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沖縄そばの日だからこそ考えるべきこと

こんばんナマステ💛Kyoskéこと暑寒煮切(あっさむにるぎり)だよっ✨

本日10月17日は沖縄そばの日、ということになっていて、沖縄県内ではスーパーでセールやったり、お店では割引したりといったちょっとしたお祭りごとになっている。

ちなみに都内ではわざわざこの日に合わせて開店するお店があるようで。

沖縄そばの日の制定理由というのも割と有名な話で、沖縄の施政権が日本に移管された後に公正取引委員会から「蕎麦粉を使ってないのにそばを名乗るな」とクレームがついて、

沖縄生麺協同組合が公正取引委員会と折衝を重ねた結果、1978年10月17日に沖縄そばを名乗ることに許可を得られたという話。

この経緯について、我々ヤマトンチューからするとぶっちゃけなにそれ❓って感じがするんだよね。

だったら中華そばや焼きそばはなんだよ、って話。

あるいは立ち食いそばの麺なんてほとんど蕎麦粉入ってないことがあるし、西日本では中華麺のことを「そば」と呼ぶのは割と当たり前。

関西で黄そばといえばうどん出汁に中華麺、広島で肉玉そばといえば中華麺の入ったお好み焼き。

詳しい経緯や定義がわからなければ、このような疑問が出て仕方がないわけで。

公正取引委員会のクレームとはこーゆーことなんだよ、というのを掘り下げて書いてみたい。

まず、蕎麦という植物自体は縄文時代の遺跡からも見つかっており、古墳時代から栽培も始まっている。原産地は中国と言われており、日本列島には相当早く伝来している。

しかしながら今日において我々が蕎麦と呼ぶ麺状のもの、要するに蕎麦切りは室町時代に生まれ、江戸時代に波及した。

例えば徳島県の祖谷渓谷では元々蕎麦を使った料理が多く、麺についてはわざわざそばきりと呼ぶ。

しかし日本人の多くはそばイコール蕎麦切りという認識になった。とくに蕎麦の栽培に適した寒冷地の多い東日本でね。

明治時代に中華麺が入ってくると、かけそばの要素を融合させた料理を支那そばと呼び始める。

ただし中華麺が直接入ってきた横浜周辺と、そばの文化がなかった北海道では原語に近いラーメンという呼び方が定着した。

また炒麺についても焼きそばという呼び名が普及したけれど、やはり横浜や北海道では炒麺・チャーメンという呼び方が見られる。

戦後になり支那という呼び名自体がタブーになったことから、中華そばという言葉が使われるようになる。

中華麺について北海道ではラーメン、北海道を除く東日本では中華(中、中か)、西日本ではそばと呼ぶことが多く、蕎麦切りが普及していたか否かで決まっている様子。

例えば冷やし中華のことを北海道では冷やしラーメンと呼ぶけれど、西日本の人は冷やし中華をそばの仲間とは考えず、冷麺と呼んでいる。

さて、公正取引委員会は戦前から存在したけれど、現在の組織は戦後に発足している。

そのうえで1962年に施行された不当景品類及び不当表示防止法、通称景品表示法に基づいて公正取引委員会が定めた公正競争規約というのが沖縄そばの呼称問題に絡んでくる。

まず、景品表示法の対象は一般消費者が認知できるもので、市販の麺類は対象になっても、飲食店のメニューまでいちいち取り締まられたりはしない。

だから蕎麦粉がほとんど入っていない立ち食いそばまでは取り締まられないし、公的にはタブーとなっている支那そばも未だ掲げられている。

公正競争規約は品目毎に定められており、このなかで生めん類の表示に関する公正競争規約というのが沖縄そばに関わってくる。

ここで話を沖縄に移す。

沖縄そばは中国から伝わった琉球王朝の宮廷料理が元になっているとは言われているけれども、現実的な沖縄そばの元祖といわれているのは明治時代に大阪から渡ってきた支那そばであり、豚出汁の醤油スープだったといわれている。

これはすぐに沖縄の人の口に合うよう鰹出汁に変わっていくけれど、戦前においては支那そば、さらにはそば、それらが訛って支那すば、すばと呼ばれていた。

それが蕎麦切りでも支那そばでもないことは明らかだったので、琉球そばと名乗ったらどうかという行政指導が入ったけれど定着しなかった。

しかしながら戦時体制に入っていくなかで海軍の軍人がそばを頼んだら沖縄そばが出てきてクレームになるということが相次いだため、沖縄そばという言い方が少しずつ出てきてはいた。

