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ラマムバ❣ ラマカリ❣ イスラーム断食月ラマダーンのロジック

はじめに

こんばんナマステ💚(あっさむにるぎり)だよっ🌙

昨夜の #Clubhouse#インドの衝撃 ( #インド大学 )』を聴いていただいた方、ありがとうございました💞

早速の音声版(約33分)‼️

地域によっては昨夜から #ラマダーン が始まったけど、インドは今夜からの予定なので、昨夜Clubhouseで話して、今夜テキスト化というのはちょうどいい流れになる。

というわけで今夜はこれをやっていくよ🌙

ラマダーンとはなにか

ラマダーンというと #断食 というイメージが浸透してしまっているけど、本来は #ヒジュラ暦 における9月のことで「熱い月」を意味して、長月やSeptemberのように月にナンバリングではない意味を込めている。

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ラマダーンには日中、 #ムスリム の義務であるサウム(断食)を行う。食物のみならず水分摂取もダメで唾液すら呑み込めないし、喫煙や性交も禁止。お腹空いたからタバコで紛らわそう、というのもダメってことだね。

詳しくない人のために一応説明しておくと、ムスリムは #イスラーム の信徒。女性の場合は特にムスリマというのでそれに対比して男性の信徒のみを指すこともあるけど、基本的にジェンダーを問わず信徒全体をそう呼ぶ。アメリカだと問題にされるけど、イスラーム圏はまだそういう風潮は少ないのかな。

ついでにイスラームもきちんと書いておこう。現在のサウジアラビアに生まれ育ったムハンマドという男性をアッラー(唯一神)の最後にして最大の預言者と信じ、彼が啓示した聖典 #クルアーン に従う宗教って定義になるかな。昔はイスラム教または回教、マホメット、アラー、コーランって書くことが多かったけど。

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イスラームはアッラーへの絶対服従という意味で、それ自体が教えを指すので、英語でもIslamIと書いてismをつけない。日本の神道もShintoismと書くこともあるけどShintoの方が使われるというのと一緒。

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よく「アラーの神様」とかいうけど、アッラーは固有名詞ではなく一般名詞。だからアラビア語のキリスト教聖書でも神のことはアッラーと書いてある。

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預言者というのはアッラーから文字通り言葉を預かった人で、ヌーフ、イブラーヒム、ムーサー、イーサーに次いで言葉を預かったのがムハンマド氏。そして「最後にして最大の」という称号をつけ後から別の預言者が出ないように楔を打っている。ヌーフとかいわれても誰やねん、かもしれないけどヘブライ語に直せばそれぞれノア、アブラハム、モーセ、イエス。ほら知ってる人でしょ。

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同じ唯一神を信仰しているけれどもイエスやムハンマドを認めないのがユダヤ教、イエスをキリスト(神から得ればれた救世主)と信じるけどムハンマドを認めないのがキリスト教、イエスとムハンマドを預言者として尊重するのがイスラームということが言える。今日はイスラームそのものの話を深くするつもりはまったくないけど、3宗教の関係については欧米や中東では当たり前の話なので、このことだけでも踏まえておいてほしい。

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さて、ヒジュラ暦はイスラームが定める暦で、ヒジュラを紀元とし、月の運行のみで定める純粋太陰暦。

日本を含めた中華圏でも太陰暦が伝統的に用いられていたというか、今でも朝鮮やヴェトナムを含めた中華圏では使うけど、太陽暦を併用して補正をするため厳密には太陰太陽暦といって、純粋太陰暦とは別物。そのため月の公転と太陽の公転にズレが出てくると閏月を設けて調整する。ついでに二十四節気という太陽暦も併用し、立春などがそれにあたる。

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純粋太陰暦を使うと季節とは大きくずれてしまう。月の暦で生活しているのはムスリムとサーファーくらいのもの。ドライスーツが普及して以降サーファーは冬でもガンガン海に出るよね。

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預言者ムハンマドは商人の家系で、毎月の日数が一定の方が都合が良いし、出身地のメッカが北緯21度、拠点となったマディーナが北緯24度でそれほど季節感がないことも関係している。

