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メキシコ式 人間万事塞翁が馬

届け物があって、隣のまちに出かけることになった。 
人混みの中に行くのが、嫌なので、ネットでバスのチケットを買って、確認したら、なんと、全く違う行き先が表示されている。
 
さすがメキシコ、システムバグとみた!

仕方がないので、早めにバスターミナルに行き、チケット変更してもらおうとしたら、”直前に買ったものの変更は無理”という。

はぁぁぁ?オタクのシステムのエラーなのに、なんで私が被害を被らないといけないの?

でも、こんな時、どんなに正論を言っても、絶対通らないのがこの国。

はいはい、また消費者を嵌めるのね。

別にこのバス会社に限らず、昨今企業によるヘンテコなルールにより、消費者が被害を被る例はどこでもあるし、言い合うだけ、時間と労力の無駄なので、乗合バスで現地に向かう。時間に間に合いますように。
 
ところが、終点と言われて降りた場所は・・え??ここ、どこ??
 
いつもの終着地とは、全く離れた前とは妙な場所で下ろされたのだった。

もう、何よ〜、今日は一体!!!
再び、別の乗合バスに乗り、やっとの思いで目的地に向かう。

この時点で、なんだか、いや〜な予感。

この流れは・・届け物を受け取る相手が、現れないか、支払うべき金額を、急に出し惜しみして、相手の言い値になる、メキシコ式パターン。
本当は、届ける前に、値段の半分を振り込んでもらうべきだったのだ。
 
でも私は日本人なのだ。
そんなに疑ってまでして、取引などしたくないし、そもそも、せっかく物のやり取りをするんだから、もっと気持ちよくやろうよ、という話。
 
・・・ってことで、微妙な心持で待ってたら、なんと、時間ぴったりに現れたのは、ちょっと目を見張るような好青年であった。
 
彼は非常な低姿勢で挨拶をした後、品物を軽く点検して、こちらの言い値を気持ちよく渡して去っていった。
 
最初にやり取りした時は、例の如く、安値で言われたのだが、こちらから商品を持ってわざわざ出向くことを述べたこと、それから、私が日本人だったことが信用を生んだらしい。
 
すっかり気を良くして、久しぶりの街をぶらぶらと歩き、切りの良いところで再び乗合バスのターミナルに行くと・・・なんと、ターミナルごと消えてるではないか!

街を歩き回った後だったので、どっと疲れが倍増する。

そこにいたローカルに、”ちょっと!ここにあったターミナル、どうしちゃったの??”と聞くと、”僕も、ちょうど行くところだったんだ。一緒に行こう。”という。

”で、どこにあるの、そのターミナル?”

”うーん、ちょっと遠いけど、歩けなくもない。”

もう嫌だ〜、なんで毎回こうなのよ。

でも、その若者が、意気揚々と歩き出したので、仕方なくついていく。
まさか、変なところに連れて行こうとしてるんじゃないでしょうね?
長年ラテン国に住んでいると、悲しいかな、真っ先に頭に浮かぶのは、こういうことなのだ。
 
それで、その人物の身元を割るために、質問する。
どこに住んでるの?何の仕事?どうしてあそこにいたの?
あのターミナルはどうしちゃったの?
 
歩きながら話すのだが、そんなに悪い人でもないらしいことがわかってきた。

”日本のどこ出身?(こんな高度な質問、普通ローカルはしない)”
”パンデミックで、乗客が減って、ターミナルも引っ越したらしい”
”ホテルで写真撮る仕事してて、お陰様で、なんとか生き延びてる”
”元々は、メキシコシティ出身。この地域の人の緩さは、シティとは全く違う。”
 
相手も私に色々質問してきて、お互い「写真」という共通点もあり、打ち解ける。この1ヶ月間、ホームセールを通して、やれ、ただで寄越せだの、半額にしろだの、他の色はないのかだの、他の人に売らずに私に売れだの、妙な人に会い続けたので、ほっとする。
 
乗合バスの中でも、インスタの交換をしたり、写真についてあれこれ話しているうちに、あっと言う間に降りるバス停が近づいてきた。

と、隣に座っていた人物が立ち上がり、お尻のポッケに入れていた財布を取り出した瞬間に、私の膝の上に、ぽとっと紙切れが落ちた。
 
ぐしゃぐしゃだったので、あの〜、ごみ、落としましたけど・・と心の中で、呟きかけてはっと気づけば、それは、何かのレシートかと思いきや、200ペソ紙幣だった。あっ、と思い、声をかけようとした時には、現地の恋人らしきお色気女性を連れた、その全身タトゥを纏った男は去っていた。
 
朝方、バス会社のミスで100ペソ失い、一度は割引を言われたアイテムは、定額で売れ、あるはずのターミナルは忽然と消え、でも、親切なカメラマンが新しいターミナルまで連れて行ってくれ、もう使わない付属品をあげるよと彼に約束し、予期せず、膝の上にはお札が降ってきて、なんともしれないメキシコ式、人間万事塞翁が馬の一日なのであった。
 

 

 



 


 

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