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『弱者の居場所がない社会―貧困・格差と社会的包摂―』阿部 彩

認定NPO法人京都自死・自殺相談センターSottoは、京都に拠点を置き、「死にたいくらいつらい気持ちをもつ方の心の居場所づくり」をミッションとして活動しています。
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Sotto相談員によるブックレビューをお楽しみください。

 「電話相談って本当に意味あるの?」と訊かれたことがある。「仕事
がない」なら就労支援を、「体が痛くて動けない」なら医師を紹介する。もっと直接的な支援が必要では、という質問だった。「たしかにそうだ」と感
じながら、「でも少し違うんだなあ」と思う。

 本書は、近年注目されている「社会的包摂」という社会保障政策の
概念にたいする良質の入門書だ。人を生きづらくさせているのは、お金
や仕事がないこと、それ自体ではない。仕事がなくなることは、会社と
いう「社会」から追い出されることを意味する。社会保険の枠組みから
脱落し、住居を失ったり、人間関係を保てなくなることもある。こうして徐々に社会から切り離されてしまう。「包摂」とは文字通り、「社会につつみこむ」システムである。

 研究者である著者は、ホームレス支援のボランティア活動の現場に
身を置くなかで、たとえ路上生活をしていたとしても、その存在そのも
のが認められる「居場所」があることによって、本当の意味で人が生き
ていけるということに気づく。


  「居場所」がないこと、安心して休める場所がないこと、「そこに 
  いてもよい」と社会から認められる場所がないこと。「居場所」は
  単に雨や風をしのげるといった物理的な意味だけで重要なのでは
  ない。「居場所」は、社会の中での存在が認められることを示す第
  一歩なのである。社会を学校の教室にたとえれば、そこに、自分の「い
  すと机」がある。それと同じことである。


 その人が、そのままで、そこにいても良いこと。そのままで承認され
る場があること。私たちの電話相談も、それを目指している。   (N.S.)
[そっと Vol.10 1 月号]より

内容紹介
貧困問題の新しい入門書。誰でも「居場所」「つながり」「役割」を持って生きていたいと願う。そのキーワードとなる「社会包摂」なしに、これからの社会保障政策は語れない。気鋭の研究者が、熱く熱く語る。(講談社現代新書)
貧困と格差社会についての新しい必読書。社会的排除とは「社会から追い出されること」。社会包摂は「社会に包み込むこと」。この新しい視点なしに今後の社会保障政策は語れない。気鋭の研究者が熱く語る。

目次
プロローグ 社会的包摂と震災
第1章 生活崩壊の実態
第2章 「最低生活」を考える
第3章 「つながり」「役割」「居場所」
第4章 本当はこわい格差の話
第5章 包摂政策を考える
第6章 インクルーシブな復興に向けて

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