見出し画像

人の代謝と星の代謝-分解における共通点と相違点

2023年5月13日公開 2023年6月23日最終更新
京都ひかり天文台メンバー 騎西健太/きさいけんた

1 星にも代謝がある?

 代謝とは、あるものが創造され、分解され、そして創造の材料に再利用されるという循環型の活動を指します。人の細胞内ではタンパク質の代謝が日々活発に行われていますが、実は星(恒星)にも代謝が存在し、星が生まれては、死に、そしてその構成物質が新たな星の創造の材料として使われるという循環が繰り返されています(図1)。本稿では、人と星の代謝における分解段階を比較し、共通点と相違点をまとめることを目的とします。

図1 タンパク質の代謝と星の代謝の概念図

2 人の代謝

 典型的な生体分子は、DNA、RNAを経てタンパク質として細胞内に存在します。そして時間が経つと分解されます。細胞内にはタンパク質の分解機構として、オートファジー系とユビキチン・プロテアソーム系の2大分解系が備わっています。この分野の第一人者である田中啓二先生の講演(2017)を引用して説明します。温泉にごみが入った状況を想像してみてください。このとき温泉からごみを取り除くために皆様ならどうするでしょうか。1つにはお湯をすべて抜いてしまい新たにお湯を入れる方法がありますね。そしてもう1つがごみを1つ1つ取り除くという方法です。前者がオートファジー系、後者がユビキチン・プロテアソーム系に対応します。細胞内ではこの両者が機能することで、タンパク質の分解機構を成立させています。この機構が破綻すると、がんや神経変性疾患といった様々な疾患を生じることが分かっています(Popovic et al. 2014; Levine and Kroemer 2019)。

3 星の代謝

 星の一生を示します。はじめに星間ガスから星間雲が形成されます。このうちとくに密度の高いところを分子雲といいます。この分子雲が星のもとである原子星となります。その後原子星は主系列星となり、人でいう成人を迎えます。そして人と同じように星にも最期があります。星はその質量の違いによって大きく2つの最期を迎えます。太陽の8倍未満の質量をもつ星では、より質量が小さい場合に主系列星から白色矮星へ至り、より質量が大きい場合に赤色巨星へ移行後、その外層部分を周囲に放出し最終的には白色矮星に至ります(澤 2018)。一方で太陽の8倍を超える質量をもつ星では、赤色巨星に移行後、超新星爆発(II型)を生じ、中性子星またはブラックホールの形成に至ります(澤 2018)。赤色巨星段階あるいは超新星爆発時に放出した物質が星間ガスとして次世代の星を構成する材料となります。

4 人の代謝と星の代謝の共通点と相違点

 人の代謝も星の代謝も、創造され、分解され、そして次世代の構成物質として利用されるという特徴があります。分解に着目するとどちらも1通りの方法ではなく、複数通りの方法があることが分かります。一方で温泉の例でもあったように、タンパク質には目的に応じた分解方法がありますが(田中 2017)、星の分解では目的に応じた分解はあるのでしょうか。またタンパク質の分解系が異常をきたすと様々な疾患を生じることが知られていますが(Popovic et al. 2014; Levine and Kroemer 2019)、星の分解で異常が生じることやそれによって引き起こされる影響はあるのでしょうか。
 星の創造と分解、そして再利用の循環の過程で地球が生まれ、人が誕生しました。ゆえに人は星との共通点を有していても不思議ではないと思います。しかし人は複雑な機能を獲得しました。人が星との共通点だけではなく相違点も有しているというのは納得できる話だと思います。

5 本稿とあわせて聴きたい1曲

 分解という過程を経ては再び星として夜空に輝くという一種の悲しさと力強さが星にはあります。そんな星にぴったりの曲が、いきものがかり「プラネタリウム」(2008)(作詞・作曲:水野良樹)です。「悲しみの夜を越えて 僕らは歩き続ける」という詞が印象的です。悲しみに暮れたとき、力強くきらめく星たちが私たちに元気を与えてくれます。

文献

いきものがかり (2008) プラネタリウム. https://www.youtube.com/watch?v=bFdo6NB7iyY, 2023年2月24日最終確認

Levine B, Kroemer G (2019) Biological functions of autophagy genes: a disease perspective. Cell, 176(1–2): 11–42. https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.09.048

Popovic D, Vucic D, Dikic I (2014) Ubiquitination in disease pathogenesis and treatment. Nature Medicine, 20(11): 1242–1253. https://doi.org/10.1038/nm.3739

澤武文 (2018) 解説:星の一生. 名古屋地学, 80: 24–30. https://doi.org/10.24724/nasses.80.0_24

田中啓二 (2017) プロテアソーム~基礎研究が未来を拓く~. 第1回日本医療研究開発大賞記念講演会・内閣総理大臣賞受賞講演. https://www.youtube.com/watch?v=3LOidc3LOlQ, 2023年2月24日最終確認

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?