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英国Sunday Times紙の主任書評子によるベスト書評

Sunday Best:80 Great Books from a Lifetime of Reviews
「サンデー・ベスト」
by John Carey
November 2022 (Yale University Press)

サンデー・タイムズ(Sunday Times)は、イギリスの保守系高級紙タイムズ(Times)の日曜版である。
イギリスには、高級紙=broadsheetと、タブロイド紙=tabloidという2種類の新聞がある。

高級紙というのは、日本で言う朝日新聞、読売新聞、毎日新聞などにあたるだろうか。いっぽうタブロイド紙は、日本のスポーツ新聞に近い。ゴシップ記事なども載っていて、「大衆紙」とも訳される。

イギリスでは、じつは高級紙を購読している人は少ない。庶民が買い求めるのは圧倒的にタブロイド紙。

日本では、少し前まではほとんどの家庭が新聞をとっていた。いまはどうなのだろう? じつは私はいまだに紙の新聞をとっている。けれども、近所で古紙回収に古新聞を出す家庭が、この10年ぐらいで激減した。電子版に移行しているのか、それとももう新聞なんてとっていないのか。

たぶん取ってないんだろうな。今ならネットで無料でいろいろな情報がみられる。そもそも政治・経済・国際関係・社会問題・文化など、全般的な情報なんて、たいはんの人にとって必要じゃないんだ。自分にとって興味のある情報だけ得られればいいし、それだったらネットのほうがかんたんに手軽にタダで入手できる。

ひと昔前とは新聞の立場がちがってきている。昔は生活必需品に近かったが、いまはもう趣味の範囲。わざわざ有料の、ネットよりも遅い情報をえらぶなんて、趣味でしかないだろう。

私が新聞をとり続ける大きな理由の一つが、書評欄である。書評欄を読みたいので、新聞をとっている。まったく興味のない本にも出会えるのが書評欄だからだ。本屋でうろうろして、おもしそろうな本に出会うのもたのしいが、書評欄で気になって、本屋でその本を探すこともけっこう多い。

だから、海外の新聞の書評欄についての本、となれば、チェックしないわけにはいかない。

https://www.thetimes.co.uk/

Sunday Timesは、優れた書評で定評がある。そのChief Reviewer=主任書評子ともなれば、それなりに権威ある人しかその地位にはつけない、らしい。よくわからんが。Chief Reviewerの役割がよくわからない。日本の新聞の書評欄には、書評子のチーフなんていない。なにをするのかはよくわからないが、たぶんエライ人がなるんだと思う。

ジョン・ケアリー(John Carey)は、オックスフォード大学の名誉教授で、長きにわたりサンデー・タイムズの書評欄の主任書評子をつとめた。ブッカー賞の審査員も2度ほどつとめている。

本書は、ジョン・ケアリーが40年間(!)におよぶ書評のなかから、よりすぐりの80編をまとめたものだ。

出版社のホームページに目次がない。そういうときはアマゾンのLook Inside(試し読み)。

Cultural History「文化史」、Science「科学」、Anthropology「人類学」など分野別にわかれている。

しかし、ざっと見て、知っている本がほとんどない。仕事柄、それなりに洋書に接してきているはずなのになぁ。。かろうじてユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』に気づいたぐらい。

たとえば最初にとりあげている本は、The Mediterranean in Historyで、著者はDavid Abulafia。調べたが、日本語版は出ていないようだ。でも、この著者の別の本は、日本語版があった。

『地中海と人間』全2巻。ゴリゴリの学術書を出している藤原書店から刊行されている。

あ、もう一つ。知っている本を見つけた。Don't Sleep, There are Snakesというもの。これは、『ピダハンー「言語本能」を超える文化と世界観』というタイトルで日本語版がでている。

これは、すごくおもしろかった。自分の持っている文化的規範とか価値観とかをはげしく揺さぶられた。アマゾンの奥地に住む少数民族ピダハンとともにくらした言語学者でキリスト教伝道者でもある著者が記した衝撃のフィールドワークである。とにかくピダハンの言語、文化、慣習などが私たちのものとかけはなれているのだ。かけはなれすぎている。あいさつにあたる表現がない。数字の概念がない。直接体験したことしか話さないから、神話や伝承がない。つまり宗教がない。キリスト教を伝道しようにも、神にあたる概念がない。ついにはキリスト教を布教しに行った著者が、無神論者になってしまうのだ。ミイラ取りがミイラに、を地でいくような話だ。

ジョン・ケアリーはこの本をどのように評しているのだろうか。

タンタンの作者エルジェの伝記Herge: The Man Who Created Tintinもとりあげられているが、日本語版はないみたい。

書評集を読んだらやっぱりその本を読みたくなるよね。日本はけっこう翻訳出版がさかんだと言われているけど、それでも、この本で取りあげられている洋書をみると、翻訳される本って少ないんだな、と思う。

でもそれも、AIによる自動翻訳で、電子書籍であれば瞬時に日本語に訳されたものが読めるようになるのかなぁ。。

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