それが一般的に広まるのは戦後のアメリカ統治下であり、アメリカという第三者が入ることでヤマトの文化を相対的に見ることができ、沖縄のアイデンティティが確立したからだろう。

アメリカが小麦粉を流通させたこともあり、アメリカ統治下では沖縄そば自体が波及し、市販品も並び始め、施政権が日本に移る。

日本の社会制度に合わせて1975年に沖縄生麺協同組合が設立されたところで、翌年公正取引委員会がクレームを入れるに至った。

曰く生めん類の表示に関する公正競争規約に規定されているように蕎麦粉が30%以上入っていないめん類なのにそばを名乗るなと。

それで沖縄生麺協同組合が立ち上がり、1978年の今日沖縄そばを名乗ることが許されることになる。

許されるというのは認可ということであり、既に確立していたルールである生めん類の表示に関する公正競争規約に沖縄そばの存在が書き加えられたってこと。

該当するところを見てみるね。

(定義)
第2条 この規約で「生めん類」とは、小麦粉等の穀粉類を主原料として製めん、成形したもの及び製めん、成形した後「ゆで」、「むし」、「油揚げ」、「半なま」又は「冷凍」の工程を経たもの(以下「加工したもの」という。)であって、「うどん」、「そば」、「中華めん」、「生マカロニ類」、「生スパゲッティ類」、「ソフトスパゲッティ式めん」、「大麦めん」、「大麦そば」、「冷めん」、「米粉めん」及び「ぎょうざの皮等」並びにこれらに準ずるものとして公正取引協議会で査定し、消費者庁長官及び公正取引委員会の承認を得たものをいい、乾めん、即席めん、食堂で顧客に提供するために調理しためん類及び自動調理販売機により販売されるめん類は含まない。


とあり、このあとで各麺類についてひとつずつ定義が書き込まれている。ここでは「そば」「中華めん」のみ参照する。

3 この規約で「そば」とは、そば粉30%以上、小麦粉(灰分が 0.8%以下のものに限る。)70%以下の割合で混合したものを主たる原料とし、これに水を加えて練り合わせた後製めんしたもの又は製めんした後加工したものをいう。

4 この規約で「中華めん」とは、小麦粉にかんすい(唐あくを含む。)を加えて練り合わせた後製めんしたもの又は製めんした後加工したものをいう。


ここで飲食店やカップ麺などの即席麺が対象外であること、そして沖縄そばに関わってくる「そば」「中華めん」の定義がわかる。そこを踏まえたうえで次ね。

(品名等の表示基準)
第1条 生めん類の表示に関する公正競争規約(以下「規約」という。)第3条第1項第1号アに掲げる事項は、次表に掲げる基準に従って、別記様式1により一括して表示するものとする。


とあって、その次表には「分類」・「表示すべき品名」・「なま、ゆで、むし、油揚げ又は半なまの別」という3行が掲げられている。

このうち2列目が「そば」、3列目が「中華めん」を見ていく。

2列目の「そば」において「表示すべき品名」には「そば ○○そば等一般消費者に誤認されない名称に替えることができる。」とある。

「そば」の定義は「そば粉30%以上」であるから、それを満たさない市販の沖縄そばは「一般消費者に誤認される」ものになってしまう。

続いて3列目「中華めん」の「表示すべき品名」を見てみると「中華めん チャンポン、焼そば、揚そば、中華そば、ラーメン、たんめん、沖縄そば、炒麺(チャーメン)に替えることができる。」とある。

「沖縄そば」は「焼そば」「揚そば」「中華そば」とともに「中華めん」の表記として認められている、ということになる。

1978年10月16日まではここに「沖縄そば」が含まれておらず一般消費者に「そば」と誤解される表示という解釈だったわけね。

交渉の途中である1977年には沖縄県内に限り「沖縄そば」を名乗ってもいい、ということになったけれども、沖縄生麺協同組合は承服せず日本全国で売れるように戦い抜いた。

販路を拡大したいということもあっただろうけど、横浜の鶴見や大阪の大正にいる同胞のためでもあったのかもしれない。

このときさらに「本場沖縄そば」の定義も別表に記されたので、その条文も見てみる。

別表
名産、特産、本場、名物等を表示する場合の基準は、下記によるものとする。

沖縄そば
沖縄県内で製造されたもの
手打式(風)のもの
原料小麦粉 たん白質11%以上 灰分0.42%以下のもの
加水量 小麦粉重量に対し34%以上 ~36%以下
かんすい ボーメ2°~4°
食塩 ボーメ5°~10°
熟成時間 30分以内
めん線 めんの厚さ 1.5から1.7mm 切歯番手 薄刃の10番~12 番
手もみ 裁断されためん線は、ゆでる前に必ず手もみ(工程)を行う
ゆで水のpH 8~9
ゆで時間 約2分以内で十分アルファー化されていること
仕上 油処理してあること

