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学校づくりのスパイス~異分野の知に学べ~

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学校のリーダーシップ開発に20年以上携わってきた武井敦史氏が、学校の「当たり前」を疑ってみる手立てとなる本を毎回一冊取り上げ、そこに含まれる考え方から現代の学校づくりへのヒントを… もっと読む
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2022年3月の記事一覧

#24 なぜ数値化しないと気がすまないのか?~ ジェリー・Z・ミュラー『測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』より~|学校づくりのスパイス

 今回はジェリー・Z・ミュラー『測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』(みすず書房、2019年)を通して、学校教員を悩ませ続けてきた数値評価について考えてみたいと思います。ミュラー氏はヨーロッパの知性史や資本主義の歴史を研究する歴史学者ですが、医療、警察、軍、ビジネス、慈善事業などのさまざまな領域において、数値測定の圧力が強まった背景と影響について、歴史的な視点も踏まえつつ横断的に迫っているのが、この本の特徴です。 「測定執着」という視点 「学校が子どもの全人

#23 アニミズムの復権~宇根豊『農本主義のすすめ』より~|学校づくりのスパイス

 前回は、今後の世界の変化のなかで、大多数の個人が社会のなかでの経済的・軍事的有用性を失う一方で、個々の人間は主観的幸福感を求める傾向が強まるであろう、というハラリ氏の未来予測を紹介しました。今回は宇根豊氏の『農本主義のすすめ』(筑摩書房、2016年)をもとに、教育と「幸福」の関係について考えてみたいと思います。地方に移住して農業を志す若者が増えているというニュースを最近よく目にするようになりましたが、そうしたトレンドの背後にある人生観を考えるうえでも本書の提示する視点は示唆

#22「禁断の問い」に向き合うとき~ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス』より~|学校づくりのスパイス

 今回取り上げる著作はユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス――テクノロジーとサピエンスの未来』(河出書房新社、2018年)です。以前取り上げた同氏の『サピエンス全史』は人類の過去を扱った作品ですが、今回は歴史学的な理解を基盤に人間の未来を描いてみせた刺激的な作品です。  タイトルを見て「ホモ・デウス」って何だ?と思った人も多いと思いますが、これは氏の造語で、神格化された人間のことです。氏は今後「人は神を目指すようになる」と予見します。なぜそのように考えられるのでしょうか?