見出し画像

便利堂ものづくりインタビュー 第18回

第18回:山田繊維株式会社 代表取締役 山田芳生さん 聞き手・社長室 前田


2023年12月9日に発売したオーガニックコットン風呂敷 70cm〈鳥獣戯画〉の製造をご協力いただいた風呂敷専門メーカー「山田繊維株式会社」さんへ、弊社企画担当の西川さんとお邪魔して、風呂敷の魅力について代表取締役の山田芳生さんにお話を伺ってきました。

―――すてきなお店ですね。壁にも天井にもたくさん風呂敷がディスプレイされていて目移りしてしまいます。
山田社長(以下「山」):ありがとうございます。この直営店「むす美」には、いまは約500種類ほどあるでしょうか。オリジナルデザインのほか、いろんなデザイナーさんとご一緒に、さまざまな素材に染色、加工をほどこした風呂敷を製造販売しています。このショップでは風呂敷の包み方を伝えるワークショップも行っているんですよ。

インタビューの様子(左:山田芳生さん・中央:商品企画担当 西川・右:社長室 前田)

西川(以下「西」):それは楽しそうです。山田社長は風呂敷の魅力ってどんなところにあると思われますか?

山:昔から「風呂敷は何でも包めて便利」と言われていました。小さくたたんだ風呂敷はかさばらないうえ、マチがないのでいろんな形のものを楽に持ち運ぶことができます。ただ、その「便利」というイメージだけが一人歩きをして、使い方が伝わっていなかったんでしょうね。実際の生活の中で風呂敷を使うことが途切れていた時代がありました。

―――たしかに、私たちもいろんな使い方を知っているかというと…
山:そうですよね。となると、誰かが使い方を世の中の人へ伝えないといけないのですが、当時、僕たちの販売先や取引先はほとんどが問屋さんでした。問屋さんから小売りやさん、それからお客さまへ届く。僕らからすると実際にお使いいただくお客さまが遠い存在だったんです。

西:今はワークショップがありますが、昔は「風呂敷の使い方を習う」ことってなかったのかもしれませんね。

―――一度は遠ざかった風呂敷の文化を、どうやってここまで広められたんでしょう?
山:京都には一つの軸を大切にして、長くお商売を続けている会社がたくさんありますよね。たとえば一澤帆布さんは帆布、松栄堂さんはお香…じゃあ山田繊維は何屋なのか? 僕は風呂敷屋だと思ってきたけど、じつは20~30年前、山田繊維で取り扱う半分は風呂敷以外の商品でした。

西:今からするととても想像がつきません。

山:よし、風呂敷を軸にもう一度始めよう。そんな決意のもと、2005年、東京の原宿に風呂敷だけの直営店「むす美」を作りました。不安でいっぱいでしたが、そうすることで対外的にも自分自身にも「山田繊維は風呂敷の会社です」という「柱」を作ろうという思いでした。

山田繊維オフィシャルショップ「むす美」

―――そんな大きな節目があったとは…おどろきました。
山:とはいえ、恥ずかしい話ですが、その頃は僕自身、風呂敷の使い方をよく知りませんでした。だからまず、風呂敷をどうやって使うのかを会社の外へ教えてもらいにいったんです。

西:どなたに聞きにいかれたんですか?

山:ラッピングの先生です。普通の包み方でも結び目をふっくらと整えることで美しく見える。どこに気をつけるときれいに結べるのかなどを教わりました。四角い布が使い方によって用をなすのが風呂敷ですが、印象に残ったのは、そうして結んだ時の美しさです。そこからは、今の暮らし方に合うのはどんな使い方か、毎日使うならどんな素材やデザインがいいのかと頭を悩ませました。そういうことをキチンと考えた商品を作り、使い方とともに世の中へ伝える責任があると考えました。

―――サイトやSNSではいろんな使い方を動画で紹介されていて、風呂敷の便利さや頼もしさが伝わってきます。
山:SNSで、スーパーでの風呂敷の使い方をご紹介したところ、260万回も再生していただきました。レジ袋の有料化からしばらく経ってからでしょうか。反応がよくてびっくりしましたね。

西:この10年で世の中のエコに対する考え方は大きく変わりました。世界中の方が風呂敷に興味をもつのもよくわかります。

―――山田繊維さんは風呂敷の文化を、日本だけでなく世界へも広めていらっしゃるそうですね。
山:海外の方々にも我々の仕事を紹介したいという気持ちから、フランスで行われるインテリアとデザインの見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」へ、2018年から毎年出展しています。そこで感じたのは、人々の暮らしのなかに「環境にやさしいものを使いたい」、「食べるならオーガニックなものを」という気持ちが当たり前のように浸透していることでした。

