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学校づくりのスパイス~異分野の知に学べ~

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学校のリーダーシップ開発に20年以上携わってきた武井敦史氏が、学校の「当たり前」を疑ってみる手立てとなる本を毎回一冊取り上げ、そこに含まれる考え方から現代の学校づくりへのヒントを… もっと読む
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記事一覧

#33 学校と地域を「発酵」させよう~ 小倉ヒラク『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』より~|学校づくりのスパイス

 「社会に開かれた教育課程」に表現されているように、学校の学びと地域社会との関係が強まりつつあります。けれども一口に「地域」といっても、その意味するところは千差万別です。私たちは「地域」なるものをどのように捉え、教育活動のなかで活かしていけばよいのでしょうか? 今回はこの点について、「発酵デザイナー」の小倉ヒラク氏の『発酵文化人類学――微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎、2017年)を手かがりに考えてみたいと思います。 「制限」がはぐくむ創造性 この本は「発酵」という肉眼

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#32「転移」のヒントここにあり!~ 増田奏『住まいの解剖図鑑 心地よい住宅を設計する仕組み』より~|学校づくりのスパイス

 今回取り上げるのは建築家の増田奏氏の著書『住まいの解剖図鑑――心地よい住宅を設計する仕組み』(エクスナレッジ、2009年)です。この本は住宅設計という読者対象の限られたテーマを扱いながら、2009年に初版が刊行されて以来、現在までに23刷を重ねています。イラストを多用して「なるほど!」とうなずきながら、普通の家を新たな目線で見ることができるように読者を誘う工夫が、随所に凝らされているのが本書の魅力です。  そしてここには、学校教育の難題にアプローチするヒントが隠されている

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#31 不寛容社会に抗う力~帚木蓬生『ネガティブ・ケイパビリティ』より~|学校づくりのスパイス

 「日本はなぜ、これほどまでに人の過ちや欠点を責め立てるケチくさい社会になってしまったのか?」――これは筆者がマスコミの芸能人報道や失言追及、不祥事のバッシング等を目にするたびにいつも感じていることです。  もちろん筆者も含め、誰もが自分の考えていることはまともだと思っているし、人と衝突すれば相手を批判することもあります。けれども、自分と異なる考えを持つ者との対話の意思のないところに成立しているような「正義」は、人を傷つけるだけで何もよいことはありません。「自粛警察」はその

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#30 今こそ尖った教育論を!~ 森本あんり『異端の時代 正統のかたちを求めて』より~|学校づくりのスパイス

 コロナの感染拡大が国内では少し落ち着きましたが、その波紋は今後とも続くでしょう。学齢期の子どもが学校に毎日登校して学ぶことは自明ではなくなり、オンラインを活用した学習の可能性も拓かれました。そして同様の事態が再び起こりうるとなると、その課題は危機対応だけには収まりません。従来の「学年主義」「履修主義」の前提を一度括弧に入れて、公教育全体を再デザインする必要が出てくるはずです。  こうした時代の転換期にあって、柔軟で足腰の強い議論を展開するために必要なのはどんなことでしょう

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#29「かけがえのなさ」の危機~竹下文子(文)、町田尚子(絵)『なまえのないねこ』より~|学校づくりのスパイス

 今回取り上げるのは竹下文子氏と町田尚子氏による『なまえのないねこ』(小峰書店、2019年)という絵本です。本文だけならおそらく1千字にも満たないこの本は、絵本に関するたくさんの賞を受賞し、ネットの評価を見てもすごい人気です。その背景には単なる「ネコブーム」では片づけられない普遍的な社会課題が潜んでいるように思います。  ちなみに、筆者の竹下さんは静岡県の下田市在住だそうです。筆者も仕事でときどき下田に行くことがありますが、町を歩いていると、港町のためか路地裏などにたくさん

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#28 何がオンラインではできないか?~ 山極寿一『スマホを捨てたい子どもたち野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』より~|学校づくりのスパイス

 新型コロナウイルスの感染拡大が学校現場に影響を与え続けています。もちろん感染が早く収まるに超したことはないのですが、一方で学校から見るとプラスに作用するような要素も少なからずあります。  たとえば何とか児童・生徒の学習を保障しようと、全国各地の教育委員会ではオンラインを活用した取り組みが始まり、これまで困難といわれてきたことでも、工夫次第で一定の成果を得られることも明らかになってきました。まさに「窮すれば通ず」です。  さらに普段は学校に行きづらかった児童・生徒がオンラ

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#27「内向き」キャリア教育のすすめ~ダニエル・ネトル『幸福の意外な正体』より~|学校づくりのスパイス

