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折々の絵はがき(61)

◆絵はがき〈髪梳ける女〉橋口五葉◆
1920年 千葉市美術館蔵

絵はがき〈髪梳ける女〉橋口五葉

 どこか物思いにふけりながら髪を梳かす女性。彼女は毎日こうして長い髪を手入れしているのでしょう。波打つ黒髪が透き通るような肌をいっそう際立たせています。湯上りでしょうか。ほっと肩の力の抜けた様子に、日中の姿はどんなだろうと思いを巡らせました。長い髪はきりりと結い上げられ、顔には化粧が施された、いわば「表向き」の佇まいもさぞかし美しいはず。今、彼女が纏う撫子柄の浴衣は繰り返し洗われてきたのかくったりと身体になじみ、ほんのり上気した肌を優しく包んでいます。浴衣といい柔らかそうな腰ひもといい、ここに描かれているのはごく当たり前の日常を過ごす、女性の「素」の姿です。
 繰り返し手を動かしながら彼女は何を思うのでしょう。明日の過ごし方、今日の出来事、読みかけの本の続き、それとも思いを寄せる誰かのこと? 残念ながらこの姿から彼女の内面をうかがい知る事はできません。ただ、手慣れたことをするときに頭では別のことを考えるのはよくあること。五葉はここでもまた女性のそんな「素」を見事にすくい上げています。
 橋口五葉は渡邊庄三郎と出会い、日本人画家による「新版画」の第一作《浴場の女》を出版しました。その後共同作業は行われませんでしたが、五葉は木版画制作への意欲を持ち続け、立ち姿、化粧をする姿など、女性のデッサンを無数に残したといいます。誰の目も気にしていない、女性の無防備な姿こそ美しい。デッサンを繰り返すなかで五葉はそう感じたのではないでしょうか。

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