西:海外では自分が選んだ商品が「使い終わったあとにどうなるか」を考えている方が多いと聞きます。

山:その通りです。フランスではスーパーへ行くと「BIO」と書かれた商品が棚にいっぱい並んでいます。それはどんなに小さなスーパーへ行っても同じ。だからでしょうね、僕たちの商品でも、撥水加工されたポリエステルより、ナチュラルな素材を支持される方が圧倒的に多いのがとても印象的でした。

―――便利堂が2023年12月9日に発売した〈鳥獣戯画風呂敷〉もオーガニックコットンで仕立てられています。
西:そうなんです。山田繊維さんへご相談したところ、「海外ではSDGsの観点から風呂敷が再評価されていて、とりわけ素材が重要視されるんですよ」と教えてくださったんです。私たちも「便利堂エコプロジェクト」
として、エコにまつわる商品開発はもちろん、プラスティック軽減など環境保護に力を入れていますから、それならぜひオーガニックコットンで作ろうということになりました。

オーガニックコットン風呂敷 70cm〈鳥獣戯画〉

山:オーガニックコットンは「自然環境にも、栽培に携わる人にもやさしい素材」です。うちはインドの畑で作っていますが、畑にはいろんな虫が飛んでいますよね。通常であれば、それを除去するために強い虫よけ
の薬をまくんですが、オーガニックの場合、農薬は使いません。すると収穫した綿にはたくさんの虫がつくんです。ここが非常に手間のかかるところですが、工場では設備を整え、人を配置し、ていねいに取り除いています。

西:農薬以外にも、非常に厳しい基準をクリアした「有機栽培」による綿だけがオーガニック認証されると聞きました。オーガニックとそうでないものでは風合いなどが違いますか?

山:いえ、風合いは変わりません。ですからどちらも作り方の工程は同じです。綿を育てて生地を織り、丁寧に染め、糸に色をしっかりしみ込ませるために蒸す。ただ、やはり海外ではどのように育まれた素材なのかが非常に重要視されていますね。

―――今回、商品を企画するなかで鳥獣の配置に苦心したと聞きました。
西:縁ふちにモチーフを配置していたところ、実際に箱を包んでみたら結び目に鳥獣が集まってしまったんです。「だめだ、これでは鳥獣戯画のファンに怒られてしまう」と、入稿ぎりぎりで中心部に配置するレイアウトに変更しました。ところが、中心部に置くと、今度は包んだときに鳥獣が逆さになることに気が付きました。縁の配置と中心部では向きを変えないといけなかったんです。急きょ、またまたレイアウト変更して…つくづく風呂敷のデザインの難しさが身に染みましたね。

山:包んでみたら気がつくんですけど、こればっかりは実際にやってみないとわからないんですよ。だから、この試作の紙がしわくちゃになっているのは僕からするとものすごく考えて作られたのがわかってうれしいくらいです。

西:今回、女性社員みんなに「どのデザインが好きか」アンケートを取りました。いわば便利堂の力を合わせて誕生した自信作です。紆余曲折ありましたが、おかげさまで「どうお使いいただいてもかならず美しく見える配置」にたどり着くことができました。

―――西川さんは商品を企画する時、実際にお客さまからいただく声を反映しているそうですね。
西:そうなんです。新しい風呂敷作りのきっかけもお客さまの声からでした。〈小風呂敷 国宝 鳥獣人物戯画〉は山田繊維さんのご協力のもと制作した20年来のベストセラーですが、「大きなサイズも欲しい」とたくさんのリクエストをいただいていたんです。私たちのお客さまには50代以上の方がたくさんいらっしゃいますが、みなさんすごく感性が若々しくておしゃれな方ばかり。ただ、見ていると、どなたもそう大きなお荷物は持たれていない様子でしたから、サイズは70センチに決めました。

山:ストライプの幾何学模様がすてきですね。これはなにか意図があるんですか?

