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指使いのストレスを解消する

 しばらくフランス語の勉強に専念していましたが、たまには音楽教室ネタを。
SNSなどで時々上がってくる指使いに関することでも書こうかと思います。
「指使いを尊重できない人は絶対うまくならないと断言する」みたいな発言を見かけることがあります。指使いを無視して譜読みしてくる人は、毎回いちいち直さなければならず要領悪いと思うし、指摘しても何週間も直して来なかったりするとイラッとするのは確かです。かと言って、こちらが切り捨てたところで解決せず、お互いのストレスは日々増幅していく由々しき問題です。

 実は6月に恩師であるルヴィエ先生のマスタークラスで通訳をさせて頂くことがありました。かつて自分が習っていた頃から一貫して変わらない、譲らない先生の音楽に対する向き合い方や信条を目の当たりにし、あの手この手で熱心にそれを伝えようとする先生の姿を見て、学生時代を思い起こしていました。そんなタイミングなので、ルヴィエ先生との指使いに関する思い出も少し書いてみることにします。

 実際に指使いは非常に重要なわけで、正しい運指はたとえ初心者であっても、無駄なく弾きこなす、また確実性を上げるのに必要不可欠です。子供時代は楽譜に書いてあるから、注意されるから指使い通りに弾くという場合が多いかもしれませんが、私はパリのルヴィエ先生に習うようになって改めて運指を考えさせられました。まず初めて受けたレッスンで、ラヴェルの技巧的な作品を持っていくと、ラヴェル特有の超弾きにくいパッセージが驚くほど弾きやすくなる、合理的で魔法のような指使いや左右の手のアレンジを教えてくださいました。ラヴェルのように音数が多く緻密に書かれた曲を、細部に至るまでコントロールして弾くのに、運指の不器用さは致命的と言えます。難しい部分がある時は、まずは指使いで解決できることがないかと、何通りも指使いを考えるようになりました。
また、ある試験の前にMozartのソナタK.311をレッスンに持っていくと、「参考になるかもしれないから」と言って、その曲の先生ご自身の楽譜を貸してくださいました。家に帰って開いて見ると、全楽章の全ての音(明らかな繰り返しは除く)に運指が振ってありました。ギョッとしましたが、もちろんコピーなどせず、すぐに自分でペンを持って全てを書き写しました。終わる頃には、フランス人独特の数字の書き方まで習得してしまいました。運指を分析すると、フレーズの中でのニュアンス、アーティキュレーションの加減、呼吸、和音のバランス、強調させたい音、強調させなくていい音、腕の使い方など、一対一のレッスンで弾きながら教えて頂く以上の情報を得ることができ、これも大きな財産となりました。
あとで聞いた話によれば、フランスでは先生のそのまた先生世代の方で、指遣いを非常に重視して細かく指導していた先生がいてその影響ではないかということでした。

 で、話は戻りますが、指使いというのはある程度弾けるようになってから直すのは結構大変だったりするので、できれば最初から合理的な運指で正しく弾きたいところ。そのためにも生徒さんには何より、指使いの重要性を見出してもらうしかありません。それも小さいうちからです。ある男の子がどうしても指使いを見ないので、スケールが始まった時にお手上げ状態になってしまいました。「指使い通りに弾くのが面倒くさい」と思っている人たちに、怒ったり泣きついたりしてみたところで直してはくれません。それで、ある時からレッスン中に時間を割いてひたすら指使いの数字を読ませました。スケールだけでなく、ツェルニーの右手のメロディーも左手の和音も、インベンションの旋律も、音程をつけて歌わせながら音符ではなく数字を読ませました。すると、数字はストレスなく簡単に読めますし、楽しんで取り組んでいるようでした。次第に楽譜を見るときに音符だけにとらわれずに、運指の表記にも目がいくようになり、自然に指使い通りに弾くようになりました。これはすでに何人かで試していて成功しています。
それすら嫌がる子には、曲の中で半音階が出てきた時に、半音階の基本の指使いの仕組みを教えると面白いと思ったようで、鍵盤の一番上から下まで何回も上ったり下りたり、15分くらいひたすら一人で半音階を弾いていました。なにか納得することがあったようで、機嫌よく帰って行きました。

 今の時代、当然ながら私たちが子供だった頃とは様々な面で違いすぎて、自分が育った環境でスタンダードだったことを生徒さんたちに押し付けたり比較するだけのレッスンはナンセンスですよね。コロナの後、また少し変化してきているように感じます。こちらとしては、親御さんが貴重な時間を割いて通わせてくださっているのですから、興味を持ってもらえれば御の字!の精神で、常に生徒の「できない」「やりたくない」「なんでそうしなければいけないの?」に向き合うようにしています。そうして目線を変えながらアイディアを編み出し続けることが、唯一お互いが前進できる可能性ですし、結果的に自分自身の成長にも繋がっていると感じます。そんなことを繰り返すうちに、これまで10年間お教室の拡大に重点を置いてきた方針を見直す時期がきたようです。たっくさんの名前や生徒さんたちの可愛い顔写真の掲載された発表会のプログラムを作ることや、コンクールで結果を出す生徒さんが出てきたことに満足してきたけれど、コロナ後の生活が始まる中で自然と方向転換が起こりつつあります。その話はまたいずれ・・・


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