〔戯曲を稽古して通してみようの会〕全員稽古場日記/顔合せ編(part 2)

「背信」稽古場日記を全員で書いてみようという企画。
先日行われた顔合せの全員稽古場日記、そのpart 2です。

(part1はこちら

※掲載は原稿到着順です。

【松浦志帆】

1/16(月)
■稽古場日記 第1話
「エメラルドとコーンスープ」の巻

今日は顔合わせ。仕事を無事に切り上げ、ウキウキしながら稽古場へ向かう。「きっとこれから素敵な出会いが待っているわよね、ふふ!」ヒロインモード、スイッチオン。
・・・だったんだけど、稽古場の扉をあけた瞬間、目が覚める。もう交流はじまってるぅ。結構知り合い同士も多いのかなー。あ、あそこははじめまして同士か。なのにもうそんな仲良いいのか!!ひょー・・・

おどおど座りながら、台本をファイルから出してはしまい、机に置かれていた紙の端を何度も何度も揃え、水を飲む。喉は乾いていない。しばらくして、隣に座る同じ場面に出る方々にエイっと声をかけてみる。が、私、何かキョドウフシン?!ちょ、待って!違う!挽回させてー!!と思ったところで全体の号令がかかる。あー・・いや、助かったな。

上野さんから稽古場ルールなどを話された後に、自己紹介タイム。皆さん自己紹介から既に面白い。たくさん笑ってしまう。へへ。楽しい。

そして休憩後、いよいよ本読みがスタート。ドキドキ。
文字だけだと何てことなかった台詞も、言い方の妙で笑いが起きたりする。すごい。
私と同じエマ役は、他に5人いるのだけど「私もこんなエマやりたい!」と思ったり、「そのアプローチも面白い!」と思ったり。エメラルドみたいな声の方もいて―深みがあって艶があって、一言発するだけで輝きを放つというか―ビシビシ刺激を受ける。刺される。
自分の番は、ガチガチに緊張してしまったな…(もっと言うと今回ミッションとして与えられていた「5場以降のト書きを読む」のがより緊張してしまった)。でも、私が出る4場は作品全体の分岐点だし、希少な3人の掛け合いも、女性が演じるロバートとの夫婦役もどうつくっていくか楽しみ。

本読み後には、作品についてディスカッション。「エマは言っていることとやっていることが全然違う」「ロバートってサイコパスみがあるよね」「ジェリーは道化的な役割?」などなど。私のお隣に座る、村山さん(私と同じく4場のロバート役)は古典作品がお好きらしく、作品について熱く語る姿がキラキラしていてステキ。
ここからは場面ごとの稽古になるけど、2月にまた全員が集まった時、作品全体をどう見せられるか。楽しみ。がんばろ。
帰り道、色々と反省はあるものの、自販機で買ったコーンスープがじんわりしみ渡った(最後までコーン食べようと格闘したのは内緒)

【小川結子】

1月16日(月) 顔合わせ 

3場エマ役小川結子

集合前、ほんとはヨガにいって身体を動かしたかったが、雨が降っていたし、気圧の日?と聞くと、そう、だというので頭痛も確かだった。だからコーヒーをちょっと大きいサイズで飲むことにした。稽古場近くのカフェでコーヒーとその店人気のシュークリームを購入、店内で過ごした。しっかりした生地と生地の間にたっぷりめのクリームが挟まるシュークリームはフォークで食べるのが難しく、(私はそもそも食べるのがとっても下手。)隣の人がどんなふうに食べているかとりあえず観察した。

――今回稽古するハロルド・ピンターの『背信』を久しぶりに一読したのは1月2日。この話は逆再生展開で時間を遡って進んでいくので、読者/観客は登場人物たちの間で起こる出来事や結末を先に知ることになる。(上野さんは逆サスペンスという言葉を使っていて、いいなと思った。) 俳優はどこでどの程度情報をひっかけて提示していくか考えようがあると思った。キーワードになりうる「物と場所」の思い出・思い入れも今のうちに整理しておきたい。戯曲のポイントに色分けした付箋を貼り、登場人物の関係性ごとに年表を時系列で整理した。この作業は今までやったことはなかった。
そんなあとでやはり気になるのはこの戯曲のテーマ。まず私の好きな場面にこういうのがある。エマが劇中読んでいる本の内容について夫ロバートと話すシーン。

エマ「この小説のテーマは何だと思ってるの?」
ロバート「背信だ。」
エマ「いいえ、それは違う。」
ロバート「そうかね?じゃ何だい?」

…『背信』のテーマは背信ではない??? 