西:風呂敷のメインモチーフは鳥獣戯画ですが、和のデザインに片寄りすぎないことを心がけて北欧テイストにしました。鳥獣戯画には見ていると和むストーリーがありますよね? そこもあわせて楽しんでいただけるよう、配置にもこだわっています。

山:結んだときにストライプが結び目に出るようにデザインされていて、うん、よくできている。すばらしいです。風呂敷のデザインの難しさでもあり、おもしろさでもあるんですが、平面で見ていても柄の出方ってわからないんですよ。僕たちも紙で出して実際に何かを包んでみたり、布に描いてみたりいろいろ試していますから。

―――山田繊維さんとは長いお付き合いをさせていただいていますが、山田社長は便利堂のことをどんな風に思ってくださっているんですか?
山:僕らは美術館の方とお話しする機会がよくあるんですが、そうした場で、便利堂さんのデザインがいかに優れているかをお聞きすることがこれまで何度もありました。美術品のことを非常によく理解してポスターやグッズを作ってくださるんだとおっしゃっていましたが、僕らから見てもまさにその通りのイメージでした。

西:それは長い間、便利堂が大切にしてきたところなので評価していただけてうれしいです。

山:これはどこがデザインしはったんかな?と見てみると「あ、便利堂さんや」ということがよくあります。うちとはご近所ですが、すごい会社がこんな近くにあるんやなと思っていました。

西:ありがとうございます、私たちも同じ気持ちです。

―――今日はぜひ、私たちにもふろしきの使い方を教えていただけますか?
山:もちろんです。簡単ですよ。裏が見えるようにして三角にたたみ、底辺の両角をそれぞれ結びます。それを表返して形を整えれば…ほら、うちのショップでもディスプレイしているエコバッグのできあがりです。肩にかけるところは結んでくださいね。

かんたんエコバッグ(しずく型)

西:あっという間にできました! しかもこれ、たくさん入りそうですね。

山:風呂敷なら紙袋に入りづらい大きさのものも安定して運ぶことができます。たとえばホールのケーキやお皿、ピザなんかも上手に運べますよ。

西:これは覚えておきたいですね。すごく安定感があります。

―――三か所結んだだけで、一枚の布がたちまちバッグに変わりました。
山:たとえば飛行機に乗るときも、脱いだ上着を風呂敷に包んで荷物入れにしまうとコンパクトになるのでおすすめです。あと、旅先でのお土産物ってみんなが同じ紙袋なので間違えやすいですが、それをちょっと風呂敷に包んでおくと「これは自分の」ってすぐわかるのでいいですよ。

西:冬のダウンは脱いだときにかさ高くて困っていましたが、そうか、風呂敷に包めばよかったんですね…。

山:ワインボトル2本を包むこの包み方もぜひ覚えて帰ってください。瓶の底同士を3センチほど空けて並べ、くるくるーと巻いていきます。両方から瓶を起こしたら、瓶の口元でしっかり真結びをして、はい完成。簡単でしょ?

瓶2本包み

西:持ちづらいものが、包まれたとたん持ちやすくなりました。

山:そうそう、女性の方は旅行の時に靴を持っていかれることが多いでしょ? 靴をこうしておくと痛まないのでいいですよ。洗えばまたいろんなものを包めますしね。僕はいつも靴を修理に出すとき、この包み方で持っていきます。

―――風呂敷ってすごく自由なんですね。包み方を見せていただくと、ぐんと身近に感じられました。なにかを「布で包む」という文化は日本独自のものなのでしょうか?
山:大切なものを布で包む文化は昔、世界中にありました。だから僕らもフランスで「あなたたちの国にも昔はあったみたいだよ」と話すんです。ただ、どの国にもそれぞれ長い年月大切にされてきた文化がありますから、文化の押し売りをするのではなく「もしよかったらやってみたらどう?」という気持ちでいます。

西:海外ではどんなふうにお使いになっているのか見てみたいです。フランスパンがのぞいてたりするのかな。

山:僕らのインスタグラムのフォロワーは4割が海外の方たちです。向こうに住んでる友だちが「街でふろしき持っている人を見かけたよ」と教えてくれたりしますが、それを聞くとやっぱりうれしいですね。風呂敷に決まりはありません。こんな風に結んだらどうかな?と自由に楽しんでもらえたらそれが一番ですね。

山田繊維 
初代山田貫市氏が奉公先の綿布問屋から暖簾分けの後、昭和12年に山田貫七商店を創業。昭和34年山田繊維株式会社を設立。日本で千年以上に渡って育まれた風呂敷を「進化し続ける生きた文化」として幅広い世代へ伝えるべく、東京・神宮前と京都・三条にオフィシャルショップ「むす美」を展開。サスティナブルな暮らしに貢献できる商品開発・普及活動に取り組み、国内外に「風呂敷文化」を発信している。

山田芳生さん
山田繊維株式会社代表取締役。大学卒業後、アパレル商社に5 年務めたのち山田繊維入社。東京営業所へ配属。2003 年社長就任。事業を風呂敷専業に絞る。風呂敷とその使い方を世界中へ伝え「FUROSHIKI」が世界共通のキーワードとなることを目指す。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?