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現代落語論 立川談志著/三一書房

 2020年、未知のウイルスが世界中の人々を不安に陥れました。まだウイルスの全容が知れない中、学校や幼稚園は休校になり、街角からは人の姿が消え、私たちの「ステイホーム」が始まりました。そんなころ、見直されたのが読書でした。読んだことのないジャンルに挑戦、家族と一緒に読書など、普段と違う時間が作れるかも。そのお手伝いとして、京都新聞社の記者がそれぞれ思いを込めた一冊を紙面で紹介しました。あの頃の空気感も含め、note読者の皆さんにも紹介します。

安直なウケ狙い戒め

 学生時分、立川談志さんから直筆サイン入り著書が下宿先に突然届いた。その数ケ月前、大阪の小ホールで開かれた桂米朝さんとの落語会。談志さんは米朝さんと前夜飲み過ぎたとかで一人現れず。おわびとして観客に送ったようだった。

 何とも破天荒な半面、談志さんが29歳だった1965(昭和40)年に書いた、この本には落語や笑いに緻密に向き合う姿がにじむ。

#時間をかける大切さ


 当時急速に普及するテレビについて、笑いの質より量が求められるようになると分析。道化で爆笑を呼ぶ即効性の笑いに対し、漢方薬のようにじんわり効く人情噺(ばなし)のような笑いが、大衆的でなくなると危ぐした。

 芸も人も、じっくり熟成させ、たまらない魅力を放つまでの時間の大切さを説く。コロナ禍の今読み返すと、政治家やマスコミを含め安直なウケ狙いを戒め、私たち一人一人の鑑識眼も問うているように見える。


三好吉彦