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『GIGAスクール構想で進化する学校、取り残される学校』

 GIGAスクール構想はなぜ始まったのでしょうか。
 その意味を探るには、そもそもGIGAとは何なのかを理解する必要があります。GIGAは「Global and Innovation Gateway for All全ての児童・生徒のための世界につながる革新的な扉)」の頭文字です。ここでいう世界とは、子どもたちがこれから飛び出していくであろう世界であり、物理的に言えば外国、観念的に言えば不確定、不確実な未知の世界とも言えます。現代はまさにそのような世界になってきていると言えるでしょう。
 では、そんな世界に、子どもたちは手ぶらで、無防備に飛び出していけるのでしょうか?

 そんな現状をふまえ、文部科学省は、2020年度から本格実施が始まった新学習指導要領において、主体的・対話的で深い学びという、子どもたちに自ら考え、判断し、行動できる力が育つ学びを実現することで対応しようとしています。すべての教科等で、情報活用能力の育成を図るということもその一環です。そして、その学びを支えるため、ICT機器を整備することを教育委員会の責務としました。まさに、ここで整備されるICT機器こそが、子どもたちにとっての「Innovation Gateway」と言えるでしょう。
 しかし、新学習指導要領を検討している時点での各自治体のICT機器整備状況を見ると、自治体間格差が顕著であり、とても「for All」と言える状況ではありませんでした。そこで、文部科学省を中心に関係各省庁が手を携えて、学校のICT機器環境を整え、「for All」を実現しようと取り組んだのが、GIGAスクール構想なのです。

 さて、新型コロナウイルスへの対応に迫られ急速に加速されたGIGAスクール構想ですが、2021年度には多くの関係者の努力の結果、全国の自治体でのICT機器整備がおおむね達成されました。もちろん急ピッチで進めたがゆえの弊害はあり、けっして十分とは言えない状況もあるでしょう。しかし、これまで長い時間をかけてもできなかった1人1台の環境が整ったことは事実です。そして、学校はいよいよ、ポスト・GIGAというICT機器活用を切り口とした教育改革のフェーズに入ることになるのです。
 事実、多くの自治体、学校で導入されたICT機器を活用した学びがスタートしました。しかし、残念ながら教育改革へのスタートが切りきれない「取り残された学校」になりかねない学校が存在することも事実です。

 本書『GIGAスクール構想で進化する学校、取り残される学校』は、センセーショナルなタイトルとなっていますが、けっして学校の選別を意図するものではありません。「for All」を目指したGIGAスクール構想が、新たな格差を生み出そうとしている状況をふまえ、「進化する学校」とはどんな学校なのか、そして「取り残される学校」はなぜ取り残されるのかを、多面的に検証し、進化するための方策を考えていくことで、すべての学校が「進化する学校」となることを目指しています

 本書は文部科学省の担当者から公立学校の先生まで、数多くの多彩な教育関係者によって執筆されています。それは、GIGAスクール構想の実現を阻害する要因が、多岐にわたる複合的なものであることによります。単純な教育課題ではなく、現場の先生方の努力だけで解決できるものでもないということです。そのため、教育行政にかかわる方から研究者の皆様、そして教育現場で実際にGIGAスクール構想に取り組んでいる先生方が、この課題を解決するために本書の執筆に関わってくださいました。

 また、本書の執筆者の多くが学校管理職の経験者であることも特徴となっています。それは、全国各地の「進化する学校」では、その進化の背景に教育委員会や学校管理職の果たす役割が大きかったことによります。そこで、多くの先進的・先導的な事例から、学校管理職が主導する教育改革、学校のデザインの方向性をお示しできたと思っています。

 本書では、GIGAスクール構想が目指す、ICT機器活用を切り口とした教育改革の実現に向けて、これからの学校デザインの方向性を7章にわたって示しています。
 1章「GIGAスクールを失敗させないために」では、なぜ学校は変化しなくてはならないのか? なぜICT機器を導入し、学校DXを推進しなくてはならないのかを考え、学校経営のビジョンを明らかにします。
 2章「学校全体のICT化を進める」では、ICT機器の活用を授業だけにとどまらせず、学校という組織全体のデジタル化、すなわち学校DXのあり方を考えます。
 3章「授業・学びのICT化を進める」では、授業におけるICT機器活用のポイントを示すことで、これからの学びの姿を考えます。
 4章「成功の鍵を握る学校管理職」では、これからの学校管理職に求められるICTリテラシーを示しています。学校管理職の皆様は、1章と併せて読み込んでいただくことで、ポスト・GIGAの学校デザインをイメージしていただけるものと思います。
 GIGAスクール構想は単なる機器整備ではありません。そこで、5章「成功する自治体、失敗する自治体」では、教育委員会が果たすべき明確な教育ビジョンの策定と、それに基づく機器整備と運用計画などを考えます。
 ポスト・GIGAでは、これまで経験してこなかった新しい教育活動が求められます。そこで、6章「GIGAスクールのその先へ」では、次のステップに進むために必要なリテラシーを考えます。
 7章「これで解決! GIGAスクール1問1答」では、先行実践からGIGAスクールへの対処の仕方について考えていきます。

 このように、本書の7章にわたる構成は、GIGAスクール構想の実現を阻害するさまざまな要因を多くの先行実践から洗い出し、その一つひとつについて解決の緒を指し示すものにもなっています。できれば、1章から順に読んでいただくとよいですが、どこから読んでもお役立ていただけるように構成されています。

 また、本書は教育にかかわるすべての皆様にご活用いただけるような内容を目指していますが、学校管理職、教育行政にかかわる皆様にとっては、今後の学校経営ビジョン策定においても参考にしていただけるものと思います。つまり、本書で「デジタル化された学校とは何か?」「学校DXとは何か?」というイメージをつかんでいただくことが、今後の学校経営に活きていくのです。さらに、本書によって、各学校のミドルリーダー、ICT活用のリーダーである先生方が、あるべき学校像をイメージし、さらなるステップアップにつなげていただければ嬉しく思います。

 本書はICT機器を活用した授業づくりやICT機器の操作を学ぶことを目的としたものではありません。本書が目指すのは、GIGAスクール構想を切り口とした教育改革であり、テクノロジーに支えられた学校DXの実現です。変化する社会のなかで、学校は進化し続けなければなりません。GIGAスクール構想によって、その基盤は整備されました。ここからが、私たちこの国の教育にかかわる者の出番です。本書が、日本のすべての学校が「進化する学校」となることへの一助となることを願います。
               編者 平井聡一郎(『はじめに』より)

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