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23.fieldアイ研、合宿顛末記 ”セッションCD vol.2録音裏話”

 2020年5月、Irish PUB fieldは休業を余儀なくされていましたが、そんな折り、2000年のパブ創業以来の様々な資料に触れる機会がありました。そこで、2001~11年ごろにfield オーナー洲崎一彦が、ライターのおおしまゆたか氏と共に編集発行していた月刊メールマガジン、「クラン・コラCran Coille:アイルランド音楽の森」に寄稿していた記事を発掘しました。

 そして、このほぼ10年分に渡る記事より私が特に面白いと思ったものを選抜し、紹介して行くシリーズをこのnote上で始めることにしました。特に若い世代の皆様には意外な事実が満載でお楽しみいただけることと思います。

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 今年の6月にfieldセッションCDの新作「vol.5」をリリースしましたが、今から約15年前、fieldアイルランド音楽研究会の合宿で、セッションCDの「vol.2」を録音した時のお話です──。(Irish PUB field 店長 佐藤)

↓前回の記事は、こちら↓

fieldアイ研、合宿顛末記(2005年5月)

 今年になってからというもの、私はこの『クラン・コラ』誌上で、一種ボヤキにも似た音楽論理を吠え続けているわけだが、これは、自然とわが field アイ研の連中の目にも触れるわけで、そんな中にはちらほらと質問をぶつけてくる若者も出てきた(というか、出て来てしまった! ま~ずい!)。

 そんな ある日。    

 折しも、field アイ研実行委員達は5月の連休に向けて、恒例のアイ研合宿企画に頭を悩ませている所だった。彼らの悩みは、今年は準備にかかるのが遅れたため参加者が少なくなるのではないかという懸念と、参加者の初心者率が高くなりそうなので、例年、合宿場所である琵琶湖畔近江舞子浜の大フリーマーケット祭りに面して演奏する野外ライブできっちり演奏できるバンドがひとつも無いかもしれないという懸念だった。  

 そこで、彼らは一時、「クイズ大会」なるものを企画して、合宿は全面リクレーション寄りに傾きかけたものの、思い出したようにこちらにお鉢を回して来た。  

部員A「ここは、スさん。一度、ガツンとセッション実践セミナーか何か、合宿でかましてもらえませんか?」  

洲崎「えー! ワシは口だけおやじでええのや! 表に出たら終わる!」  

部員B「無責任やなあ。クランコラで偉そうな事ばっかり言うてるくせに」  

洲崎「とりあえず、今出てる合宿企画はどんなんや?」  

部員A「クイズ大会です」  

洲崎「えーやん! 楽しそうやな。賞品も用意するのか?」  

部員A「音楽的な企画はゼロなんですよ」  

洲崎「いつもの野外ステージがあるやろ?」  

部員A「既存のバンドやユニット持ってる連中は合宿に来ません」  

洲崎「なにい~?」  

部員B「初めは、次に作るセッションCDの選曲と練習を、合宿のテーマにしようと思ってたんですけど」  

洲崎「レコーディングに参加する予定の奴らがそもそも合宿に来ないのか!」  

部員B「そういう事です」  

洲崎「ほな、誰が来るねん?」  

部員A「今、申し込みが出てるのは、ほとんどが初心者です」  

洲崎「・・・・クイズ大会しかないな」  

 というわけで、私もすっかり実行委員会の合宿企画会議に巻き込まれてしまうことになった。例年の合宿では  

「ワシは保養に来てるんやから、放っておいてくれよ」

 と、飲んで寝て飲んで寝ての2日間を過ごすのが常だった私だ。昨年の合宿では自分の楽器をケースから一度も出さなかったというほどのていたらくだった。そんな私が合宿の企画会議に巻き込まれてしまうなんて!  

 しかし、そういうふうに既存のアイ研部員の連中にノリが無いとあれば如何ともし難いではないか。そもそも合宿やる意味があるのか? でも、新入部員や初参加の人たちは楽しみにしてるんですよって聞かされると、ノリが無いから中止というわけにもいかんな。  

 これは、そもそも、アイ研の新旧交代とか、いわゆるサークル自体の構造改革等が必要なのではないか、という質の問題で、合宿ひとつを取ってどうたらこうたら考えてもしようがないものではないのか?   

 一同:そうだ! そうだ!  

 でも、このまま例年のようにこれといって何の企画もたてずにダラダラ合宿に臨めば、楽しみにしている初参加の人たちも白けてしまって、結局、アイ研というサークルは存亡の危機を迎えるぞ!  

 一同:そうだ! そうだ!  

 ふつう、こういう音楽サークルの合宿っていうのはどんな事やるのか誰か知ってるか?  

