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猫が何処かに行った日

長野の冬は寒い。市街地はまだいい方だけど、寝癖を直した髪が、自転車に乗っていると凍るぐらいには寒い。

その割に夏は全国の天気予報で一番暑い時もある。本当に涼しいのは標高1000mもあるような軽井沢などだけであって、長野県がみんな避暑地に向いているわけではないのだ。

うちに猫がやってきたのはそんなふうに暑くも寒くもない秋の頃だった。中学校のそばに捨てられていた子猫を姉の友達が拾い、その友達グループで替わりばんこに面倒を見ていて、やがて我がうちの番になった。

その頃私は小学生で、母はパートに出ていたから、一番帰るのが早い私が必然的に面倒を見るようになった。まだ目の開いていない子猫は私の片方の手のひらに乗るぐらい小さかった。そうして手のひらに仰向けに寝かせて哺乳瓶でミルクをあげた。

猫には誰がつけたかハッピーという名前がついていたけれど、小さな弟分となった彼に、私の名前から一部を拝借して半ば強引に「まめ太郎」と名前をつけた。(今の私のハンドルネームだ)

そうして転々とした毎日を終えたその猫はうちで暮らすことになった。


小さくもなんともなくなったその猫は9歳になった冬にうちを飛び出していった。雪の降る夜だった。

脱走癖があったからいつも注意していたけれど、玄関前の内扉を閉め忘れた父が、玄関を開けた瞬間に扉の脇ををすり抜けて行ってしまった。

家の周りを探してみたけれど、2-3日経って戻らなかっら時に、もう帰ってこないのだと受け入れた。

あれから十年以上経ったし、結婚して家を出たけれど、玄関を開ける時にふと「猫が出ないようにしなくちゃ」と思うことがあり、小さい頃の習慣は抜けないものなのだと痛感させられる。

何も雪の日に飛び出さなくてもよかったのに、と少し思う。猫が一冬越すには、長野の冬は寒過ぎる。

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