西九州新幹線雑感

す今年開業した西九州新幹線に乗ってみた。
GW中で指定席が満席だったので自由席利用だったが、拍子抜けするほど空いていた。

博多~武雄温泉


今まで走っていた特急かもめの車両が、そのままリレーかもめになっている。見た感じ以前と変わらないように感じるが、実際は本数が減っている。コロナ禍での減便から毎時1本程度になっている。国鉄分割民営化以降、JR九州は、県庁所在地間の特急を短編成で毎時2~3本運転し、長崎へも2本は走っていた。観光客が多いのに、長崎への需要が減っているのだろうか?不安を抱えたが、後でそれが本当に懸念材料であることが分かる。

14:54分博多発のリレーかもめに乗り込む。指定席が売り切れていたので自由席を利用したが、自由席もそれほど埋まっておらず、十分座れる。GW中は、自由席は座れないのが当たり前だったのに。まだ旅行客は戻りきっていないのだろうか?

発射すると、鹿児島本線内はノロノロ運転。まるで朝の通勤電車。九州新幹線が開業して、九州の大動脈である、博多~鹿児島中央の特急がまるまる新幹線に移行しても鹿児島本線は過密路線である。しかもJR九州発足以来、福岡県内の鹿児島本線は駅が増え続け、今や路面電車並に駅間の短い区間まである。博多駅から鳥栖方面の鹿児島本線は、快速が毎時1〜2本、普通が4本、特急が4~5本という過密ダイヤである。各駅停車が前を走るのでどうしてもノロノロ運転になる。西九州新幹線で一番必要な区間は博多~新鳥栖だろう。鹿児島本線のこの区間(博多~久留米)の輸送密度は68,589もある。
鳥栖から長崎本線に入ると、最高時速130kmで快調に飛ばす。長崎本線は、特急と普通がそれぞれ毎時2~3本走る。この程度なら普通列車がつかえて特急がノロノロ運転することもない。鳥栖~佐賀の長崎本線の輸送密度は31,420。本数と輸送密度で言うなら、佐賀県内は現状維持が最も収益性、利便性が高いだろう。あえて高い建設費を払って新幹線を作る必要は無いという佐賀県の言い分も当然である。

佐賀駅を過ぎても快調に飛ばす。しかし佐賀~江北の輸送密度は21,430に下がるので車内も空いてくる。博多から佐賀までの利用者も多い。逆にリレーかもめに乗る人は減るのでこの先新幹線は乗る人が少ないのではないかと感じる。お客も座席が半分埋まる程度しか乗っていない。
途中の江北駅を過ぎると佐世保線に入る。
佐世保線は特急が毎時3本、普通が1~2時間に1本と本数が減る。一部単線区間があり、ここで減速、信号待ち停車もある。
佐世保線の江北~早岐間の輸送密度は6,463。かなり少なくなる。西九州新幹線の連絡線として活用され、輸送密度は上がるのだろうか。列車本数が少ないから今は問題ないが、武雄温泉駅付近の単線区間は今後ボトルネックになるだろう。

結論
博多~武雄温泉間は新幹線が必要。むしろ今の開業区間より、リレーかもめ区間の方が輸送密度が高いので新幹線が必要。ただし佐賀県にとっては、高い建設費を払っても主要駅の佐賀駅からは、現行特急と大して時間が変わらないので建設費を出させること自体無理だ。これは、博多南線区間が時速120km制限になっていること、福岡県境にある筑紫トンネル付近に急勾配があることでそれほど速くならないのも大きい。対博多ではなく、対大阪の需要取り込みをすればメリットがあるが、この辺り、国もJRも佐賀県に全くメリットを示せていないと思われる。九州新幹線で一人勝ちした鹿児島は、山陽新幹線区間からの集客に成功した。佐賀県でも山陽新幹線区間からの集客を見込めるはずだ。

また、この区間を未だにフリーゲージトレインや新幹線にこだわっている人たちも存在する。フリーゲージトレインは、技術的に不可能と結論が出ているので、いつまでも蒸し返すべきでない。ミニ新幹線も不可能である。これはミニ新幹線にするには輸送密度が高すぎて運休して代替バスを走らせること自体不可能である。山形新幹線や秋田新幹線は、一番輸送密度が高い米沢~山形間でも11000程度である。リレーかもめ区間は、佐世保線以外はこれよりかなり多い。ミニ新幹線は工事もできず、輸送力も小さすぎて適切ではない。

