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なぜ人は不必要なチープ雑貨をつい買ってしまうのか

Crap: A History of Cheap Stuff in America
「がらくた:アメリカチープ雑貨史」
by Wendy A. Woloson
October 2020 (The University of Chicago Press)

crapは、「うんこ」「くそ」みたいな意味があるが、この本のタイトルの場合は、things that are useless or unimportant、「役に立たない、不必要なもの」、つまり「がらくた」という意味だ。

がらくたが好きだ。役に立たない、不必要なものになぜか心が動いてしまう。というわけで、机の引き出しには、さまざまな用途不明のアイテムがごちゃごちゃに入っている。くら寿司の「びっくらポン」で出てきた抗菌寿司カバー付き熟成中トロのミニチュアストラップ、西陣織のマスキングテープ(貼るところがない)、ブーブークッション(いまさらどこで使う??)、etc.

まあしかし、自分でがらくたを持ち続けるのには、限界がある。家のスペースの問題で、なんでもかんでもとっておくというわけにはいかない。そして、私はそこそこ常識人なのだ。度はずれたことができない。

というわけで、なんでもかんでもとっておく、度はずれた人にあこがれを抱いてしまう。

みうらじゅん。

永遠のあこがれだなー。こんなふうに生きたかった。
でもそのためには、小学生までもどってやり直さなければいけない。

みうらじゅんを知らない人にどう説明すればいいのかわからない。ウィキペディアには、いちおう「漫画家・イラストレーター」となっている。でも、漫画やイラストは、みうらじゅんのごく一部でしかない。

いちばん代表的なのは、いとうせいこうと共に仏像を見に行く「見仏記」だろうか。みうらじゅんの仏像好きは小学生のころにさかのぼるから筋金入りだ。

それ以外にも、もらって困るお土産物をあつめた「いやげもの」や、観光地のはがきセットのなかで枚数合わせに撮られた、どうでもいい絵葉書の「カスハガ」、水道修理などの冷蔵庫に貼るマグネット「冷マ」など、数々のどうでもいい、否、スバラしい「マイブーム」をお持ちなのである。

ちなみに「マイブーム」もみうらじゅんのネーミング。「ゆるキャラ」もね。

私は、ブロンソンズのころからのみうらじゅんファンなので、けっこうファン歴は長いと思う。

1998年にはラフォーレ原宿で開催された「大物産展 マイブームの国へようこそ」に行った。イケてない私にとって、原宿なんてまったくもってアウェーの地だったが、みうらじゅんの展覧会となれば話は別である。たしか「つっ込み如来」が飾ってあって、おもわず拝みたくなったものだ。

新しいところでは、2018年川崎市民ミュージアムの「MJ'S FES みうらじゅんフェス! マイブームの全貌展 SINCE 1958」にも行った。これは、みうらじゅんの子どものころからのコレクションが展示されていて、とくに子供のころの手書きの「ケロリ新聞」などは鼻血が出るかと思った。一号でいいからほしい。

イマドキはなんでもかんでも「コスパ」重視だが、そんなにコスパが大事か?「効率」だの「有用性」だのばかり気にしてると、息がつまりそうになる。

この世の中には、むだなものなんてなにもない。道端に落ちている石ころにだってなにかの意味があるんだ、という考え方も好きではない。

石ころにすら意味があるなんて、言ってほしくないのだ。

それは裏返せば、意味がなければ存在していてはいけない、ということだから。

意味なんてなくても、存在していていい。

そんな世界がいい。

もっと言ってしまえば、人間の理解の範疇で「世界」がすべて把握できるなんて、思わないほうがいい。今、まだわかっていないことも、いつかはわかるようになる、とか、まあそういうことを目指しているのかもしれないが、私は、「世界」の謎がすべて解けて、わからないことはなくなった、なんて世の中は、ぜったいにゴメンだ。

すべてが白日の下にさらされて、闇がなくなった世界。そんな世界に、人間は生きていけるのだろうか。考えただけで恐ろしい。

私は、「世界」は人間の理解の及ばない、得体のしれないものであってほしい。

話が脱線してしまったが、とにかく、私は「がらくた」が好きなのだ。

本書は、アメリカ人の家にある「くだらないもの、不必要なもの」の歴史を追い、アメリカ人がなぜそれらを所有するに至ったかを、社会的、文化的、経済学的な視点から考察している。

gadgetsは、ちょっとした装置、からくり
knickknacksは装飾的小物
novelty goodsはノベルティグッズ
mass-produced collectiblesは大量生産のコレクター商品
giftwareはギフト用品
variety store merchandiseはバラエティストアの商品

これらのカテゴリーにわけられた「がらくた」は、どれも同じ「がらくた」ではない。一つ一つ違う意味をもつ、ちがう文化的背景の「がらくた」なのだ。時代ごとの商品文化との関わり合いのちがいによる、複雑な事情。

「がらくた」一つとおしてみても、豊かなアメリカの文化が見えてくる。

でも、アメリカにはみうらじゅんがいないからなー

みうらじゅんだったら、常人には想像もつかない、もっとおもしろい角度から「がらくた」を見せてくれるだろうに。

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