見出し画像

【自殺相談】私たちが大事にする『ロールプレイ』について

 Sottoでは、電話での相談を毎週金・土曜19:00~25:00の時間帯で受け付けています。
現在でこそ電話・メールでの相談に居場所づくりと活動内容も幅が広くなりましたが、Sotto立ち上げ当初は電話相談のみ受け付けていました。
毎年行っているボランティアスタッフ養成講座では、電話相談の「ロールプレイ」と呼ばれるワークを繰り返し、受講者はSottoの活動の基本姿勢を身に付けていきます。

また、現役の相談員は毎月、「振り返りの場」と称した場を設け、Sottoの理念や基本的な姿勢を確認し、相談員としての姿勢を見直す時間を取っています。
この振り返りの場でも相談員としての姿勢を再確認するためにロールプレイが行われています。
今回は、ある日の振り返りの場の様子を通して、ボランティア希望者と現役の相談員が行う、ロールプレイについてご紹介したいと思います。

輪になってチェックイン

画像1

▲この回はスタッフの都合があまり合わず参加者が少なめ。こんな月は2回開催することもあります。

 まずは輪になり、全員が「チェックイン」することから始まります。
チェックインとは、その時の自分の気持ちを一言で皆と共有することです。
「疲れてます」「徹夜で用を片付けてめちゃくちゃ眠いです」「今日はいいことあってテンション上がってます」etc...
自分の率直な気持ちや心の状態を開示し合うことで、アイスブレークとして機能すると同時に、わざわざ言いにくい互いのコンディションを把握する機会になります。

チェックインを終えたところで、相談委員長であるねこさん(あだ名)から、Sottoの相談員としての姿勢について改めて確認する内容の話があります。
相談の中で相手を変えようとしたり、分かったふりをしたり、決めつけたりせず、ただ気持ちを受け取ること。
Sottoが大事にしているものは、明文化するとそう長いものではありません。
それでも、それを忘れてしまったり逸脱してしまわないよう、月に一度改めてスタッフで確認し合うことで相談員としての姿勢がぶれないようにと心掛けています。

電話相談のロールプレイ

 全員でSottoの姿勢と理念について確認しなおすと、これから電話相談のロールプレイに入っていきます。
このロールプレイは、スタッフが相談者役と相談員役に分かれ、実際に受ける電話相談を再現して行うものです。
Sottoでは、相談者役のことを「コーラー」(電話相談において相談者は電話をかけてこられるため)、相談員役のことを「メンバー」(Sottoの活動メンバーを意味)と読んでいます。

画像2

▲ロールプレイの前に気持ちを集中させるスタッフ

ロールプレイと言っても形だけのものではなく、コーラーのスタッフは苦しい状況に置かれた人の事例を読み、実際に自分が「死にたい」と思うところまで気持ちを持っていきます。
ここで言う事例とは、Sottoが独自に作成したシチュエーション集のようなもので、非常につらい状況にあり、自殺願望を抱えていることを想定した例文です。
実際の電話相談で受けた内容を使用することはありません。

Sottoのロールプレイは、本当にコーラーのスタッフが「死にたい」という気持ちになって臨まなければ成り立ちません。
与えられた役をこなすように「死にたいです」と言うようなロールプレイでは実際の電話相談とは程遠いですし、スタッフにとって得るもののない時間となってしまいます。
そのため、ロールプレイが始まる前には、コーラーが本当に苦しくて電話相談をかけようという気持ちになるまで、その場で待つ時間を設けます。
事例はあくまでシチュエーションでしかなく、そこから生まれる「だから自分は死にたいのだ」という感情は、その時にコーラーの中に生まれるリアルなものです。
どれだけ時間がかかろうとも、コーラーの心の準備ができるまで、じっと他のスタッフは待ちます。
5分、10分かかることもあります。

ロールプレイは電話の着信音を声で再現するところから始まります。
実際の電話相談では、表情も見えない、一本の電話線を通じて相手と気持ちを交わすことになるからです。

「プルルルル プルルル・・・」
「はい 京都自死・自殺相談センターです」
「すみません、もう疲れちゃって、終わりにしようと思ってるんです」

こんな風に、ロールプレイは始まります。

 10~15分ほどの一回のロールプレイの中で、コーラーはメンバーの対応によって気持ちが動き、苦しくて泣き出してしまう場合もありますし、温かい気持ちになったり、怒りがこみ上げてくる場合もあります。
どれも、実際の電話相談で起きうることです。

画像3

▲頭を抱えて話すコーラー(左)と話をきくメンバー(右) 

 少なくとも、このロールプレイの時間中はコーラーは本当に苦しくて死にたいという思いを持っていますし、メンバーはそんな相手の心のそばにそっと腰掛けるようなイメージで、気持ちを受け取ります。
コーラーはロールプレイを通じて、死にたいくらいつらい時に相手にこんなことを言われたらさらにつらくなるとか、あるいは嬉しくなる、そういったことを身をもって体感します。

メンバーは、自分では良かれと思って言ったことが時に相手を傷つけたり、うまく言葉を返せない自分を発見したりすることにより、その後の相談員としての活動に活かす教訓を得ます。
双方にとって深い学びとなるのです。
また、ロールプレイを客観的に見る「オブザーバー」も数人います。
ロールプレイが終わった後にその内容について振り返る時間を設け、そこではオブザーバーの意見や感想も交えてロールプレイの内容を掘り下げていきます。

画像4

▲ロールプレイ中、会話の中で気になるポイントをメモするオブザーバー

それぞれが感じたことを率直に話すことが全員の学びにつながるので、振り返りの時間では活発に意見交換や気づきの共有がなされます。
「コーラーが『~~~』と言った時、メンバーは『~~~』と返したけど、それによってコーラーの気持ちがメンバーから離れてしまったように見えた」
こんな風に、具体的に指摘がありますが、決して、うまくできなかったメンバーを責めているわけではありません。
実際の電話相談で相談者の方に不安やつらい思いを与えることがないよう、こうしたトレーニングの場では率直に指摘し合い、相談員としての向上を目指しています。

 このような流れでロールプレイを役を代えながら2時間ほど繰り返し、この日の振り返りの場は終わりました。
最後にまた輪になって「チェックアウト」として今の気持ちを共有するスタッフは、疲労が顔に浮かびながらもどこか充実感を覚えているように見えました。
Sottoの活動とは人と人の心が触れ合うものであり、そこにテンプレートのような正解はありません。
「死にたい」の一言にもそれを発する一人一人の事情があり、一つとして同じ「死にたい」はないのです。
そんな「死にたい」の多様性と向き合いながら、私たちは活動を続けて参りたいと思います。

Sotto用語集
〇ロールプレイ・・・電話相談の形を模して行う、Sottoでボランティアの養成と相談員の研修に用いられるトレーニングの一種。
〇振り返りの場・・・電話相談のスタッフが毎月集まり、相談員としての姿勢を見直す場。ロールプレイを行う。
〇チェックイン・アウト・・・振り返りの場や会議の前後に参加スタッフがその時の気持ちを表現すること。
〇コーラー・・・電話をかけてくる相談者としてロールプレイをするスタッフのこと。
〇メンバー・・・電話に応じるSottoの相談員としてロールプレイをするスタッフのこと。
〇オブザーバー・・・ロールプレイを客観的に見て意見をするスタッフのこと。

youtubeでは実際に行っているロールプレイ動画を公開していますのでこちらもあわせてご覧ください。[約20分]


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?