もう一つ好きなところはエマと不倫相手のジェリーのシーン。

エマ「つまり何が言いたいの?」
ジェリー「僕は何も言いたくなんかない。」
エマ「でも、あなたは何を言おうとしているの、そんなことを言って?」

…言葉の裏の意図を探ろうとしているのがよくわかる。お互いがひっかかることはなんなのか、それを相手はどのくらい分かっていないのか、2人のズレを読んでいて楽しい。
挙げた2箇所は作家から読み手へのメッセージのようだ。人物目線だったカメラが一瞬俯瞰に切り替わるみたいで、台詞の意味が二重三重に思えるのが好き。『背信』は人からものにフォーカスしたり、時空がぼわんってなったり、カットが変わったなと感じる瞬間が多くある。演劇で表現するのは難しそうだけどこのイメージを持っていたい。
まあでも作家がピンターだということを考えると、ほんとは特別なメッセージなどないかもしれない。ただ匂わせているだけ?とにかくおしゃれ。

――顔合わせ前のカフェでコーヒーを飲みながら、なぜロバートとエマは別れることになるのか、一番気になっている点について巡らせる。ひっかかる台詞について考える繰り返し。私なりの仮説が立ち、今までの解釈より進んでちょっぴりアガる。別のピンター作品の印象も頼りにしていたけれど、そっちに引きずられすぎていたなと気づく。不倫相手ジェリーに対する新たな複雑な気持ちも生まれた。
それから読み合わせの目標を立てる。
・作家(翻訳家)が指定している 、。… ー や、ト書にある「間」と「沈黙」を使い分ける。(全ての記号やト書の意味を一度仮決めして書かれている通りに読むと、役が何に重きを置いているか見えるような気がする。)
・シーンの中で不在の人を意識する。

――本読みが始まった。相手役の方は共演経験はないがお知り合い。芝居への取り組み方がひたむきで決して誇示しない素敵な方。台詞のベクトルや音量の使い分けに色気を感じる。(それにしても、出会いよりも別れに色気を感じるのはどうしてだろう…?) やり取りのリズムの創り方で息が合う感覚が既にあって感謝感謝。良い意味でここから裏切っていけたらいいな。
女性役の書き言葉が口に馴染まない。どうせ喋れるようになってしまうのだが、自分の言葉に落とし込む前にこの違和感は忘れたくない。人が書いた言葉、翻訳された言葉、別の人物が話す言葉、ということ。
今回の企画、同じ役を時代ごとに分担して数人で演じる。聞いていると特にエマ役が段々若がえる感じが引き継がれていって面白い。それからもっとエマは嘘をついてもいいのではと感じた。劇中ジェリーが記憶が曖昧だと指摘されることが多く、彼はとにかく「今」が一番大事だからだと読んでいるが、実はエマが話す記憶の方が全部嘘だったりしてね。

――読み合わせ終了。今日は自分の解釈を共有しなかった。話してしまうと自分の中で固まってしまいそうで…。でもこれからはなるべく考えたことを話していきたい。
立ち稽古に向けて、『背信』の背、背中をどのタイミングでどこに向けるのか、色々試したくなった。

おしまい。

【村山恵美】

***

1/16(月)

