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藤田真央/ラフ3弾き/2人の天才音楽家の競演

 6月も残すところあと1日となったとは言え、なんなのこの蒸し暑さは!連日の真夏日、まだ暑さに対応しきれないが身体が悲鳴を上げ、まったく食欲がわかない。毎年6月にあるコンセルヴァトワールの年度末試験を終えて日本に帰国すると、成田空港に降りた瞬間にモワっとした湿気と暑苦しさに襲われ、
「う、、、息ができない。苦しい」と、わざわざこんな季節に帰ってきたことを後悔していたっけ。
 
 そんな不快指数マックスな日本の梅雨真っ只中に、藤田真央くんが帰国してロッテルダムフィルのアジア・ツアーでラフマニノフの3番を弾くというのは、随分前から楽しみにしていた。3日間の公演のうち、最終日であったミューザ川崎での公演を聴きに行った。今回は指揮がイスラエルの若手、ラハフ・シャニと聞いて尚更興味津々だった。フランスにいる友人は、彼は天才ピアニストだと思っていたと言うし、イスラエルにいた友人は「イスラエルではバレンボイムの後継者とみなされている天才指揮者」と話してくれていたので、ピアノでも指揮でもどらでも良いから、早く生の演奏を聴いてみたい!と思っていた。そうしたら、今回は指揮で来日し、コンツェルトのアンコールでマオ・フジタと連弾を披露してくれたので、一度に両方聴くことができてしまった。インテリジェンス、カリスマ性、全て備えた上に、人たらし的な魅力を持っていて、公演は大成功だった。ちなみに、2021年のベルリン・フィルのジルヴェスターはペトレンコが腰痛で直前にキャンセルになり、ピンチヒッターとしてシャニが呼ばれた。急だったので曲目は変えたものの、全て暗譜で堂々と代役をこなしていた。
 4月から5月にかけて、指揮者のシャイーとイタリア各地やハンガリーのブタペスト、オーストリアのウィーンなどで何度もラフマニノフの3番を弾いてきたらしい真央氏は、去年聴いた時よりもタイトで無駄を省いた美しい音楽で、しなやかに強く雄弁なラフマニノフだと思った。時々繊細に感じたのはオケのキャラクターに寄せたのかな?と思ったりしたが、とにかく素晴らしい内容だった。この難曲、以前に比べれば弾く人は増えたかも知れないが、誰もがレパートリーにできる曲ではないし、普通はこれほどいとも簡単にスルスルと弾けるものではない。
 ラフマニノフのアニバーサリーイヤーである今年は、日本では頻繁にラフマニノフが取り上げられているらしく、この6月も何人かの日本人ピアニストが弾いたとか弾かないとか…….。私はそれほどラフマニノフのファンではないので必死に追っていはいないものの、いつも聞いているラジオフランスの番組でも何度かラフマニノフが、それもこの3番をレパートリーとする「ラフ3弾き」のピアニストが話題に上っていた。
まずはトリフォノフのエピソード。


トリフォノフ : 20歳でチャイコフスキーコンクールを受ける際に、ラフマニノフの3番で挑もうと決めたら、当時クリーヴランドで師事していたババヤンに「ラフマニノフの3番を弾くのなら、私は手伝わないから1人でモスクワに受けに行きなさい」と言われた。それほど難しい曲だと説明してくれた。外的にではなく、内的に強く激しい。弾くたびに変化していく曲だ。

france musique

このようにインタビューで語っていた。結局トリフォノフはババヤンの意見に従い、ラフ3はやめてショパンの協奏曲を弾いて優勝したそうだ。余談だけれど、トリフォノフとババヤンはデュオの演奏会をするなど、現在でも強い信頼で結ばれた師弟関係である事が伺える。

もう一人はヴォロドス。初めてヴォロドスのラフマニノフ3番(レヴァイン=ベルリン・フィル)のCDを聴いた時には驚いて口がポカンと開いてしまった。その後に聴いたホロヴィッツのCDも強烈だったけれど・・・

ヴォロドス:アメリカではチャイコフスキーの1番とラフマニノフの3番しか依頼が来なくなり、マーケティングは私を怪物のようにただ大きな音で弾く、機械のようなピアニストに変えてしまった。だから私は、人生において二つの決断をした。一つ目はアメリカに行くことをやめた。二つ目はオーケストラと弾くことをやめた。(いずれまた弾くかもわからないけれど)、今のところは、すごくうまくいっている。

ヴォロドスのインタビュー全文は、フランスで発売中のクラシカマガジンに掲載されていると言っていた。

なんの話だったか。あ、そうだ、ラフマニノフ・イヤーとラフ3弾き。真央氏繋がりだと、去年の9月だったか、キーシンがパリでラジオ・フィル(以下フィラー)とラフ3を弾く予定になっていたが、手の故障でモーツァルトの23番K.488に逃げた。それはそれで素晴らしかったらしいのだが、次に同じフィラーとK.488を弾いたのが5月の真央氏だったとか。それにしたって、キーシンはキャリアは長いけれど年齢的には52, 3歳ぐらいだろうから、まだまだ体を大事に使ってキーシンにしか表現できない『スラヴの血が騒いで仕方ない』ようなラフ3を時々弾いて欲しい。


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