西九州新幹線(武雄温泉~長崎)

武雄温泉で降りると目の前に新幹線が停まっている。数秒で乗り換えできるが、意外にも列車の写真を撮る人が多い。明らかに鉄道ファンという感じの人ではなく、普通の人。あまり乗り物に興味がなさそうな女性もたくさん写真を撮っている。鉄道ファンというより、SNSに載せるためだろう。3分の乗り換え時間も写真を撮る人には短いかもしれない。6両編成の新幹線は、先頭に行って写真を撮るにもちょうど良い。

車内は木を使った内装がJR九州らしい。他のJRでも使っているN700系だが、オリジナル感がある。JR九州の車両は照明を落として落ち着いた雰囲気にすることが多かったが、これは明るい。JR東海の車両を思わせる。シートの生地もあって、全体に黄色い感じの雰囲気。
走り出すと加速がよく、すぐに最高速度に到達する。佐賀県内は、多くの新幹線と同様にトンネルだらけで地下鉄のよう。しかし長崎県に入ると、大村市付近は地上を走る。大村市内では海が見える。
海が全く見えない東北新幹線以降、新幹線はトンネルばかりだが、最近の新幹線で海が見えるのは珍しい。それも多島海の美しい景色。海の見える新幹線区間でも特にお勧めの良い景色の区間だ。
同じ九州には、新八代付近から天草諸島、出水付近から東シナ海が見え、九州の新幹線は車窓に恵まれている。九州各都市を新幹線で巡る旅も景色を楽しめる。
新大村、諫早と停車するが、利用者は少ない。これは、新幹線が毎時1本に対し、普通列車は毎時2本以上あり、新幹線を待つなら普通列車に乗った方が早いことが多いのも影響しているだろう。新大村~長崎なら、新幹線16分、普通列車乗り継ぎで1時間10分。1時間近く待って新幹線に乗ると、普通列車と大して変わらなくなる。
距離が短すぎて長崎などから短距離移動するには新幹線の高速性が活かされないのと、本数が少なく利便性が落ちるから新幹線利用者が少ないのだろう。駅周辺は新興住宅地で、それなりの利用者がいそうだが。駅が簡素な造りということもあり、新幹線の駅と言うより、大手私鉄の特急停車駅という感じだ。
諫早を出ると長いトンネルが続き、トンネルを出るといきなり長崎市街で、すぐに長崎駅到着。武雄温泉から24分。あっという間だった。それもそのはず、西九州新幹線全線通しても、東海道新幹線の米原~京都の1駅間よりも短い。米原~京都間に駅が3つあるようなものだから、余計に私鉄特急のように感じる。

長崎駅が残念

好印象の西九州新幹線を降りて長崎駅改札に向かう。エスカレーターが長い。コンコースはレンガ造りで長崎らしい。しかし観光都市、ゴールデンウィークなのに人が少ない。

駅の造りや規模は金沢駅に似ている。改札を出て正面はコンビニや土産物店、飲食店街が高架下に入っているのは同じだ。観光地の駅というのも同じ。休日の夕方から夜は、近県からの日帰り観光客で混雑する。金沢駅、京都駅によく見られる。しかし長崎駅は明らかに違う。近県からの観光客が少ないのだろうか?興味深く新しい長崎駅を歩き回ると、どうやら出口は東側1箇所。西側は出口のようなものはあるが、隣接するホテルに行く専用出口のようで、ホテルから道路側に出ても歩道がなく、駅の外には出られない構造になっている。
南側は、長崎港、県庁、県警がある。しかし南側には出口がない。唯一出口がある東側に出るといきなり壁。右側に駅ビルのアミュプラザがあるから、ここを通って電車通りに出ようと思ったら、駅と駅ビルがつながっていない。結局壁を左側に行くしかない。