ロバート「僕は昔からジェリーが好きなんだ。実を言うと、昔から君よりもやつの方が好きな位なんだよ。」

まずは、この部分を意識して読んでみたらどうだろうか…。うーん。

私は女性ですが、今回はロバートの役をやらせて頂きます。そのために、自分の役と、そして相手役と、どのように関わっていけるか、少し考えていました。
実際に読み合わせてみると、ジェリーを取り合っているような構図になって
、これはこれでちょっと面白いような気がしました。
けれど一方で、エマへの愛も必要だと感じました。
親友のジェリーが好きで、エマのことも愛している。
第八場でジェリーが言うように、
「これはみんな、馬鹿にしちゃいけないことだ。」
ということなんでしょうか。
今回は上演するわけではないので、男性だと説明するような演技は削ぎ落としてしまっても問題ないのかなと思っていますが、稽古をしていくうちに考えが変わるかもしれません。たとえば瞬間的に、なんらか男性らしさを使おうとしているみたいなことも、ありなのかも。それが男性には見えなかったとしても。
エマ役の松浦志帆さんとは初対面で、第一印象からやわらかい雰囲気があって、これからどんな夫婦になっていけるのか、楽しみになりました。
ジェリー役の小口隼也さんとも初めてお会いしました。しゅっと、さらっとしていて、そしてどことなく、つれない感じがして、読み合わせていて面白かったです。
また、私たちとは違うシーンの俳優さんたちも、個性的で、わくわくしました。

読み合わせ後、感じたことを言い合いました。
戯曲を読んでいて、不可解なことはいくつかあったのですが、みなさんのお話をきいて、
たしかにそこもおかしいですよね…。と謎が深まってしまいました。
ただ、演じる時には、どうしてそれを言うのか、わからになりになにか理由をつくります。
でも、ピンターさんの作品はリアリズムとしては描かれていないんですよね。(ですよね?)

訳者解説に、こう書かれています。
“旧来のリアリズム劇は、登場人物の行動だけでなく、なぜその人物がそんな行動をするのかも―つまり、行動の前提となる動機や理由をも――示すのが普通だった。だから、古風なリアリズム劇は《分りやすい》ものだったのである。しかし人間には、他人の行動を認識することはできても、行動の動機や理由を理解できるとは限らない。ある行動を選ぶ当の人物にとってさえ、自分がなぜそんな行動をしたのかが分らないことがある。”

理由をつけてしまうことで、“自分がなぜそんな行動をしたのかが分からない”といった余白を失くしてしまうかもしれません。『背信』の面白さを味わうために、その点、注意深く読み解いていきたいなと思います。

私も、なんで稽古初日にあんなペラペラ喋っちゃったのか。なぜそんな行動をしたのかわかりません。ごめんなさい。この文章もずるずる長くなってしまいました。

ともかく、今回参加できてとってもうれしいなと思った稽古初日でした。
みなさまどうぞよろしくお願いいたします!

***

【松下仁】

大きな書店に行けば台本くらい簡単に手に入るだろうと余裕こいてたら、ジュンク堂にも三省堂にも紀伊国屋書店にもありゃしねぇ。
じゃしょうがねぇってんでAmazonで買おうと思ったら数千円もしやがるじゃねーか。こん畜生。

定価販売のモノをなんとか注文したがこりゃ「お取り寄せ」ってもんで未だに届きやがらねぇ。泣く泣く上野さんにすがりつき、お手を煩わせ読ませて貰う。
届く頃には全部終わってんじゃねぇかと悲しい…

台本入手に手間取ってセリフ覚えのタイミングが俄然遅れてしまい、かなりヒヤヒヤしてる。それに相変わらずセリフ覚えってのは苦行だ。
訳された言葉に違和感を感じて戸惑い、意味を汲み取れないところにイライラして余計疲れる。

そんなこんなで顔合わせ当日。カラオケでうんうん唸りながらセリフ覚えつついざ稽古場へ。

あ、なんか人がいっぱいだ…
そうかこんなに沢山いるのかそうだった…
そして…エネルギーが…満ちている…

そんな空気の中を歩み…
着席。と。

1人で覚えてるセリフは辛かったけど人と合わせるとやっぱ楽しかった。演じるのは楽しい。

【國崎史人】

1/16

曇り

本日はハロルドピンター作、[背信]をやってみよう企画の初日でした。
上野さんはじめ、何人かはお久しぶりの方々がいて、心強く感じました。ハラスメントや感染対策など諸々の説明を終え、読み合わせへ。

