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新聞整理のオキテ⑤~禁じ手って?

 日々、みなさんのお手元に届く紙面。毎日、別の記事が各紙面を飾ることで、それぞれの面でニュースの格付け判断が行われ、紙面編集のルールに沿い、見出しの工夫や紙面のアレンジなどが施されて、その日一度きりの紙面が作られていきます。この欄では、紙面編集にまつわる約束事や禁じ手などを通じて、読者のみなさんに新聞紙面に親しんでもらいたいと思っています。

 前回の記事はこちら

紙面編集の「禁じ手」

 さぁ、5回目となる「新聞整理のオキテ」。これまで京都新聞の紙面編集の一端を、noteでご紹介してきました。紙面の決まり事から見出しの工夫など到底、日々の暮らしに役立つとは思えないことをつらつらと書いてまいりましたが、今回のテーマは「紙面レイアウトの禁じ手」!ますますもって、日々の暮らしにまるで役に立たない内容である上に、誰に向けて書いているのかもわからない迷走状態の中、張り切ってまいりましょう。

 下の画像をご覧ください。京都新聞ニュース編集部の記者用指南書「新聞整理の整理」に掲載されている禁じ手のサンプルとなります。まずは、

モデル紙面とはいえ、なんか歴史を感じますね

【門構え】最上部の見出し2つをご覧ください。縦4段分の見出しが一番上の段から並んでいます。どちらかが縦3段とか2段とかの見出しの大きさなら問題ないのですが、同じ段数分の見出しが並んでしまうのは、禁じ手とされています。まさに部首の「門構え」のように、2つ同じような見出しが向かい合うことからそう呼ばれます。新聞整理のニュース価値判断は見出しの大きさで優劣をつけていることは以前に述べましたが、こうした同じような大きさの見出しが同じ高さで並んでしまうことは、ニュースの価値判断が十分でないという証しとなってしまうことから、禁じ手となのです。

でも、今ではわりと普通に、おなじような大きさの見出しが並ぶことも許されたりしています(なんじゃそりゃ)。

【煙突】画像中央左側の「5.5倍尻有り-」の見出しと「前原戦略相が始動」の見出しをご覧ください。縦長の見出しの真下に、もう一つ縦長の見出しがあるために、すごく縦に長い見出しがあるかのように錯覚してしまいます。こうなっていると、紙面的に美しくないために整理記者としては、見出しの位置が重ならないように、レイアウトを工夫しなければなりません。「すごく縦に長いもの」であることから、この禁じ手は「煙突」と呼ばれます。

一番やっちゃいけないやつ

【両降り】これは一番、やってはいけない「禁じ手」といえるかもしれません。あと、時代は変われども、この禁じ手が許されないのは、おそらく新聞が縦読みのままで推移する限りは、変わらないと思われます。「りょうおり」と読みます。

 「門構え」の見出しの2本の記事を読んでいきます。基本的に、記事は右下へ右下へと読んでいくのが普通です。ですので、右の記事はどんどん右下へと読むわけですが、左側の記事はどうでしょう。右下へ右下へと読んでいくと、見出しの終わった段から次の段へ行くと、右端の記事に飛んでしまいます。ところが、右端は右側の見出しから始まる記事です。左側の記事は、矢印のように紙面の中にある表から折り返して読ませたいようですが、残念ながら日本人の文章を読むルールに、そんな読ませ方はありません。

 この「両降り」している紙面が誰かに見つかると、いろんなところから記者やデスクが、その紙面を組んでいる端末に集まってきます。そして、「この『両降り』は美しい」とか「紙面に気持ちがこもってないからや」とか論評してみたり、果てにはその紙面を撮影する人まで出て来たりします。「禁じ手」なのに「美しい」もあったもんではないと思うのですが。というわけで、実際にやってしまうと恥ずかしいので、これは気を付けた方が良いかもしれません。

 ちなみに、この禁じ手の解消法は、「5・5倍尻有り-」の見出しの横にある縦線(ケイ線といいます)をびーっと縦に伸ばして、右側に降りていく記事を左側で閉じ込めてしまえば大丈夫です。分かるかなぁ。ま、でも、一応、ベテラン扱いの筆者でもたまにやってしまったりするので、多少は仕方ないのではないでしょうか。何がだ。

他にはこんな禁じ手も

なんかスキャンしたらゆがんでしまいました

【ドレミ】続いては、上下の画像をご覧ください。左から縦5段、4段、3段、2段と並んでいますね。これも禁じ手。紙面が単調になるので、同じ段にそろって並べるのはよくないとされています。最初の「門構え」の発展形みたいなもんでしょうか。木琴や鉄琴みたいですよね。そして、その下が

【腹切れ】紙面の途中で見出しなどがまたがることなく、スパッと右から左まで貫いてしまうことです。紙面を体に見立てて(好きですねこの例え)、横一文字にスパッと言ってしまうことから、この名前で呼ばれています。この禁じ手の解消法は、

 こんな風に、写真を左端の見出しの一番下の段に重なるように配置すれば、解消できます。まぁ、でもこの禁じ手も今では有名無実化しており、しらない若手もいるぐらい。むかしはむちゃくちゃ怒られたものですが。時代は変わりますよねぇ。

紙面もルールも変わっていきます

 根気よく読んでいただいた方の中には、「なんだよ、『禁じ手』とか言いながら、あんまり厳密じゃねぇじゃん」とお思いの方もおられるでしょう。そうなんです。以前は、禁じ手とされたレイアウト手法も今では通用することが多くなりました。なぜでしょう。それは、端的に言うと「編集する側の禁じ手」でしかないからです。つまり、自分たちなりの解釈で「読みやすい」とか「紙面が単調」とかと判断しているにすぎないのです。もしかしたら、「単調」イコール「シンプル」で分かりやすいかもしれない。スパッと記事が終わっている方が、折りたたんだまま読みやすいかもしれないなんてことが、想像できていなかったのです。

 もちろん、「両降り」のように記事が読めなくなってしまってはいけません。そうした禁じ手は、この後も残り続けるでしょう。一方で、必要のない禁じ手は時代の流れに合っていないのならば、消えていく流れなのでしょう。そう考えると、変化も悪いものではないなぁとは思います。新聞のニュースもレイアウトも日々、新しいものがお届けできると考えたなら。紙面編集の仕事も、少し背筋が伸びるというものです。では、また次回に。



京都新聞note編集部




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