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だけど、イスラームがペルシャの農民達に波及するとヒジュラ暦のみを使うのはなかなか厳しいものがあった。そこでペルシャでは春分を正月しゾロアスター教に由来する太陽暦を別途用いて併用することになる。ペルシャ暦もやはりヒジュラを紀元としているので、ヒジュラ暦をヒジュラ太陰暦と呼ぶのに対比してヒジュラ太陽暦とも呼んだりする。

ペルシャ暦は33年に8回の閏年を置き、400年に97回の閏年を置くグレゴリオ暦より正確。なお、ペルシャ暦の正月、つまり春分にはペルシャ文化圏であるイランや中央アジアではノウルーズが祝われるのだけど、インドのホーリーと時期が近く、ホーリーの起源のひとつにペルシャ圏と隣接するカシミールの悪魔祓いがあること、ペルシャと繋がるアーリア系の北インドでは盛り上がっても南インドではそうでもないことなどからノウルーズとホーリーは多分関連している。

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さっきからヒジュラ、ヒジュラっていうけど一体何だそれ。ヒジュラは聖遷と訳されるけど、グレゴリオ暦622年にメッカを追われた預言者ムハンマドとムスリム達がマディーナに移住したことを指す。

ヒジュラの道中の苦難を追体験するために、ムスリムはラマダーンに断食する。

ヒジュラが行われた月はヒジュラ暦の1月(ムハッラム)なんだけど、ラマダーンは預言者ムハンマドから聖典クルアーンが啓示された月なので、ラマダーンに書かれている断食の義務を遂行する月になっているわけ。

断食は飢えた人への共感を覚え、苦難を分かち合うことでウンマ(共同体)の連帯を強固にする効果があり、実際にザカート(喜捨)と呼ばれる貧しい人への寄付が増える。

ラマダーンの断食には一種のファスティング効果があるという人がいるけども、日中に水分すら摂らず未明と夜に食べまくる行為が身体にいいとは思えない。同じ量を食べるなら分けて食べた方が太らないとされており、ラマダーン期間に太る人が多い。ファスティングって全然詳しくないけど、酵素ジュースを飲んだりして身体を整えながらやるものなので、全然違う。社会を運営するための装置であることは間違いないけど、健康には絶対よくない。

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断食は旅行者、重労働者、妊婦、乳幼児、老人、病人などは免除されるけれど、旅行者や軽い病人などは後でやり直さなくてはならないし、アスリートもこの問題と常に闘っている。イスラーム圏ではこの時期試合はやらないが、異教徒との間ではそういうわけにもいかない。やり始める年齢に明確な規定はないけど10歳あたりかららしい。

また、コロナ禍においては医療従事者の断食免除も発表された。案外現実的なんだよ。

断食のみならず、ムスリムが義務を励行するのは個人の判断。なぜならイスラームにおいては全ての人は平等かつ個人。個人とアッラーの間にのみ関係性がある。そのため目の前に断食しないムスリムがいるからといって断罪するのは野暮だし、ヒンドゥー教の苦行などと一緒にしてはいけない。

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「私も断食する」、「断食をしなければいけない」、じゃないのよ。

「私は断食する」、「君も断食してるんだ、じゃあ仲間だね」って感覚。これが断食による共同体の連帯。

ラマダーンの始まりは長老達による新月の目視確認で、複数人によるチェックが必須。故に曇天などで1〜2日ずれることもままある。先ほど「予定」と書いたのはそのため。

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日本でも新月観測委員会が結成され都庁展望台などでこの作業が行われているけれど、目視できなかったときは(というかできた例がない)一番近いイスラーム国家であるマレーシアの見解に従うことが多い。

各国人で集まるコミュニティは母国の見解に従う。したがってある国やあるコミュニティは断食をしていてもある国はまだしていない、あるいはもう終わったということがままある。そういう人間臭いところが残っているからこそイスラームは広がっていったんだと思う。

さてラマダーンはグレゴリオ暦から見ると、毎年前倒しされるようにずれていき、昨年はグレゴリオ暦4月13日から30日間のところが多かった。今年は4月1日から始まる予定だった。33年で1周するため、ムスリムは一生で2度同じ季節にラマダーンを経験すると言われる。イスラームやユダヤ教では一日は日没から始まる。だから断食はいつから始まるかというと翌朝の日の出ということになる。

