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今すぐ降りろ。財布と携帯は置いてけ。

どうも、恐妻家です。

休みの日は妻とドライブに出かけます。恐妻家だって仲は良いんです。妻は運転、私は助手席。妻はあまり私に運転させてくれません(私は運転が上手くない。)。

助手席ってあまりやることないんですよね。やることといったら、運転手への飲み物の補給、雑談くらいでしょうか。雑談だって、限りがあります。ネタも尽きれば無言になります。無言の助手席。その次に訪れるものは何でしょう。

そう、眠気です。

そして、妻がこの世でピーマンの次に嫌うもの、それは私に助手席で寝られることなのです。

程よい空調の行き届いた車内。心地よい振動。ドライブ先のアクティビティが適度な疲労感を私に与えます。私は、楽しい思い出に浸りながら、こっちの世界とあっちの世界を、船を漕いで行ったり来たり。至福とはまさにこのことです。

帰路、夕暮れの山道に入ったときです。大きく体を揺らし白目をむく私に向かって妻は言いました。

今すぐ降りろ。財布と携帯は置いてけ。

なんと残酷な一言でしょう。あたりは闇に染まりつつあります。暗闇の山道で一人残された私に何ができるでしょうか。しかも、財布も携帯もない状態で。

そのとき、はたと気づいたのです。いかに私が光に、都市に、貨幣経済に、通信技術に依存していたかということを。すなわち妻はこう言いたかったのでしょう、「汝は、暗闇の山道に一人残されただけで立ち行かなくなるちっぽけな存在であることに自覚がない。もう少し、自分の無力さを自覚し、周りに感謝を覚えるべきだ」と。

自分の無力さへの無自覚を恥じ、私は、「すみません。」と謝ります。そうすると妻は返すのです、「謝らなくていいから結果を残せ。」と。ああ、ありがたい。

妻は私を赦し、まっすぐに前を向きハンドルを握ります。その姿は、まるで自分の人生は自分でコントロールしろと言わんばかりです。

さすがに妻は疲れた様子なので、私は、運転を代わることを申し出て、ハンドルを握ります。すると、助手席の妻はすぐに眠りにつきました。妻が起きたときにそれを咎めると、妻は、「私の方が疲れているんだよ。」、と一言。ああ、私は自分のことばかり考えてしまっていたのです。

妻とのドライブは学びが多いなぁ、と感謝し、私は改めてハンドルをしっかりと握ります。

つづく

恐妻家だって幸せです。でも、小遣いは多くない。皆様のサポートがお昼のグレードをアップします。