 一同:知らないっす!  

 クイズ大会・・・するかなあ?  

 一同:しないと思います!  

 というような、珍問答が果てしなく続く大ミーティングが繰り返された末に。  

洲崎「わかった、ワシが何かしたらええのやな?」  

部員B「はったりがバレても、それはその時でええのやないですか?」  

洲崎「ワシが失脚して、それでアイ研は安泰やわなあ?」  

部員B「何もそこまで言ってませんよ」  

部員A「ボクらも、スさんの考えには興味あるんですよって言ってるでしょ」  

部員B「こんな機会でもないと、具体的に話聞けないですやん」  

洲崎「ほな、今ここで話しよか?」  

部員B「そうじゃなくてえー」  

部員A「だから、合宿で、みんなに向かってセミナーというか練習会というか」  

洲崎「わかったわかった、そんなに責めるなよ。・・・何か考えるから」  

部員B「別に責めてないですよ、なあ?」  

部員A「責めてないっす」  

洲崎「よし、そんなら、そのセッションCD第二弾も同時にやっつけるというのは、 どや?」  

部員A「どういうことですか?」  

洲崎「合宿中にレコーディングするのよ!」  

部員B「えー!? 予定してる主要メンバーはほとんど来ませんよ」  

部員A「そうですよ! 例えばフィドラーとかは1人も来ないかもしれないんですよ」  

洲崎「居る人間だけでやればええのや!」  

部員A「最悪、初心者ばかりになるかもしれないんですよ」  

洲崎「翌日にレコーディングするから、という事やったら、前夜の練習会も皆必死になるやろ?」

部員B「キツイなあ~」  

部員A「新入部員にはよけい悪印象じゃないですか?」  

洲崎「ここはインパクト勝負や!」  

部員B「また~、悪い癖ですよ~」  

洲崎「クイズ大会とどっちがええ?」  

部員A「・・・・」  

部員B「・・・・」  

洲崎「よし、ちょっと、あにめ呼んでくるわ!」  

 というわけで、field STUDIO のエンジニア、あにめ君に録音の仕方とスタジオから持ち出せる機材の相談をする。ある程度の機材を琵琶湖畔まで運び出して野外セッションのライブ・レコーディングが可能かどうか? それだけ答えてくれ! あにめ!  

「可能です」  

 よっしゃあ! ほな、3日後に選曲会議。それが終わったら、当日までに全曲の楽譜をそろえて、参加申し込み締め切り日に人数を確認して、人数分のコピーをしたらしまいじゃ!  

部員A「選曲はボクらですか?」  

洲崎「当たり前やろ? ほかに誰がやるねん?」  

部員B「スさんも考えてくれるんでしょ?」  

洲崎「ワシは曲と曲名が一致せん!」  

部員B「レコーディングするって言うたら○×あたりは合宿に来てくれるかもしれませんね」  

洲崎「あほ! それやったら意味無いやろ?」  

部員B「でも、保険ぐらいは作っとかんと」  

洲崎「よーく考えてみい? レコーディングは目的ちゃうで」  

部員B「ほな、何が目的なんですか?」  

洲崎「明日レコーディングするで!という緊張感や!」  

部員B「ドッキリカメラみたいなもんですか?」  

洲崎「だんだん分かってきたな」  

部員B「ほな、これは、当日までの秘密企画というわけですね?」  

洲崎「それや! 当日の夕飯の時に発表しよ!」  

部員B「それまでは誰にも言わない?」  

洲崎「そう。誰にも言わないサプライズ企画やな」  

部員A「うーん、危険な感じですよー、それ」  

洲崎「危険かあ?」  

部員A「初めから教えておいてくれたらよかったのに、って声は絶対出ますね」  

洲崎「ほな、現地集合した時に渡す合宿プログラムに書いとけ」  

部員A「プログラムなんか誰もその場で全部読みませんよ」  

洲崎「あほ! プログラムは読むもんや!そやろ?」  

部員B「・・・はい」  

部員A「そ・そうですね・・・」

 

 ■合宿1日目  そして、ついについにやってまいりましたよ。連休たけなわの5月3日、合宿当日。  集合時間の午後1時早々に、あにめ君は黙々と民宿コムラの軒下野外ステージのライブセッティングと録音マイクと機材のセッティングにかかっている。例年よりマイクの数がやたら多いのに誰も疑問を持たない事自体がもうたるんでるというもんじゃ!  

 夕食準備までは、PAチェックがてら、ここで適当にセッション!セッション! マイク・ケーブルが怪しく引き込まれた民宿コムラの食堂の片隅では、あにめ君がヘッドホーンかぶって Mac のモニターとにらめっこしながら録音のシミュレーションに余念がない。この、あにめ君の普通じゃない動きになぜ誰も疑問を持たない?! 