北緯21度のメッカでは真夏でも昼間は13時間半ほどなので、1年を通してそんなに差はない。実際、イスラーム圏が緯度の低い国に集まっているのはそういう理由。イスラーム圏で最も緯度が高いと思われる主要都市は新疆ウイグル自治区のウルムチで北緯43度、真夏の日中は15時間余り。

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ここがムスリムの生息できる限界であると思われるけれど、現代では北緯50度を上回る北欧諸国が諸宗教、諸民族に寛容なこともあり多くのムスリムが移民している。したがって白夜の断食は地獄となる。

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新月に関しては母国に従うのに、断食時間は郷に入っては郷に従えなのが不思議っちゃあ不思議。

ラマダーン期間は日没になるとイフタールといって普段よりもご馳走が出ることが多く、かつ地域みんなで集まってのパーティーになることが多い。日本のお節に当たるかな。

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なお、イフタールは本来「朝食」を意味する。先述のようにイスラームやユダヤ教では日没をもって一日が始まるからである。ある意味で「 #朝活 」なんだよね、イフタール。

断食は辛いけれど、みんなで集まってパリピになれるので楽しいひと月でもあるんだけど、そういう事情にウイルスは斟酌してくれはしない。イフタールがクラスターを発生させたことから現在は「 #おうち時間 」が推奨されている。切ないね。

先ほど書いたようにラマダーンの間はザカート(喜捨)といって寄付も増えるが、消費意欲も高まると言われており、イスラーム圏ではラマダーン商戦が行われ、クリスマスのような景気刺激策としての意義もある。

以上を見ているとラマダーンは断食というツラさはあるが、それ以上にみんなで騒げてパリピになれる楽しいひと月。だからラマダーン=ムバラク、あるいはラマダーン=カリームという挨拶がメリクリ、あけおめのように使われる。

はい、言ってみよう。

ラマムバ❣

ラマカリ❣

そしてラマダーン明けにはイード=アル=フィトルという大祭が行われる。この日こそが本当の意味でみんなが楽しみにしているクリスマスのような日といえる。ラマダーン期間に買ったおニューの服を着飾る人が多い。やっぱりイード=ムバラクとか言うのね。

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イフタールやイード=アル=フィトルは本来、断食の連帯感あってこそのものだけど、断食免除者も参加するし、異教徒でもお呼ばれされることは多い。

先ほども書いたように、断食をするしないはあくまで個人とアッラーの間の関係であることとともに、イスラームの良さを外の人にも知ってもらい共同体を広げることが重視されているからで、これが本来の意味でのジハード(聖戦)。

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2005年以降、日本の総理大臣主催でイスラーム諸国の大使を招いたイフタールが行われ、好評を得ている事実がある。911以降「文明の衝突」が叫ばれるなかで日本が独自の外交を模索した結果といえる。一緒に飲み食いしたら仲良くなれるのはみんな一緒なんだ。

ただ、スンニ派の国が圧倒的で、シーア派のイラン、イバード派のオマーンがそこに参加していないのはちょっと寂しい。どちらも親日的な国のはずだしね。

2019年を最後に開かれていないのは仕方のない話。オンラインでやってもいいんじゃないかと思うけど、デジタル庁の見解を聞きたい。

南アジアのラマダーン

ここでアラブ発祥のイスラーム世界のなかでは傍流かもしれないけど、南アジアのラマダーンについて見てみたい。インド部屋で喋った話だからね。

ムスリムが最も多い国はインドネシア🇮🇩だけど、その次がパキスタン🇵🇰、インド🇮🇳、バングラデシュ🇧🇩と南アジアの国が並んでいてムスリムが1億人を超えているのはこの4ヶ国だけ。

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仏教がインド、キリスト教がイスラエルを既に離れているのと同じようにイスラームもアラブだけの宗教では既になくなっている。

イスラーム国家のパキスタンやバングラデシュではイード=アル=フィトルが国民の祝日になっているのは当然で、バングラデシュはさらにその前夜祭も祝日になっている。

ところが確かにムスリムが多いとはいえ多数派ではないインドでも当日が祝日になっている。インドでは諸宗教の祭日を祝日としており、クリスマスやブッダ生誕祭も祝日になっている。イスラーム関係としては犠牲祭とムハンマド生誕祭も祝日。

