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トークショーの帝王

イベントや広告にタレントを手配するのが私の仕事。ただし「タレント」といっても誰もが知っている有名芸能人を扱うことなど年に1回あるかどうか。それこそ、少し前にご紹介した「ズラモデル探し」みたいな仕事のほうが圧倒的に多いわけで。

そんな私が扱った数少ない有名タレントの一人に石田純一さんがいます。仕事をさせていただいたのは2000年代後半、「不倫は文化」発言でドラマやTV出演の仕事を減らしてしまった石田さんでしたが、そのころホテルなどで企画されるトークショーには「ゲスト」として引っ張りだこでした。石田さんは一時期「トレンディドラマの帝王」などと呼ばれましたが、呼び屋からは「トークショーの帝王」の称号を授けたくなるくらい、あちこちから声が掛かっていたはずです。

トークショーの「ゲスト」という仕事、タレントからすればさほど準備は必要なく、拘束時間もショーの時間のみ、そのわりにギャラもそこそこいい、非常にコスパがいい仕事です。事務所にも喜ばれるので、私の呼び屋としての実績もトークショーは多いはず。とはいえ、トークショーのゲストが誰にでも務まるかというと、そうでもありません。基本「ライブ」ですから、それなりに気転がきいて、さらには自分の言葉でしゃべれるとなると、呼べるタレントは限られてきます。せっかく呼んだタレントなのに、ステージでのしゃべりが全然面白くなく、お客さんも主催者もがっかりという事態は避けなければなりません。

タレントにしても、トークショーは苦手なのでNGという人はいます。某芸能事務所のマネージャーさんに聞いた話ですが、「環境保護に意識が高い」と言われている某タレントが「環境」をテーマにしたトークショー(というかカジュアルなシンポジウム)に呼ばれたものの、他の出演者のレベルが高くて会話についていけず、それ以来一切のトークショー的なイベントに出なくなってしまったそうです。私が呼んだ仕事でそんなことになったら事務所にも申し訳ありません。

話を戻します。石田さんは「呼んで間違いのない」タレントでした。石田さんが呼ばれるトークショーのテーマは当然(笑)というか「恋愛モノ」が多かったのですが、彼のステージでの当意即妙なおしゃべりは、もはや「プロフェッショナル 仕事の流儀」に「恋愛の職人」とか「プロ恋愛師」という肩書で取材されてもいいくらいではなかったかと思います。

冗談はさておき、石田さんはサービス精神を出し惜しみしないことではトップクラスでした。ステージに上がると「好きな女性のタイプは?」「モテる秘訣は?」みたいなことばかり聞かれるのは想像に難くなく、普通の男なら「アンタらそれしかないのかよ?」と拗ねてみたくもなるはず。けれども石田さんは嫌な顔ひとつせず、ワンパターンの質問でも今初めて聞いたような顔で真剣に考え、さらに「今日は手ごわいお客様が多いですね」とプラスαの一言を付け加えてくれる。こういう一言が、来場したお客さんの思い出になるわけです。

また、石田さんといえば「ノーソックス」。椅子に腰を下ろすと必ず足を組んで素足で革靴を履いているところを見せてくれます。これはおそらくわざとでしょう。お客さんが見たいものを見せる、それもプロの仕事です。

相手が誰であってもそれなりにトークがサマになるのが石田さんのすごいところ。テレビだと台本が用意されているのでわかりませんが、イベントは簡単な打合せのみであとは「おまかせ」ということが多く、タレントによっては話が全然弾まないことがあります。そんなときは司会者があの手この手で話題を振って間を持たせるのですが、石田さんはどんなシチュエーションでもちゃんと会話を成り立たせ、お客さんを楽しませてくれます。司会者は大助かりでしょう。こういった点もポイントが高い。

そして最後に、石田さんは裏方の我々に対しても、一般のお客さんと同じように丁寧に接してくれます。実は、呼び屋的にはこれが一番嬉しい。もちろん我々もプロですから、ご要望があれば、どんなに性格の悪いタレントでも呼びます。ですが、できれば気持ちよく仕事をしたいし、タレントには関係者に敬意をもって接してほしい。実際、ステージでは愛想がよくてお客さんを喜ばせるのに、スタッフはおろか主催者にすらとことん横柄で、そのせいであまり呼ばれないタレントはいます。そのあたりを石田さんはきっとよく理解しているのでしょう。

知名度があり、気の利いたトークができて、さらには払ったギャラ以上の「お得感」がある。石田さんは呼び屋がもっとも安心して呼べるタレントでした。おそらく本人も、いかにトークショーでお客さんを楽しませるかを研究していたと思うのですが、お話しできる機会があればその極意をぜひ聞いてみたいところです。個人的には「恋バナ」よりもよほどそちらのほうに興味があります。


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