その左側も、駅の博多寄り北端まで進んで右に曲がって150メートルの仮設通路を通る。仮設通路は、運動会の仮設テントみたいなテントが連なっていて、その下を通る。幅3mほど。狭くて圧迫感があって、非常に通りにくい。私は歩くのはかなり早い方だが、新幹線改札から、国道上の路面電車ホームまで7分かかった。子供連れやお年寄りなら10分以上かかるはずだ。

これは、駅が道路から150メートル西へ移転したことと、駅ビル完成が新幹線開業に間に合わなかったために起こった。利用者目線でも理解出来る。しかし新幹線開業で路面電車を道路上からが駅前広場に引き込んだ熊本、鹿児島や、駅に直接乗入れた富山、再開発中で、完成すれば駅2階に路面電車が乗り入れる広島のように、全国的に見れば路面電車乗り継ぎは便利になるようになっている。
長崎駅はこれに逆行している。元々歩道橋を上がって路面電車に乗るしか方法が無かったが、さらに遠くなって利便性が悪化した。

これは、駅前の国道202号が九州でも最も交通量が多い区間の1つで、路面電車を駅構内に引き込むと信号を設置する必要があり、渋滞が悪化するためだろう。駅南側に出入口がないのも、南側から西側にかけての道路を国道バイパスにするためとも地元の人から聞いたことがある。長崎駅西側の県道112号が平和公園付近まで国道バイパスになるような設計で作られている。長崎市は、南北を通る道路がここに集中するのでバイパスに分散させる必要があるのだろう。しかし長崎駅南東でバイパスと現道の車は集中するから長崎駅付近の混雑は緩和されない。
以下は私案の改善案。
長崎は地形の制約もあり、中途半端な交通整備で利便性を損ねている。思い切って大波止から赤迫まで電車通りの地下を東京の昭和通りのような巨大アンダーパスにして、通過車両を地下に流し、地上の交通量を減らすくらいの整備をしなければ解決しない。アンダーパスが出来れば長崎駅付近の交通量が減るので駅の西側に電停とバスターミナルを移転しても問題ない。

長崎の衰退も懸念材料

長崎駅の一日の乗車人数は2021年度、6245人でJR九州20位。九州の県庁所在地では宮崎駅(4206人、41位)に次いで少なく、同じ長崎本線沿線の佐賀駅(9404人、12位)よりも少なく、同じように新幹線駅があり、観光でライバルになりそうな鹿児島中央駅(14886人、3位)、熊本駅(11469人、9位)に遠く及ばない。
1990年頃は、長崎市、熊本市、鹿児島市は人口50万人前後でそれほど差が無かったが、今は熊本市は政令指定都市で70万人、鹿児島市は60万人、長崎市はとうとう40万人を若干下回ってしまう。3都市とも郊外を合併したのは共通している。都市の空洞化ではなく、都市圏そのものの勢いが表れている。これも新幹線を普段使うはず人が少なくなっていると言える。
もうひとつ心配なのは、長崎の観光客の落ち込みである。長崎の観光客について検索すればすぐ出てくるが、日本旅行のアンケートや、長崎新聞を見る限り、長崎は観光面でも苦戦しているらしい。観光客数は、県ごとに調査方法が異なるので比較はできないが、長崎の観光不振の原因として三大都市圏からかなり遠く、時間、費用がかかりすぎるためと言われる。今はどこの会社も人手をギリギリまで減らしたまま、少子高齢化で補充が出来ないこともあり、構造的に休みが取りにくいので、旅行は短期間の休みに行ける近場になる。大学生も最近は出席が厳しく、休みが取りにくく、海外旅行や、国内の遠方に行ったことがないという学生も意外と多い。新幹線がないから遠い。福岡から鹿児島という九州のメインルートから外れるから遠い。こうしたイメージで旅行先に選ばれないのなら、新幹線が部分開業しかしないことが負のスパイラルになりかねない。長崎市の浮揚のためには新幹線全線開業で、大阪と直結することが必要である。鉄道ファンなど一部の人を除けば、多くの人は乗り換えに抵抗あるから、大阪直通は効果的だ。同じ九州の端の鹿児島市が新幹線開業で交流人口が増え、市内至る所で再開発して一人勝ちしていることを考えると、もっと距離的に近い長崎市も同じことができるはずだ。




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