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パリで開かれていたロン・ティボー国際コンクール

 フランスで開催されたロンティボー国際コンクールピアノ部門で、韓国のイヒョクさんと日本の亀井聖矢さんが1位タイという快挙のニュースが入ってきました。今回は珍しく気になっていて、予選から亀井さんを中心に配信を見ていました。今コンクールで私のツボだったのは、どう見ても明らかに予算がない中で、それこそフランスのシステムD的な発想でどうにかやりくりしつつ、開催に繋げた様子たったこと。

それからファイナルのオーケストラがla garde républicaine だったこと。女性も含めて全員軍服、指揮者は「コロネル」と軍隊の階級で呼ばれていましたね。このオーケストラは普通のオーケストラではありません(笑)。フランス共和国親衛隊という、大統領の警護やパリにある政府庁舎の警備を所轄する国家憲兵組織に属する軍楽隊です。メンバーはおそらくほとんどがパリ音楽院の卒業生で、民間との兼職が認められているそうです。今回の指揮者は国家憲兵隊中佐という階級で、メンバー全員が軍隊の階級を持つ非常に珍しく特殊なオーケストラです。ピアノ協奏曲には不慣れな感じでしたが、亀井さんとのサン=サーンスの時はさすがお国ものだからなのか、生き生きとして嬉しそうでした。表彰式ではフランス国歌ラ・マルセイエーズを演奏するのではないかと思っていたら、どうやらラシーヌ讃歌だったようですね。残念ながら見ていませんが。

コンクールの様子は、速報でフランスの音楽誌(pianiste.frとClassica)が、毎日サイトにその日のリポートを上げていました。日本でありがちな当たり障りのないことしか書かないリポートではなく、一人一人の演奏に対する編集部の率直な感想が書かれていて、現地で観客にどのように受けとめられたのかが即時にわかり面白かったです。最近のコンクールでは、予選から自由の幅が広いプログラムが多いように思いますが、今回のロンティボーの一次予選は、例年以上にガチガチの課題曲で縛られていました。コンクールの伝統であるショパンのソナタ2番の1、4楽章に加えてフランス近代やバロックの曲が課されていたし、二次ではショパンのプレリュードから16番が一曲だけ課されていました。全員が全く同じ曲を弾くというプレッシャーは、考えるだけで胃が痛くなります。しかし観客が聴く上では、それぞれのコンテスタントの技術や表現力、そして持ち味を知るための道標になります。これもコンクールを楽しむ醍醐味の一つではあります。

予選、ファイナルの会場に関しては、以前のSalle Gaveau(サル・ガヴォー/予選)、ファイナルはSalle PleyelやRadio France(サル・プレイエル、ラジオフランス)で行われていた時代と比較すると、今回は予選がエコールノルマルのSalle Cortot(サル・コルトー)、ファイナルはThéâtre du Châtelet(シャトレ劇場)。なんというか、かつての豪華なロンティボーとは色々な面で違ったけれど、課題曲にフランス音楽が多かったことやオーケストラのカラー等、フランスらしさが色濃く打ち出されたコンクールだったとの印象を個人的に持ちました。ヨーロッパでは、ロシアのウクライナ侵攻により、この秋からはエネルギー不足や食糧不足、そして2桁に達するインフレ率という形で日常生活に深刻な打撃を受けています。このような難しい局面で開かれたコンクールにて、日本人ピアニストが1位に選ばれたことは、本当に素晴らしく嬉しいです!これからの活躍が楽しみです。

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