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5日目

毎月21日は、東寺さんで弘法市が開かれるのですが、
今日はさすがに中止だったようです。いつもは賑わっている九条通りも静かなものでした。

年始一発目の21日は「初弘法(はつこうぼう)」で、
年末最後の21日は「仕舞い弘法(しまいこうぼう)」が開催されるのですが、
特にこの時の人出は相当なものです。
みなみ会館から東寺さんまで行く道の間に観音寺さんがあるのですが、年末年始はそこで無料の甘酒が振舞われたりします。
旧館の時は、ロビーの窓からその様子が見れたのですが、
向かい側に引っ越しちゃったので、今は日々フレスコさんを眺めてます。

また賑わいを取り戻す日を、はやくはやくと願いつつ。
ちなみに、毎月21日はどなた様も1,000円均一でご鑑賞頂けるので、
平穏な日々が戻ってきたら、是非〈弘法さん〉とセットでみなみ会館にも立ち寄ってみて下さいね。

***

さて、今日は昨日の続きです。

2010年の9月頃より映写業務もやるようになったのですが、
その当時の上映素材はデジタルと35mmフィルムが半々くらいでした。
デジタル素材はDVDやDVCAMが主流。
ブルーレイ素材がたまに来る感じだったかな。

その頃上映していた作品の中に、うちの再生デッキとどうしても相性が合わない作品がありました。
※デジタル素材は、再生デッキとの相性が結構大事で、この機種では大丈夫なのに、こっちでは再生できないな…という事が時々あります。
当時の最終手段はプレステ3。結構何でも読み込んでくれる優れものでした。

色々試した結果、その作品は一部どうしてもスムーズに再生ができない箇所がある状態のまま初日を迎える事に。
映写に託された作業は、「問題の箇所で一時停止し、プロジェクターの光をサッとさえぎってから、少しだけコマ送りをして再生ボタンを押す」という荒業。…いろんな意味で、まだまだおおらかな時代でした。

前口上では「上映中に一部暗転しますが、そのまま少々お待ちください」的な説明が入っていた筈なのですが、覚えている方がいたとしたらすごい。

その該当シーンは、美しい女優さんが「なぜ?(Pourquoi?)」というセリフを言った後くらいに来るので、私はすっかりその「ポッコア?」という響きを、知っているフランス語のレパートリーに加えるはめになりました。

デジタルの上映は、このように人為的でないエラーがたまに起きるので、
「理由が見えない分、対処に困る」という点に置いてはフィルムよりも怖い素材ではあるのですが、
人為的に起こしてしまったフィルムの映写事故ほど、私は怖いものを見た事がありません…。

フィルム映写は、「1)正しい場所に. 2)正しくフィルムを通し. 3)正しく動作させる事」ができれば、だれでも「再生するところ」まではわりとすぐに覚える事ができます。

ただし、「3つの正しい」がなされなかった時、
再生ボタンを押した瞬間に、とんでもない地獄がやってきます。

幾度かスクリーン上に燃えるフィルムを映し出してしまったこと、
上映中のフィルムに縦に亀裂が入り、映っている画面が割れていった事、
ゴダールの映画で、シネスコ用のレンズをかけ忘れ、いやに細長い人物たちを、一瞬でびよーんと横に伸ばしてしまった事。
※これに関しては、ゴダールの実験的映像という事で処理してもらえまいか…と脂汗流しながら場内にお詫びしに行きました。

数えきれない失態を犯してきましたが、
一番恐ろしい目にあったのは、そう…あの日の映写でした。

人気シリーズの新作レイトショー。従業員は、私と受付にいる先輩の2人だけ。

上映開始ボタンを押し、ピント調節。
フレーム位置合ってるな、よしよし音もちゃんと出てるぞ。
無事、上映開始!

…と思ったのもつかの間。

床を見ると、スクリーンに映し終わった後の大量のフィルムがとぐろを巻いている…!!

えーーーっ!!
えーーーーーーーーーーっっっ!!!!

となっている間にも、どんどん床のフィルムは、山盛りの黒いかたまりに!

※35mmフィルムは1秒24コマの1.5フィートなので、1秒で約46cm進みます。1時間のフィルムは、約1.6kmもの長さ!

それを巻き取ってくれるのが、リールと呼ばれるものなのですが、
巻き取りセンサーがついている部分に、なんとフィルムを通し忘れていたのです…。

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まずパニックになり、
受付にいる先輩に内線するも、…なんで出ないの!!
どうしよう、どうしよう…!!!うーん、よし!
人力で巻き取るか…!

※…いや、どう考えても上映を一時停止するべき状況です。
なんでそういう発想になっちゃったの…と、本当に呆れてしまいますが、
当時はパニックになると、どうにかして自力で挽回しようとしてしまう癖が…。

この黒い山の中から、フィルムの端を探し出すのは不可能だ!
とりあえず、程よい部分でフィルムを切る!
そして、手動でリールに巻いていって、タイミングを見極め、
…あそこに引っ掛ける!


な、、なんと!無事成功…!


その後は何事もなくフィルムは巻き取られていき、
内線がようやくつながった先輩が映写室に来てくれました。

先輩が後半のフィルムを映写機にかけてくれている間に、
黒い山をほどき、端を見つけ出し、リールに巻き取りながら埃をふき取っていく作業。

上映が終わった前半のフィルムと、切り離した冒頭のフィルムをテープで貼り付け、まるで何事もなかったかのような状態に。

いや、そのあと映写主任にしっかり叱られました。
本当にご迷惑おかけしたな…。

奇跡的にそのフィルムに傷はついておらず、
上映最終日まで無事に走り続けてくれました。

おかげ様で、この恐怖のトラウマにより、以降の映写前チェックはめちゃくちゃ慎重になりましたよね…。

その時助けてくれた先輩の失敗談を後日聞いたのですが、
「上映が終わるまで、違う映画をかけていた事に気づかなかった」経験があるそうです。
それを観てたお客さんも、誰一人気づかなかったとの事。
なんて話よ…。

とか書いていたら、初心が戻ってきましたので、
今日はここまでとします。

ではでは、また明日。

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