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フランスの救急医療 飛行中の場合

 去年の4月17日から始めた通訳トレーニングは来月で一年になる。途中、夏休みに一ヶ月半休んだ以外は、継続して週一回の授業と膨大な課題に取り組んでいる。課題というのは強制ではなく任意提出で、更にボリュームは二段階に分かれていて、多すぎる場合は調整できるようになっている。今のところ全ての分量を、期限内に一応提出している努力だけは偉いと思う、笑。しかし通訳としてのレベルは相変わらずの低空飛行で、そう簡単にはいかないことを痛感している。
 この1月から3月にかけてはテーマが「医療」となり、前半はフランスの医療制度について、後半は救急医療や実際の診察現場をテーマに勉強している。去年苦しんだ経済問題やCOPのテーマに比べると、医療はどんなタイプの通訳を引き受けても役立つ可能性があるし、実際に自分がフランスに住んでいた時に語学で困ったのは、救急病院でのコミュニケーションだった。
 今週はたまたま通訳トレーニングの授業がなく、来週末に演習がある予定。課題から解放されているので、祝日を利用して飛行機で起こる緊急医療についてAir Franceのケースを紹介している動画を見た。
 
 まず一般の話として、フランスの救急医療をまとめているのはSAMUというサービスで、これは電話で15番を呼ぶとつながる。
 SAMUは、必要と判断すれば患者の元へ医師を派遣する。この時に医師が乗るSAMUの車には医療行為に必要な機材が配備されていて、まるで動く病院のようだ。
 日本での救急車に該当する、患者を運搬するための公的な乗り物はpompier(消防車)の赤い車で、それとは別にambulanceと呼ばれる車は、プライベートな医療タクシーだそうだ。道路ではSAMU、SMUR、消防車の赤い車、Ambulanceと書かれた車を見かけるけれど、それぞれの役割をこれまで知らなかったし、日本とはだいぶシステムが異なっている。

 このSAMUは飛行機で急病人が出た場合にも対応している。
 動画のモデルはパリ発ギニア行きのエール・フランス。コックピットのパイロットが突然頭痛を訴え、意識を失ってしまう。隣に座ったもう1人のパイロットがCAを呼び、まずは機内に医師が乗っていないかアナウンスで呼びかける。医師が乗っていない場合はSAMUの緊急医に判断を仰ぐ。

 エールフランスにはCCO(le centre de contrôle des opérations)という組織があり、天候や機体の故障、空港の混雑など航空に関する全ての問題に対応する。機内で急病人が出た場合、このCCOにパイロットが一旦コンタクトをして、SAMUへの取り継ぎを要請する。以下、着陸までのやり取りを時系列に並べてみる。

◆機内ではCAのグループが病人に応急処置を施す。
動画のケースでは、病人が気を失っているので横に寝かせ、気道を確保し、心拍と呼吸の回数を測り、酸素ボンベを使用。
◆パイロットはCCOに病人の状態、飛行ルート、そして現在地を伝え、近くの空港へ着陸できるように航路変更の準備をする。
◆その後、パイロットはCCOのオペレーターを介してSAMUのオペレーター、そして医師へと繋がり、ようやく医師とパイロットが直接会話できる。
◆病人の状態や飛行機の情報は、医師のコンピューターにすでに共有されている。医師はそれを見ながら、処置にあたっているCAグループに追加のテストを指示する。例えば、光を当てて瞳孔を見たり、体に刺激を与えた時の反応を確認したり、血圧や血糖値の測定など。
◆医師はそれらの症状から、病人の搬送先となる病院に必要な設備を推測し、CCOに伝える。動画のケースでは、脳神経外科が備わり、きちんと機能してすぐに使えるCTスキャナー、 MRI、IVR(インターベンショナル・ラジオロジー)の設備が整った病院に運ぶ必要があるとのこと。
◆これらの報告をもとに、CCOは着陸できる空港を判断し、パイロットは着陸態勢へと入る。飛行機はリスボンとサンタマリアの間の上空を飛んでいたが、状況を見てリスボンに戻ることとなった。
◆最後にSAMUの医師とパイロットが諸々の確認を直接取り合い、医師はCAのグループに万が一に備えてAEDを準備しておくように伝え、急変や心配事があればいつでもコンタクトするように念を押して会話は終了。

 急病人発生から着陸空港の決定まで15分ほどの間、パイロットの重責は想像を超えていた。私自身は、これまでに乗った飛行機で急病人が発生し、他の空港に緊急着陸した経験はないが、日本⇆ヨーロッパ便で「機内に病人が出てモスクワに着陸した」という話は聞いたことがある。フライトにはこういったリスクがあることは頭に入れておこうと思った。

★幾つかボキャブラリー
・mesurer la tension artérielle 血圧をはかる
・pulsation 心拍数
・PLS パルスオキシメーター
・glycémie 血糖値
・déroutement 行き先や航路変更
・DSA =défibrillateur= AED
・IMR=MRI
・scanner =CTスキャナー
・un service de neurochirurgie 脳神経外科
・un plateau de radiologie interventionnelle  インターベンショナル ラジオロジー
・surveille la fréquence respiratoire 呼吸の回数
→12 cycles par minute など
・bilan clinique 臨床診断

・SAMU  →Service d'Aide Médicale d'Urgence
    →公的緊急医療サービス 
・Service mobile d'urgence et de réanimation
   →緊急蘇生(そせい)移動サービス隊


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