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表紙の村上春樹の似顔絵がいくらなんでもヒドイと思う

Haruki Murakami and the Search for Self-Therapy:
Stories from the Second Basement

「村上春樹とセルフ・セラピーの探求」
by Jonathan Dil
February 2022 ( Bloomsbury Academic)


村上春樹さん(以下敬称略)は、洋書でも研究書が多く出ている日本の作家だ。

調べたことはないが、夏目漱石、三島由紀夫と村上春樹は、よく見かける気がする。

近刊では、去年の2月に、Lexington Booksというところから、『村上春樹と初期作品』Haruki Murakami and His Early Work: The Loneliness of the Long-Distance Running Artist というのが出ている。

著者は、ジョージア大学のマサキ・モリ准教授。村上春樹のほかに川端康成、宮沢賢治なども研究対象らしい。

この『村上春樹と初期作品』では、村上春樹の初期の3つの短編集をとりあげて論じている。『パン屋再襲撃』と『象の消滅』と『TVピープル』だ。初期の作品にこそ、村上春樹の本質的な問題意識がよく表れている、ということらしい。

そして今回紹介する本は、めずらしく未刊の新刊で、来月刊行予定。

ちょっと脱線だけど、新刊情報は、以前は紙のカタログかAdvance Information Sheetsと呼ばれるA4ペラのチラシの束だった。今もカタログやチラシは来るが、PDFで送られてくるか、出版社のホームページからダウンロードするようになっている。

あとは、ISSUUという、ウェブ上で閲覧するためのカタログサイトを案内されることもよくある。Edelweiss+という、デジタルカタログのプラットフォームもある。こちらは、サンプルページや表紙画像、書誌データなどもダウンロードできるんだったかな?

さらに、いろんな出版社からHTML形式のメールが毎日来る。Key titlesというエクセルファイルもよく来る。

はっきり言って、全部見ている暇はない。

ざっと目を通して、めぼしそうなものだけ詳しく読んでいく。この、めぼしそうなもの、というのがわかるようになるまで、10年ぐらいかかったろうか。最初は、カタログを端から端まで読んでいた。とうぜん時間がかかる。一日読んでいると、夕方には頭がぼーっとしてきたものだ。

しかし、なにごとも経験をつめば要領もよくなってくる。

で、この本は、Bloomsburyのアジア担当者から、エクセル形式で来たデータから見つけたものだ。Haruki Murakamiとなればチェックしないわけにはいかない。

データには、文字情報しかなかったので、Bloomsburyのホームページでくだんのタイトルをチェックすることにした。

検索して出てきた表紙を見て、一瞬絶句。

村上春樹、だとはわかる。わかるけど。

いや、もしかしたらものすごく有名な画家かイラストレーターの方が書いたのかもしれない。にしても。

これはちょっと、ヒドイ、と思うんだけど。。。

なんというか、カワイクナイ。かわいげがない。

私が日本の「カワイイ」文化に毒されすぎているだけだろうか?

まあ、ある意味インパクトはある表紙かもしれない。

本書解説によると、村上春樹は小説を書き始めた理由を「セルフ・セラピー」だと言っていたのだそうだ。けれどもなぜセルフ・セラピーが必要だったか、理由についてははっきり言っていない。本書では、村上春樹が小説を書く理由と、その手法について論じている。そうすることによって、村上春樹の小説をよりよく理解することができるだろう、というわけだ。

全部で5章からなる本書では、村上春樹の14の作品に触れながら、彼の個人的なトラウマへつながるであろう4つの重要な手がかりについて論じている。そのなかでも、亡き父親との確執と、昔の恋人の死は、どうしても小説に落とし込むことでしか乗り越えられなかった困難であったらしい。

村上春樹研究のみならず、村上春樹ファンにとっても、読み応えのある研究書であると思う。

はー。村上春樹かー。

私は、村上春樹ととっても不幸な出会いかたをしたと思う。

はじめに読んだのが『ノルウェイの森』だったのだ。ここから入るべきではなかった。とくに私のような恋愛ものが苦手な人間は。せめて『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』から入っていたら。

とはいえ、今さら過去は変えられない。それに、語るほど村上春樹を読んでいないのだ。上の2作と初期の短編、『遠い太鼓』『雨天炎天』などのエッセーと、翻訳をいくつか。小説よりエッセーのほうがおもしろかったし、エッセーよりも翻訳のほうがうまいと思った。翻訳は、言葉の選びかた、文章のリズム、原文の持つ雰囲気など、本当にすばらしい。

だいたい、村上春樹を読んでいたのは1990年代で、それからずっとごぶさたしていたし。三島由紀夫同様、熱心なファンがいるなら私は読まなくてもいいか、というかんじでスルーしていたのだが、じつに何年ぶりかで、ふとしたきっかけで『1Q84』を読んだ。驚いた。すごくよかった。バカを承知で言うけど、「この人、すごい作家だ」って今さらながら息をのんだ。

それから熱心な村上春樹ファンになったかというと、そういうことはなかったわけだが(オイオイ)、でも、この研究書の解説を読んで、またちょっと興味がわいてきた。さいきんのものでも何か読んでみようかな。

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