以上の条件をクリアしないと「本場沖縄そば」を名乗れないことになっている。他の麺類と比較しても矢鱈細かいんだけど、これは沖縄生麺協同組合が極めて閉鎖的な組織だったからだろう。

ちなみに即席麺については沖縄そば、沖縄風そば、琉球そばといった呼称が乱立している。

即席めんの表示に関する公正競争規約が別に存在するのだけど、そちらはだいぶ緩い。蕎麦粉が30%未満であるものは「蕎麦」と書くな、「そば」と書け、というくらいのもの。

むしろ生麺と誤解を招くような表記をするな、とかそっちに比重が置かれている。

かくして生麺としては堂々と沖縄そばを名乗れるようになり、飲食店や即席麺にとっても強い後ろ盾を得たことになるけれど、実はこの定義には問題がふたつある。

ひとつは宮古そば、八重山そばをどう考えるか。

宮古・八重山からすると沖縄(本島周辺)の王朝に併合されて以降、未だに沖縄の支配を受けているという価値観を持っていることが少なくない。

だから宮古そば八重山そばというアイデンティティがあるし、その立場からすると沖縄そばは沖縄のそばであり、宮古そば・八重山そばは含まれないということになる。総称するなら琉球そばということになるだろう。

そのような呼称は即席麺では許されても、生麺では許されない。また公正取引委員会がしゃしゃり出てくる。宮古・八重山風沖縄そばが限界か。

もうひとつはつなぎの問題。

最初に沖縄へやってきた支那そばは恐らくかんすいを用いていたと思うけど、かんすいが手に入りにくかった時代の沖縄そばはガジュマルの木灰が用いられていた。

木灰独特の香りこそ沖縄そばらしさと考える人も多く、近年の意識高い系の店は木灰の使用率が高い。また、即席麺でも木灰そばが出ている。

だけど、こちらもやはり生麺としては許されず、それは公正競争規約で「中華めん」の定義として「小麦粉にかんすい(唐あくを含む。)を加えて練り合わせた後」とあり、「本場沖縄そば」の条件としてもかんすいの分量が定義されているからね。

1970年代において市販品を製造する際かんすいの方が圧倒的に効率が良かったのだろうけど、現在木灰の即席麺が出ていることを思えば、生めん類の表示に関する公正競争規約のせいで沖縄そばの可能性を狭めていることになる。

これは沖縄そばの呼称認可50周年を目前にして考え直さなきゃいけないことなんじゃないのか。

ちなみに「唐あく」は長崎ちゃんぽんに用いられるもので、別表にある「長崎チャンポン」の項目には「唐あく」の分量が定義されている。

長崎の独自性が国から認められているということでもあるし、そうさせるために戦ったのだとも思う。

沖縄においてそうなっていないのは沖縄生麺協同組合の怠慢じゃないのかと。

ラーメンの世界ではかんすいの代わりに卵や重曹を使うものもあるし、つなぎのない無加水麺もある。

長野県飯田市のご当地ラーメンは重曹麺だけど、日本ラーメン協会の定義するご当地ラーメンからハブられているのはもしかしたら重曹だからなのかもしれないよ。

こうしたものが生麺に限り「中華めん」系の呼称を名乗れないのは木灰そば同様の問題があるように思う。

もちろん沖縄そばだって重曹、卵、無加水といったアプローチは否定されるものではないだろうし。

とくに年配者があまりラーメンを食べない現状にある沖縄の人はなかなかこういう問題に気付かないんじゃないかな。

例えば憲法記念日においては多くの人が日本国憲法の意義と問題点の両方を議論するよね。

それと同じことが沖縄そばの日に行われなきゃダメでしょ。

生麺だけが多様性から置いていかれていいのか。

逆にいえば家庭料理で用いられる生麺が足を引っ張ることで外食や即席麺を含めた沖縄そば自体がアップデートされなくなってしまう。

沖縄生麺協同組合というのは46年前の今日を皮切りに利権団体になったともいえるし、そのプロパガンダこそが沖縄そばの日なんだろうけど、

この日をきっかけに多くの人が沖縄そばのことを考える日になれば、本当の意味で沖縄そばの日は輝くものになるんじゃないだろうか。

ちなみに今日は色々都合もあり、沖縄そばは食べてないよん。

別に反発してそうしているわけじゃなく、東京にいても食べたいと思える沖縄そばは限られているからさ。

それじゃあバイバイナマステ💛暑寒煮切でしたっ✨

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