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もう山脈はそこにない

職場に着いてまずやることは、机を除菌シートで拭きながら、前日に書いた"やることメモ"を見て、一日の予定を立てる。
定時で帰る私の机には、予定の追加や変更の連絡付箋も貼られていたり、
除菌シートを捨て、手洗いをしパソコンを立ち上げている間に、予定を組み立て直す。
机の上には、カレンダー、除菌シート、パソコン。整然としている。

以前の私の机は書類の山があった。山というよりもう山脈。なんなら台地。
でも私はどの書類が山のどの辺りにあるかを把握していたので、特段困った経験もなく、山がなくなるのは長期休暇前、もしくは年度末。

ある資料を探していた先輩は、私も同じ会議に出ていたので、その資料を持ってないかと電話してきたことがあった。
「ありますよ、机の上に。勝手にとっていってください。」
なんて答えていたら、そう思って机の前に居るが山すぎてわからなかったらしい。
「手前の列の右から2番目の山の中腹です。青いファイルの断層があるんで、その上がそうです。」
「まじであった!!お前やばいなーーー!!」
「私わかっちゃうんですよね〜。」
もちろん、この"やばい"は=すごいという褒め言葉ではなく。
机が山すぎてやばいんですが。

その先輩は、1年間で私にしっかり今の仕事を叩き込んでくれたし、あるべき姿というのを見せてくれていた。
とりあえず、自分のやりたいようにやってみろ。
と。
やった後で、しっくりこなかったことに対して相談に乗ってくれた、さも雑談かのように。
その時のチームがとても心地よかった。

もちろん目まぐるし忙しさだったし、後々聞いた話、誰も入りたくなかったチームらしい。
めちゃくちゃ納得。

でも、次の年からどんとこいな度胸がついたし、
おっさんキャラが確立しちゃいましたよ。
(いい意味で)


お互い異動して今では連絡もほとんど取らなくなったけれど、私がうつ病で休職した時に連絡がきた。
『俺みたいな男前になるまで。前みたいに全員分の肉を食べ尽くせるようになるまで休めよ。』


机の上には、仕事の熱意だったり、意欲だったり、目標みたいなものを全部積み上げていたように思う。
どんなにしんどくても、残業代の出ない残業でも文句を言いながらも楽しかった。


今はまっさらになった更地。
仕事に向き合う姿勢も変わった。

毎日、机を見るたびに懐かしくもなる山脈。
そこに置いてあったものは、今どこにあるだろう。











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