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公認心理師(国家資格)制度におけるモラルハザード(2)信用性の低いカウンセラーが国家資格でラッピングされてしまう

心理職として働いて来た経験者が公認心理師試験を受験するためには、5年以上の実務経験が必要です。公認心理師制度におけるモラルハザード(1)では、心理職ではないにも関わらず、医療、福祉、教育などの分野で他職種として働いて来た方が、その経験年数を「心理支援をしてきた」と自己申請し、資格を得てしまうモラルハザードについて指摘しました。

次に指摘するのは、自称「心理職」の方々の実体についてです。心理職とみなすにふさわしい層についても(1)で既に述べていますが、そこに含まれない様々な層が、自己判断と所属長の認めによって受験資格を得、有資格者となっています。

公認心理師資格は国が認める心理職資格として信用性を高めるために作られたことは言うまでもありません。その公的資格が成立するまで、業界では様々な試行錯誤が重ねられてきました。同時に、民間資格であっても出来るだけ社会の信用を得ようと養成制度を整え、スクールカウンセラーになるためには必須と公が認めた民間資格もあります。それは大学院レベルの教育を通過していることを前提としていました。

このように民間資格と言えども半ば公に認められる資格もあれば、そうではないレベルの資格まで様々に存在しています。これは現在進行形の話で、それは公認心理師が業務独占資格ではなく、名称独占に過ぎない資格だからです。業務独占というのは、例えばカウンセリングを行うには『この資格がないと行ってはならない』と規定することです。それに対し、名称独占は、「公認心理師」という名称は公認心理師試験に合格し、国に登録した者しか名乗ってはいけないという規定です。つまり、心理業務自体は何一つ、国がコントロールしていないので、未だ自称カウンセラー、自称心理職は活動を続けられる状況にあるということです。

よく指摘されるのは、短期間で資格を発行してしまう「資格商法」的な資格の信用性の低さです。資格を自ら発行する側に回れば、今度はそれで一儲け出来るので、モラルに問題のある方がよく行っています。もちろん、そんな発想や行動に出ること自体、自身が信用出来る教育を受け、実践する経験を積んでいないことの証明になります。そして、その資格に続く方々がインスタントに「カウンセラー」になっていくわけです。

これらの民間資格は専門性が十分ではないのは当然ですが、さらにカウンセラー、心理業務とは関係のない占いやスピリチュアル、民間療法や自己啓発、宗教的信念を混ぜ込むことがあります。

実は、これらの層も(1)の他職種同様に、「心理支援をしていました!」と自称して所属長に認めてもらえれば受験出来てしまいました。また、(1)で指摘したのと同様に、占いやスピリチュアル、民間療法、自己啓発などに携わった人が「心理支援をしていました!」と自称して受験資格を得ることも出来ました。公認心理師資格は信用性を高めるために作られたはずですが、信用性に欠ける自称カウンセラー、心理職も公認心理師になれてしまったのです。

これらの民間資格者は短期間で取れるから批判されることもあり、だからこそ、以前から「短期で簡単に取れるカウンセラー資格には注意しましょう」と警鐘を鳴らすことが出来ました。

ところが、この短期間で取れることの信頼性の低さと、経験者として公認心理師資格を得ることが、重なる結果となってしまいました。というのも、経験者として公認心理師試験に申し込む前に必ず受けなければならない「現任者講習」というものがあります。これにかかる時間は30時間でした。しかし、この講習は自己申告で誰でも受けられ、その後、5年以上の自称「実務経験」を所属長の認めと共に申請し、試験実施団体に認められれば受験出来たのです。つまり、短期間で取れる民間資格が信用性の問題をもちながら、公認心理師資格も実質、30時間で取れる資格になってしまったのです。

信用性に乏しい民間資格、ないし無資格の自称カウンセラーも含め、5年以上の自称「実務経験」があれば公認心理師試験は受験出来るので、合格し、登録すれば公認心理師として新たに”ラッピング”されることとなりました。

こうして、(1)と本論で述べたように、不適切に受験資格を得た層が公認心理師として有資格者になっています。

この状態は2022年7月に行われる第5回目の試験まで続きます。実は、第4回目の試験が終わった後に受験資格を不正に得たとして、公に処分が下されました。その内実がどのようなものだったかは不明ですが、(1)と本論で述べたような資格取得者は第4回目までにかなりの数になるでしょうから、なぜ第4回目が終了するに至るまで放置状態だったのか、理解に苦しみます。第5回目でも、これまでに述べたような有資格者は出て来ることでしょう。ただ、処分が公にされてようやく、自称「実務経験者」が所属長に許可を得られない案件が出てきたようです。許可を下す所属長側も、自分が責任を問われては敵いませんから、今までよりも安易な判断は出来なくなったのだと思いますが、そのために受験したかった人たちが「あの人は認めてもらったのに、自分が認められないのはおかしい」とSNSで阿鼻叫喚の声を挙げています。最初から不適切な自己申告なのですから、不公平も何もないのですが、おかしな、あきれた話です。

関係者が苦労して築いてきた国家資格は、かくして信用失墜してしまい、この資格を持っているから最低限の保証が出来るとは言えないものになってしまいました。

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