 公教育の目的としての「幸福」への注目が世界的に高まっています。『教職研修』2020年4月号でも特集が組まれましたが、子どもが生涯にわたっての幸福な人生を送れるように支援することこそ、多くの教師にとって本懐であるはずです。  ところがこの「幸福」という概念は、科学的に扱うのが非常にやっかいです。「自分がどの程度幸せと思っているか」という主観の問題として考えれば事は単純ですが、それならば独裁国家のように「自分以上に幸福な人を見せなくする」ことや、もっと単純に薬物の投与によって

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#26 まじめに遊びを考えよう~ 為末大『「遊ぶ」が勝ち』より~|学校づくりのスパイス

 2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、一昨年度は多くの自治体で休業期間が短縮されたり、ステイホームの影響で登校や、屋外での活動に制約がかかったりといった事態生じました。  子どもの日常が解体されたときにまず話題になったのは学習の遅れです。教育関係者が「夏休みのような長期休業がなくなるのは残念だけど、児童・生徒の学習は犠牲にできない」と考えても無理はありません。  けれどもその一方で、「遊び」の喪失についてはとかく見落とされがちです。子どもの成長にとっては、

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#25「捨てる技術」の時代~ 羽生善治『大局観 自分と闘って負けない心』より~|学校づくりのスパイス

 新型コロナウイルスの猛威が学校現場にも大きな陰を落とそうとしています。この原稿を書いている2020年4月上旬の時点では影響がどの程度長引くか見通しが立っていませんが、学習指導要領に定める授業時数を年度内に消化することができない学校も少なからず生じるはずです。  そうした局面での学校の課題は、大状況を俯瞰して現場レベルで活動を取捨選択して再組織化することで、児童・生徒に対する教育的効果を最大化することです。今回はこうした大局をつかむ知の働きについて、将棋の棋士の羽生善治氏に

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#24 なぜ数値化しないと気がすまないのか?~ ジェリー・Z・ミュラー『測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』より~|学校づくりのスパイス

 今回はジェリー・Z・ミュラー『測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』(みすず書房、2019年)を通して、学校教員を悩ませ続けてきた数値評価について考えてみたいと思います。ミュラー氏はヨーロッパの知性史や資本主義の歴史を研究する歴史学者ですが、医療、警察、軍、ビジネス、慈善事業などのさまざまな領域において、数値測定の圧力が強まった背景と影響について、歴史的な視点も踏まえつつ横断的に迫っているのが、この本の特徴です。 「測定執着」という視点 「学校が子どもの全人

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#23 アニミズムの復権~宇根豊『農本主義のすすめ』より~|学校づくりのスパイス

 前回は、今後の世界の変化のなかで、大多数の個人が社会のなかでの経済的・軍事的有用性を失う一方で、個々の人間は主観的幸福感を求める傾向が強まるであろう、というハラリ氏の未来予測を紹介しました。今回は宇根豊氏の『農本主義のすすめ』(筑摩書房、2016年)をもとに、教育と「幸福」の関係について考えてみたいと思います。地方に移住して農業を志す若者が増えているというニュースを最近よく目にするようになりましたが、そうしたトレンドの背後にある人生観を考えるうえでも本書の提示する視点は示唆

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#22「禁断の問い」に向き合うとき~ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス』より~|学校づくりのスパイス

 今回取り上げる著作はユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス――テクノロジーとサピエンスの未来』(河出書房新社、2018年)です。以前取り上げた同氏の『サピエンス全史』は人類の過去を扱った作品ですが、今回は歴史学的な理解を基盤に人間の未来を描いてみせた刺激的な作品です。  タイトルを見て「ホモ・デウス」って何だ?と思った人も多いと思いますが、これは氏の造語で、神格化された人間のことです。氏は今後「人は神を目指すようになる」と予見します。なぜそのように考えられるのでしょうか? 

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#21 リーダーシップの陥穽~鷲田清一『しんがりの思想』より~|学校づくりのスパイス

 学校のリーダー養成が強調されています。チーム学校、社会に開かれた教育課程、コミュニティ・スクール等々、今日の学校の抱える課題は、教員個人の力量だけでは手に負えないことは明白です。そして学校が組織として機能するためには、学校管理職等がリーダーシップを発揮しマネジメント体制を強化していくことが必要である、というわけです。  さて、リーダーの重要性は言うまでもありませんが、それだけでただちに学校がよくなるというものでもありません。児童・生徒と直接関係するのが個々の教員である以上

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#20 学校組織の「余力」を考える~長谷川英祐『働かないアリに意義がある』より~|学校づくりのスパイス

 イソップ童話を持ち出すまでもなく、アリにはいつもせわしなく動いているイメージがありますが、実際には働きアリの7割は休んでいて1割は一生働かないといいます。  このことを知っている人もいるかとは思いますが、では、「いったい何のためにそのようになっているのか」と問われてきちんと答えられる人は少ないのではないでしょうか?  この謎に迫っているのが進化生物学者である長谷川英祐氏による本書、『働かないアリに意義がある』(山と溪谷社、2021年)です。今回は本書を手がかりに学校組織

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