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ぼくの心を満たすものは?③

 仕事に復帰してからそろそろ2か月が経とうとしている。といっても最初の1か月は慣らし復帰のため半日勤務だったのでフル勤務での復帰となるとまだ1か月経っていないが。
 1日フルで職場にいるようになり、もちろん職場でお昼も過ごすことになるが、お昼休みに毎日職員通用口から出て目の前に広がる山を見ている。気分転換に見ていると思われるかもしれない。
 僕の場合は気分転換もあるが本当の理由は「生きてまたこの景色が見られるなんてな」という思い。
 急性骨髄性白血病の再発を告げられた後入院まで二日間あったので、その二日間職場に行き引継や残務処理のために仕事をしていた。その姿を見て、入院の準備があるから帰ってもいいと言ってくれた同僚もいた。しかしあの頃は何かで気を紛らわしたい気持ちが大きかったので、その申出は断り出来る限りの引継ぎ書の作成などをしていた。そして、その合間に息抜きに職員通用口から今見ている景色を見ながら、
「これで見納めになるのかな。」
そんな事をつぶやいていた。

 入院中は一般病棟に居る時には病院内を歩き回っていたが、その景色が見える場所があるとは思わなかった。
 骨髄移植をして1か月ちょっと経ったある日一般病棟へ移る事が出来たので早速病院内を歩き回っていた。だけどあの時は足の力が今より更に弱かったので病棟の有るフロアを中心にリハビリのために歩いていた。そして同じフロアにある病棟と病棟を繋ぐ廊下に大きな窓があり、その窓の脇にベンチがあるのでリハビリ中に休憩場所として利用した時だった。ベンチに腰かけて窓の外を眺めたら、遠くの方に職場でよく見ていた山が見えた。初めてこの景色が見れることを知った時、この景色を見た時と言った方がいいかな、職場での仕事の事よりも同僚と他愛無い、ほんとくだらない事を話しては笑っていた日々を思い出した。

「あれ、今日はもう定時をだいぶ過ぎてるけど泊まっていくの?」
「コーヒー飲みたいけど持ち合わせないな。お金貸してよ(笑)」
「今日も鳩が来ているけど、誰か餌あげてるの?」
他にもたくさんの会話。

 仕事以外のどうでもいい事を思い出し、そして最後にいつもその景色を見ながら思い出すのは、再発を告げられた後に職場に行ってこの景色を見ていた時に呟いていた言葉、
「これで見納めになるのかな」
だった。

 そして今、僕は通院での治療は続いているものの仕事に復帰でき、もう見る事が出来ないと半ばあきらめていた景色を見ながらお昼休みを取っている。

 いつも何かの拍子に思い出すのは骨髄移植を受けた場合の再発率、そしてGVHD(移植片対宿主病、免疫反応の事)により死亡する確率を思い出すことがある。僕の白血病を引き起こしているキメラ遺伝子での再発率が3割と聞いていて、自分は絶対に7割側だと思っていて3割側に立ってしまったので、どうも低い確率を自分が引いてしまうのではないかという不安がある。どうせ低い確率を引くなら宝くじがいいのにな。

 まあ今日はこの辺で。

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