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ONE PIECEを読んだら漫画を読みたくなかった理由がわかった

 今年は昨年以上にリア充を目指し、好きなことややりたいことを前のめりに取り組んでいる。今一番のめり込んでいるのが、

 漫画『ONE PIECE』である。十数年以上の時を経て再び1巻から読み始め、絶賛どハマり中だ。

 私は元来漫画好きだ。小学生の頃は暇さえあれば漫画を読み、好きなキャラクターを真剣に模写していた。イラストレーターの叔母の影響もあって一時は漫画家を目指し、自由帳に自作の漫画も描いていた(ちなみにタイトルは『人魚の肉』。人魚伝説が好きだった)。高3の受験勉強まっさかりの夏休みに数年遅れで『SLAM DUNK』にハマり、ほとんど勉強しなかった。大学時代のデートはもっぱら漫喫で8時間ぶっ通しで漫画を読むのがお決まり。読書といえば漫画というくらい漫画好きだった。

 しかし、ここ数年は読むのを控えていた。前述のスラダンのように、徹底的にハマって他のことが全く手につかなくなる。自分次第で収入が変わるフリーランスの身には漫画は避けるべき大きな誘惑だった。ライターになった30歳くらいからガクッと読まなくなり、次第に関心がなくなって、つい最近まで読みたいとさえ思わなかった。

 ところが今月、仕事が落ち着いていたので暇つぶしに読むことにした。目についたのは彼が読み続けている『ONE PIECE』。最後に読んだのは20代の頃だ。

 さほどハマらないと思っていたが、読み始めると止まらない。朝起きて読み、仕事の合間に読み、食事中に読み。少しでも時間があると続きを読みたくて読みたくてたまらない。ルフィたちに感情移入するは、回想エピソードでは毎回感動して泣くはと全エネルギーを注いでいる。仕事がなければ一日中読みたい。彼と一緒にいても読み続け、口を開けばあの場面がいい、このキャラが好きと語る。その没頭ぶりに彼も驚き「すっかりマニアだね」と言われるほどになった。

 読み進めていくうちに、ふと漫画を避けてきた理由が浮かんだ。仕事の支障になるのもそうだけど一番の理由はそこじゃなかった。

 現実世界で裏切られたくない。
 現実世界に失望したくない。

 この想いが強いから読まなかったと気づいた。

 個人的に『ONE PIECE』のおもしろいと思うところは、人生で大切なことを教えてくれる点だ。「海賊王に俺はなる!」という確固たる信念のもと、壮絶な戦いを超えるたびに強くなるルフィから自分を信じることの偉大さ・大切さを改めて教わった。ほかにも、最悪の局面でも絶対に諦めない気持ち、仲間の絆、人類愛など、たっっくさんのことを学んでいる。

 『ONE PIECE』や漫画は、崇高でまっすぐな気持ちで生きることの素晴らしさを教えてくれる。けれど、現実世界でそれを体現しても失意に沈むことは多い。どんなにまっすぐにあろうとしても忖度や裏切り、差別、そして陰謀や汚職など正されない深い闇がたくさんあり、打破したくてもできないからだ。漫画でも悪の部分は描かれているし、全ては一気に解決しない。だけど、一つの悪が破れたらより良い未来へのスタートが切られる。少なからず希望の光が見える。

 でも、現実世界はこうはうまく進まない。
 希望が見えるまで時間がかかることは珍しくない。

 おかしいことをおかしいと声をあげても握りつぶされ、政治家の汚職はマスコミで騒がれても根絶されない。もっと身近なところでいえば、自分の優位性やマウントのために人を平気で傷つける人はたくさんいる。仲間といって本当は自利のためにつるむ人たちもいる。SNSの誹謗中傷は終わるどころか蔓延している。

 漫画から学んだ愛と勇気に満ちた精神や姿勢を実践しても、現実世界では通用しないことが多い。純粋であり続けることを諦めたくなる。だから私は、失望しないために漫画を読まないようにしていた。

 なんでおかしいことにおかしいと声をあげないの?
 自分を正当化するために、優位でいるために他者を攻撃するの?
 人を平気で裏切るの?

 こう思うことは大人になればなるほどある。人を信じるのが怖くなったし、自分を見せることさえも躊躇するようになった。

 でも、久しぶりに『ONE PIECE』を読んで、周りからどう思われても酷い仕打ちを受けても、現実世界でうまく振る舞えなくても、自分だけは他人を裏切らずまっすぐに生きよう。自分の信念を貫いて生きようと思えた。

 夢見る夢子ちゃんでも構わない。
 自分は腐らずに生きたい。そうすれば少なからずとも胸を張って生きていける。ルフィ海賊団のように真っ正直に生きたいと思った。

 触れたくないと思うものとは、自分の傷を疼かせる何かがあると察知しているからかもしれない。だから触れるのは怖いし億劫になる。でも、少し時間が経ってから触れれば何に恐れていたのかがわかるし、自分の覚悟が決まるかもしれない。

 今の私にとって漫画とは、理不尽で皮肉な現実を見せつけてくるものであり、自分の在り方や生き方の指針を再度はっきりと教えてくれるものだ。漫画と現実のギャップに胸を痛めたくないから読まなかったけど、これからは自分の信念を確認するために腹を括り直すために読もうと決めた。非日常の世界を楽しみながら自分を見直せるなんて最高じゃないか。これからはもっと漫画を読んでいくぞ。とりあえず目指すは『ONE PIECE』全巻読破だ。


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