている方の一人である岩瀬直樹さん(現軽井沢風越学園校長)が、以前公立小学校で勤務されているときに、先輩にこのようなことを言われたそうです。

「岩瀬さん、いい職場をつくれない人は、本当の意味でいい学級はつくれないよ」

「いわせんの仕事部屋」https://iwasen.hatenablog.com/entry/2017/01/25/223812

若手のころ、「他のクラスよりも、先輩方よりも少しでも提案性のある実践をしよう」といろいろなことを画策していた私にとっても、これは身につまされる思いのする言葉でした。

私は、すべての教職員が、「目の前の子どもにとって、よい学級経営をしたい。よい授業がしたい」という想いをもっていると信じています。そして、横浜市立旭小学校で同僚として働く仲間を見ていると、それは確信に変わります。

だからこそ、初日を終えたときに、同僚には「この学校ってなんか楽しく働けそうかも」だけでなく、「自分のやりたいことができる職員室かも」ということまで感じてほしいと思いました。
そして、この思いを私のなかでとどめておかず、全教職員と共有して、みんなが「自分の働きやすい職場をどうつくるか」を考えることを通して、学級経営のあり方も問い直すきっかけとなるような場のデザインを始めました。

●教務主任は「つなぎ役」

ここまで読まれると、なにか教務主任である私が一人であれこれ好きに考えているように思われるかもしれませんが、もちろん学校というところは、基本的に学校長の方針のもとに動いていきます。教務主任という立場は、学校長の方針を理解するだけでなく、教職員、児童の実態を的確に捉え、教職員、児童一人ひとりが自己実現を図りながら学校長の学校運営方針を具現化できるようにするための「つなぎ役」であると考えています。

だからこそ、最も大切なことは、学校長の運営方針を誰よりも理解し、教職員と共有したり、ときには意見具申をしたりしながら、教職員一人ひとりの納得感を得られるようにすることです。

新年度初日の最初のプログラムは、学校長の方針説明です。
本校の校長は、今年度、4年目を迎える益子照正先生です。
そこで、益子校長と、春休みに新年度初日の方針説明について打ち合わせをする時間を設けていただきました。そこでは、学校教育目標具現化に向けて、次の3つの方針を打ち出されるというお考えをうかがいました。

①教職員がチャレンジすること
②地域、企業、さまざまなつながりをもち実践すること
③自分自身の取り組みを積極的に情報発信すること

いずれも、私個人としても、これまでの本校の歩みとしても、どの教職員も前向きに取り組もうと思える内容だと感じました。
他方で、「①教職員がチャレンジすること」をより充実させるために、目的(学校教育目標具現化)に合っていれば、方法(実践)はそろえる必要がないということも、初日のご説明の際に口頭でお伝えいただければとお願いし、ご了承いただくことができました。

そして、学校長方針説明の後に、私から「この1年間、私たち教職員でどのような職員室をつくっていくのか」を考えるワークショップを行うことについても、ご了承いただきました。

●教職員みんなが職員室のつくり手になる

ここで、今年度の本校の初日の主なスケジュールをご覧いただきます。

横浜市立旭小学校 2024年度初日のスケジュール


他の学校と同じような、一般的な一日に見えるかもしれませんが、太字の2つのワークショップが本校の初日の特徴ではないかと思います。

この2つのワークショップは、仕事の内容を直接考えるのではなく、「あり方を考える」時間としました。そして、このような「あり方を考える時間」を対話中心に行うことで、職員室の関係性を築くことを最も大切にした時間としました。

今月は、8:40から30分程度行った「どんな職員室で働きたいかを考えるワークショップ」についてご紹介します。

●幸せだと思う職員室は一人ひとり違う

あなたが、「この職員室で働けて幸せだな」と感じるのはどんな職員室ですか?
もちろん、人それぞれ答えは違うでしょう。

学校長方針説明の後に行った「どんな職員室で働きたいかを考えるワークショップ(30分)」のねらいは、教職員一人ひとりは違う人だから、幸せだと思う職員室も違う。だからこそ、「自分が幸せだと思う職員室」をそれぞれがつくっていくとともに、互いの「幸せ」も知って、みんなの幸せの実現に向けて支え合っていこうというマインドセットをすることです。

今回は30分という短い時間でしたので、基本的には、私がスライドを使って説明し、それを聞いてどう感じたのかについて、近くの席の人とショートトークしてもらいました。

私がみなさんにお伝えした内容は、次のとおりです。

①私は、教務主任として、ここにいる全員が「旭小学校で働けてよかった」と思ってほしいです。
②でも、そもそもよい職場って何でしょう?
③チェスター・バーナードさんの「バーナード組織の3要素」(※)の紹介
④私が影響を受けた岩瀬直樹さんの言葉
⑤岩瀬直樹さんの言葉を聞いた同僚の素敵な言葉の紹介
⑥よい学級をつくるのは誰なのかを考えましょう。
⑦⑥を踏まえて、よい職場をつくるのは誰なのかも考えましょう。
⑧では、自分にとってのよい職場とは何かを考え、近くの人と紹介し合いましょう。
⑨よい職場は一人ひとり違うことが分かりました。
⑩それをすべて叶えたい。誰かにとってよい職場をつくるのではなく、全員にとってよい職場をつくりたいです。そのために、互いを知り合い、互いの幸せに向けて支え合いたいと考えています。
⑪自分の幸せな職場をつくるのは自分自身。全員が「つくり手」になって幸せな職場を実現しましょう。そして、よい職場をつくる経験を子どもとの実践に生かしていきましょう。
(※「コミュニケーション」「貢献意欲」「共通の目標」。これも岩瀬直樹さんに教わったことをそのまま使わせていただきました)

このようなことを伝えながら、ホワイトボードに書いたり、近くの席の方とおしゃべりをしたりしながら30分間を過ごしました。皆さん、話が盛り上がり始めた頃に時間となりましたが、「本日午後のワークショップではこのことをたっぷりと楽しみながら考えたいと思います」とお伝えし、この学校長方針説明直後に行ったワークショップは終わりました。

ワークショップが終わった頃には、新しいメンバーで顔合わせをしてから約1時間が経っていました。近くの方とおしゃべりをしたり、ホワイトボードに自分の考えを書いたり、新しい仲間と交流したりすることを通して、少し皆さんの表情がやわらいだように見えました(私の自己満足でなければよいのですが)。

さて、予定の文字数を大幅に超えてしまいました。
今回は、連載第1回目ということで、ごあいさつを兼ねた内容が多くなってしまいました。
来月は、15:00より90分かけて行った2回目のワークショップの様子を細かくお伝えできればと思っています。

また、来月以降も「職員室づくり」「意思決定のプロセスの見える化」「働き方改革」を中心にお話ししていきたいと考えています。そして、私は研究主任も務めていますので、ときどき「校内研究」についても皆さんとともに考えていきたいと思っています。

お読みいただいたみなさんからのご感想を、心よりお待ち申し上げております(冒頭でも述べましたが、ぜひ批判的なご意見も!)。
みなさんからのお声を、よりよい職員室経営に生かしていきます。
1年間、おつきあいをよろしくお願いします。


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