LAVENDER RINGとがんで亡くなった父のこと。

2月9日(火)

校了に向かって最終チェックなどをする日。議論が高まっているジェンダーに関するものは、ちょっとした表現の違いで誤解を生んだり人を傷つけたりする可能性がある。いつもよりも慎重になる。

他にこれといった急ぎの仕事はないので(大丈夫か、私!?)、世界対がんデーの2月4日に発売され、先日贈呈本が届いた『自分らしく、を生きていく。』に目を通してみる。「がんになっても笑顔で暮らせる社会の実現」を目指して、資生堂と電通が推進しているプロジェクト「LAVENDER RING」の書籍。私は対談ページなどをお手伝いした。資生堂スタッフがヘアメイクを施しプロのカメラマンが撮影した206人のポートレートが、インタビュー内容とともに1冊にまとめられている。

私の父はがんで50歳で亡くなっている。彼は食道がんと喉頭がんを患い、「LAVENDER RING」とも関連している国立がんセンターで2度の大きな手術を受けたが、2年数ヶ月の闘病生活の末に他界した。あれから20年くらいの月日が流れ、私の心の傷はだいぶ癒えた。もし10年前に今回のお仕事の依頼があったら、私はまだ自分の経験が生々しくて引き受けられなかったと思う。ちょうど良いタイミングだった。

二人に一人が、がんになる時代である。しかし、がんになったら今までのように仕事を続けられない人は多いし、周りの視線や態度は変わることが多い(それはがん患者への気を使ったものであるので、思いやりとも捉えられるのだけど)。社会から切り離されてしまう、取り残されたような気持ちになってしまうがん患者は多いと思う。そして社会で自分の居場所をなくすことは、「自分は生きる意味がない」と絶望を抱くことにつながりかねない。だから、「LAVENDER RING」がしている、がん患者やがんサバイバーに新たな居場所を作ることはものすごく大切なことだと思う。プロにヘアメイクをしてもらって撮影してもらうという、とびきり輝ける居場所だし。

もし20年以上前にこのプロジェクトがあって、父にお声がかかったら彼は参加しただろうか?うーん。

父の闘病のことは、私にとって辛過ぎるものだったからかあまり記憶がない。ただ、今回のことをきっかけに父がPCに残したものを見ていたら、同僚か友人かに宛てた文書が見つかった。亡くなる3ヶ月ほど前に書かれたもので、この頃はもう助かる見込みはないと分かっていたはずだ。自分の辛い状況をなんとか客観視し、そして少し茶化し(←これは父の性格)、最期まで”いつも通りの日常”を送ってやろうという父の意地みたいなものを感じた。多くの人とつながっていたかったし、自分の存在を忘れてほしくなかったのだと思う。だから、「LAVENDER RING」のプロジェクトには、ヘアメイクもノリノリで楽しみ参加したのかも!?

小説を雑誌に発表するほど文章を書くのが好きな人だったから、もし父が生きているときにこのnoteのようなものがあったら、闘病記とかを書いていたと思う。ので、さほど面白い手紙ではないけれど(ゴメンネ。でも、編集者の娘としては、もう少しオチや感動ポイントがないかねなどと突っ込みたくなるわけ。元気な時だったら、もう少し面白い文章が書けたのかな)、父がぜひやってくれと言っているような気がするので、ここに父の存在を残します。

・・・

拝啓 新春の候いかがお過ごしでしょうか。

 先日はお忙しい中おいで下さいましてありがとうございました。久しぶりに楽しい時間を過ごすことが出来ました。

 スナップ写真が出来ましたので同封致します。

 写真を見ますと私の顔は見るも哀れに痩せていますね。最近測った体重は42Kgで健康なときよりも15Kgも減りました。このダイエットだけは人には勧められませんね。

 年が変わり2 、3日は体の具合が良くなかったのですが、ここ数日は調子よく過ごせています。食欲は相変わらず旺盛ですが、胃の機能がないので一度に沢山食べられないもので一日中食べ続けています。

 今後の治療に関して決めるための検査入院の話もありますが、決定的な治療はないので貴重な日を病院で過ごすより残された日を家に居ることを選ぼうと思っています。しかしあきらめたわけではありません。毎日滋養のあるものを食べて丸山ワクチンを一日おきに打って何種類もの民間療法薬を飲んで今の状態を一日でも長く保てるように精いっぱい努力しています。応援してください。

 天気予報によると全国的に雪模様になってきたようです。去年は記録的な大雪で皆がチエーンを付けて走っている中チエーンなしで走れる四駆の優越感に浸りました。幸いまだ運転は出来るので今年も雪の中を走ろうとつまらないことを楽しみにしています。

 お忙しいとは存じますが近くまでおいでの折はご遠慮なくお寄り下さい。

 末筆ながらご家族のご健闘をお祈り致します。            敬具

平成十一年一月七日

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