イスラーム関係の日は前述の通りグレゴリオ暦とズレるから、以前ムハンマド生誕祭と他の何かが連日になってしまい、駐日インド大使館が大混乱して発給されたヴィザが全部シングル(インドに1回しか入国できない)になるという恐ろしい事件が起きたことがある。

その時たまたまヴィザ申請をしていたお客様が仏跡巡りでさ💦

ルンビニー(釈尊生誕の地)に行くために一度ネパールに出国してまたインドに戻ってくる行程だから大わらわ。

ちなみにシングル=ヴィザと気づかず、ネパールに入ってしまうと、帰り国境でインドに入ることができなくなってしまい、日本に帰るかカトマンドゥのインド大使館でヴィザを取り直さなくてはいけなくなってしまう。悪夢だよ😨

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インドでもコルカタなどムスリムの多い地域ではラマダーンの間は工場が動かないなど影響がもろに出るためイスラームを知らずにインドを語ることはできない。

また、ラマダーンとその前後はカシミール独立派などのテロが起きやすい。カシミールはムスリムが多いので。

2019年にスリランカで起きたIS支持者によるテロもラマダーン直前だった。ムスリムにとっては良くも悪くも気分が高揚しやすい日だということを踏まえておく必要がある。

さて、南アジアのイフタール料理はデーツなど中東由来のものと、パコラ、サモサなど当地のものが混ざり、シメはやはりカレー、プラオ、ビリヤニなど。

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デーツやジュース系(ローズウォーターが多い)から口につけフルーツもよく食べるのは、断食明けで血糖値を上げる食前酒、お屠蘇的な意味もあるけれど、ムハンマドが食事の最初に必ずデーツを食したことから広まったともされる。これだけは中東産のことが多く、イスラーム圏の交易ネットワークの象徴ともいえる。

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昨夜講義をした後に、チェンナイ出身のムスリムがスピーカーとして上がってきてくれて、ノンブ=カンジという南インドのイフタール料理を紹介してもらった。ビリヤニの味がするお粥だとか。

これがイフタール期間にモスクでムスリムに配ってくれるんだけど、家族で食べきれないほどの量なのでご近所さん達にも配る。もらいに来るご近所さんはヒンドゥー教やキリスト教の人なんだってさ。逆にヒンドゥーの祭りもクリスマスも宗教の枠を超えて祝う人が多い南インドらしい暖かいエピソードだよね。

こういうインドならではのインター=レリジョンとでもいうべき状況がモディ政権になって急速に壊れつつある。

ちなみにヒンドゥーとイスラームのフュージョンを狙ったのがシク教だけど、シク教では断食は不合理的なものだとバッサリ斬ってるのは興味深い。

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インドの政治家は票田を狙ってイフタールに参加することが珍しくないんだって。どこの国の政治家も変わんないね😅

でもヒンドゥー原理主義のモディ首相はそれをしないという。

だけど日本の首相のようなイスラーム諸国の大使とのイフタールはインドの首相だからこそやる意義があるのではないかな。

中東諸国は少なくても経済的なパートナーであり、このような関係構築がラマダーン=テロに対する最良の方策だと考える。

おわりに

異教徒から見ると最強に奇異に見える行事、それがラマダーン。

それをできる限り異教徒にわかりやすいように書いてみた。

断食とご馳走をくり返すのは生理的にいいことではないと思うけど、イスラームの共同体を強固にするという意味では極めて緻密な装置だということ。

それを知るにはコロナ禍でなかなか難しい面もあるけど、やはりイフタールに参加してみるのが一番いい。

いきなりモスク🕌に行くよりまずはイフタールメニューを出すレストランとかでいいんじゃないかな。感染対策を考えても。

状況が落ち着いたら、日本各地に増えているモスク、マスジドといったところに行ってみるといい。

東京で最も有名なのは小田急線からも見える代々木上原の東京ジャーミィ。

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関西では神戸モスクが有名。

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自分も昔はいくつかイフタールを体験しに出かけてたけど、2020年以降は自粛してる。

また楽しい夜を過ごせる日が訪れることを願って。

さて、次回の講義は4月7日20:00から、ル=コルビュジエについて話すから良かったら聴いてね❗️上野の国立西洋美術館リニューアル記念だよ‼️

それじゃあバイバイナマステ💚暑寒煮切でしたっ🌙


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