 私は企画発表を前にした緊張感も手伝って、内心、少しいらついていた。 そして、夕食の準備が終わって、全員が食事のテーブルについた!  

 「明日、全員のセッションをレコーディングします。そして、これをアイ研セッションCDの第二弾にします」  

「夕食が終わったら、1時間後に集合して、明日に向けてのスパルタ練習会をします」  (あ~!言っちゃった~!)  

 というのは、私はこの時、そのスパルタ練習会で何をするのか具体的にまだ何も考えていなかったのだった。 夕食後は後かたづけをさぼって自室(例年私が泊まるのは窓のない地下布団 部屋なのだが)に戻ってしばし寝転がっていた。すると、すぐ上の食堂で、早くも数人が楽器を鳴らし始めたのが聞こえて来る。それぞれの足踏みがドスンドスン真下の私の所に響いて来る。ちょっとしたセッション風になってきている様子だ。  

 うーん、真下に居るこの不快感は何や? いかに真下の部屋と言えども、楽器の音そのものは直接がんがん聞こえるものではない。足踏みのドスンドスンの方が明らかに大きく響く。そして、薄く聞こえる楽器の音とこの足踏みがてんで合っていない。というか、皆それぞれの足踏みそのものが合っていない。だから、ドンドンではなくてドスンドスンと響く。ひどい騒音である。

 この、音楽と演奏者の足踏みが合ってないという事態は、field セッションでも場合によってはよく起こる。特にセッション人数の多い時に顕著に起こる。時には、セッションを聴くでもなく飲んでいるお客さんから  

「あれ、足踏みずれてるの聴いてると悪酔いするね~」

  などと指摘されることもある。こうなると、セッションも立派なの営業妨害行 為だ。  

 地下部屋で不規則振動音に身もだえしながら、そんな、店の日常を思い出す。  

 よし、これで行こう!  

「足踏みをせずに、他人の音を聞く!」  

 テーマはこれで決まりだ。  

 そうして、ジッサイに始まったスパルタ練習会。それはまるで、小学校というより幼稚園の音楽の授業のような光景になってしまった。中には抵抗のある人もいたみたいだったが、皆おおむね素直にトライしてくれたので、何とか練習会の体裁は作ることができた。    

 途中、近くにキャンプに来ていたアイルランド人一行が、  

「何でこんな所でアイリッシュ音楽が聞こえてくるのか?」

 と、音につられてやって来た。予定外の珍客来訪である。  

 これで、練習会の緊張感は一旦崩れたが、この間に実行委員の2人と陣中確認しばしの立ち話。  

洲崎「いやー、これだけ人がいると、ちょっとした事やるにも時間食うなあ」  

部員A「それは、しようがないでしょう」  

洲崎「こんな感じでイケてるんかなあ?」  

部員A「わりと面白いですよ。こんな練習たぶん誰もやったこと無いと思います」 

洲崎「もう時間も遅いけど、この後はどうする?」  

部員A「さっきの珍客で一度バラけてしまいましたからね」  

部員B「今は、所々に個人練習の固まりができているので、ちょこちょこのぞいて回るとか」  

洲崎「よし、それはお前らに任せた。ワシはもう飲む」  

部員A「そんなー。ここまでやったんやから最後までシメてくださいよ」  

洲崎「まあまあ、見える所にはおるから」

  ■合宿2日目  この調子でどこまでダラダラ続くのやろうと心配になっている読者の皆さん。 このまま書き進めてもキリがないのが書いていてもだんだん分かってきたので、 結論だけ記す事にします。  

 この長い長い夜が明けて翌日午後、フィドル2名、ホイッスル5名、フルート1名、イリアン・パイプ1名、ギター1名、ピアノ1名、ブズーキ1名で構成された初心者率の高い演奏参加者総勢12名。約50分弱のライブレコーディングは見事に達成されたのだった。  

 予定の都合で、翌日のライブレコーディング時間前に帰らなければならなかった人が数名いたのが残念だが、レコーディングはあくまで結果論。前夜の緊張感を皆で共有したことに大きな意味があったと、今ではこの確信を大にしている次第である。  

 後日、合宿直後の field セッションで、合宿に参加していた初心者ホイッスル娘が、合宿で配った楽譜集を持参してやって来て、果敢にセッションの輪に食らいついている光景を目にした時は、ちょっとジーンとしてしまった。

 <洲崎一彦:Irish pub field のおやじ・fieldアイ研HPで、合宿に参加したアンディー君が合宿日記を書いています。こちらもどうぞ。 https://kyotofield.com/gass-rep05.htm>

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