この戯曲は進めば進むほど、時間は遡っていくという特殊な構造を持っていきます。さらにかなり余白の多い作品であり、自分一人で、文字として読んでいるだけでは、掌握しきれない部分がたくさんあります。しかし、人が声に出して読むのを聴くと、たちまち立体的に立ち上がり、とても発見が多かったです。そして、人によっての個性が非常に際立つなぁと感じました。

実は僕は、ピンターのダムウェイターという作品を、学生時代、少しだけ演じたことがありました。それ以来、その作品が生涯で一度はやったみたい作品になったのですが、この[背信]も会話の緊張感、独特の回りくどさ、言葉のライド感がある作品だと感じました。

とはいえ、自分が演じるシーンは逆にあまりにストレートな求愛のシーンでなんとも落差が激しい作品だとも感じます。あんなに激しいシーンを演じたことがないので、とても不安ではありますが、、、笑笑

あと、セリフがかなり長くて、複雑なので覚えられるかな、、、、

不安な部分は多いですが、なんとか食らいつきたいと思います!

【市原文太郎】

「背信」稽古場日記①

公私共にお世話になっている上野さんが開催している戯曲を読む会の顔合わせ&読み合わせに参加。

せっかく参加するのだから、合流前に戯曲読んどこ、と思って池袋の某大手書店に。最近の買い物は基本ネットでぽちりなので、いざ街で買い物をしようと思ったら、どこに行けば良いのか全くわからなくなってしまってる悲しい現実に直面すること多数。でも、本屋さんは裏切らない。本は本屋。本屋に行って、目的の本以外も数冊買っちゃう。古本屋も好き。本とCDは実店舗で買うのが好きです。そのうちレコードにも手を出したい。。ていうかなんなんだ実店舗って。そんな言葉はなかったと思うけどなー、子供の頃は。

ま、結局、本屋になくてネットで買ったけど。

手に入れた戯曲を読んでみるんだけれども、読み合わせでみんなが読んでいるのを聞いていると一人で読んでた時には気づかなかったことが色々浮き出てきて、今更ながらやっぱり戯曲ってそういうもんなんだなと。ひとりで黙々と読むのももちろん楽しいのよ。少なくとも、電車の中で読んでいて、キリが悪くてそのまま歩き読書してしまうくらいには。先日の小雨のせいで、数ページがふにゃふにゃのパリパリになってしもた。それでもね、読み合わせてみると今回公演はないとはいえ、もう楽しいもの。

今回の参加メンバーに知り合いがとても多くて、久しぶりにご一緒できるのも嬉しいし、はじめましての俳優さんたちとご一緒できるのもまた嬉しい。

読み合わせ後にみんなで感想を語り合う時間を設けてもらったのだけど、みんなの発言を聞いているのが興味深くて、黙って聞いて一言も発言しませんでした。ごめんなさい。

最後に改めて自己紹介。市原文太郎です。「ぶんちゃん」とか「ぶんさん」と呼ばれることが多いです。稀に「ぶんぶん」と呼ぶ人もいます。俳優の他には服を売ったり、演出部や大工をやったりもします。WEBサイトや野菜作ったりもします。趣味寄りの特技として山に登ります。大阪出身ですが四国、特に高知が好きです。

【小口隼也】

ハロルドピンターの「背信」を稽古場で通してみよう、という今回の企画に呼んでもらい初めて「背信」を読んだ。
一つの台詞をとってみても、色々な解釈ができて難しい。けれど面白い。普段、生活の中で無意識でやっている事が詰まってるんだろうなぁ、と思った。
無意識にやってることだからいざやれ、となると難しいんだと思う。
顔合わせの日に見た「醤油カツ丼」はいつか食べたい。

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