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『アヘン王国潜入記』 高野秀行

アヘン、王国、潜入記。タイトルを構成するすべての言葉が危険な香りを放っている。ライターのヨッピーさんも勧めていて気になっていた本が、マンガ家シメノさんから回ってきた。

この本は「ゴールデントライアングル」として悪名高いエリアに、高野さんが潜入して、村人と一緒にアヘンの原料となるケシの種まき、畑の手入れ、収穫までを行った1995年の記録である。ケシはモルヒネの原料にもなるが、コカインとして精製すれば金額が大きく跳ね上がり、表立っては言えない活動の資金源にもなりうる。

他の集落とさほど交流がなく貧しい村で、高野さんは村人と畑の雑草をむしり、酒を飲む。その中で軍と国、中国などの力関係、村の風習などを少しずつ探っていく。何を食べているのか、病気になったらどうするのか、アヘンはどうやって収穫、換金するのか、なぜ彼らは貧しいのか、そしてアヘンを吸うとどうなるのか、といった話が詰まっている。初めて知ることばかり。ゲリラ、ビルマ、中国の関係といった当時の政治的なことなども書いてあるのだが、私は基礎知識と読解力がなさすぎることもあって理解できなかった。読む人が読むとその周辺のことも相当興味深いと思う。

2019年のゴールデンウィークに、私はベトナム山岳民族の元で刺繍を習うという体験をした。彼らもケシを薬草の一つとして元々適切に使っていたという。遊牧民だった彼らが、中国やフランスに統治されたことで痩せた地に定住を強いられる。戦争のためにアヘン生産を強要され、その後栽培は禁止されたという。マンガ『ゴールデンカムイ』でもケシを資金源に反政府活動を目論む登場人物がいて、13巻では花が表紙を彩っている。強い特性ゆえに、人間は利用しようとするが、人間の貧富や欲が増幅されて、結局踊らされてしまう。

国連などの麻薬撲滅計画などで、高野さんが潜入したエリアからケシ畑は姿を消したらしい。そして市場に日本含む外国製品が流通しており、昔とは全然違う様子になっているらしい。村人たちがフェアに、豊かに営めているといいなと思いつつ、グローバル化をちょっと惜しいとも思う。もちろんケシ栽培の有無ではなくて、固有の文化が失われていくことについて。そこには一応先進国で便利に過ごしている私のエゴが多いに影響しているので、要考慮だが、どこかに知られていない未知の集落があって、そこに潜入するというのはちょっとワクワクする。高野さんが騙されて怒ったり、気が合う人/嫌いな人ができたり、親切されたりしている様子を読むとなんだかうれしい。心の中に「少年」がいる人ならたまらないと思う。

167.『アヘン王国潜入記』 高野秀行

「ゴールデントライアングル」ではなく「ゴールデンサークル」なそれ系の映画。かっこいい。

●シメノさん

2020年読んだ本(更新中)
2020年読んだマンガ(更新中)
2019年読んだ本:77冊
2019年読んだマンガ:86冊
2018年読んだ本:77冊
2018年読んだマンガ:158冊

#読書感想文 #アヘン王国潜入記 #高野秀行 #ビルマ

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