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フランスにおける日本のMangaブーム

 今期の「漫画」をテーマの通訳コースは、先週無事に終了しました。
主にフランスで日本漫画がMangaとして親しまれ発展してきた歴史や、近年のMangaブームについて勉強しましたが、これほど日本の漫画がフランスで人気を獲得をしているとは思いもよりませんでした。
 フランスにはもともとバンド・デシネと言われるフランスとベルギーで普及してきた伝統的な漫画が、多くの世代で読み継がれてきました。日本でもタンタンやアステリックスなどは名前が知られていますね。バンド・デシネと日本の漫画を比較すると、様々な違いが見られます。まずバンド・デシネのイラストは全てカラーで刷られます。そしてサイズはA4、表紙は厚紙でハードカバー、文字量が非常に多い、文字は手書き風フォント、一冊あたりのページ数は少ない、値段が高い(1冊1000円以上)などです。また、日本の漫画作品は「漫画家とアシスタント」によって創作されますが、バンドデシネはシナリオライタター、デッサン画家、色彩画家の3人による共同作業で制作され、一冊あたり約1年から3年もかかります。そのような背景から、バンド・デシネは愛好家達の間では「コレクション対象」のオブジェとして収集され、本棚に飾られています。
 日本の作品は、まずフランス国営放送でテレビ・シリーズのアニメとして普及しました。日本ではほとんど知られていない永井豪の「グレンザイダー」という作品は、フランスではGOLDRAKゴルドラックと名付けられ、1970年代にテレビ放送されると爆発的なブームとなりました。結果、ほとんどのフランス人が知る超有名大人気アニメになり、近年にはフランスの制作会社が日本サイドから権利を買い取り、フランスの作家達によって続編を制作されることが決まり、フランス人のファンは歓喜しているのだとか。
 私がフランスのテレビで見ていた日本のアニメは、小公女セーラ、キャプテン翼、ヴェルサイユの薔薇などでしたが、Princesse Sarah, olive et tom , Lady Oscarといった具合に、主人公の名前や作品タイトルがフランス語名に変更されていました。当時は日本のアニメ・カルチャーはまだまだ浸透していなかったため、登場人物の名前は片っ端から変更され、場合によっては内容も原作とはすっかり変えられていたそうです。
 1990年代に入ると日本の漫画が「le Manga」という印刷物として、フランスの出版業界にようやく登場します。一番最初に出版された作品は、大友克洋の「アキラ」でした。ただし、フランスの書物は読む方向が日本とは逆で、左から右に読みページをめくっていきます。そこで、アキラを出版する際には翻訳作業の他に、読む方向をフランス式に描き換えたりカラー化するなど、大変な手間とコストがかかっていました。これでは複雑な上にあまりにも生産性が低いので、次第に日本式の方向のまま、そして白黒のままで出版されるようになりました。生産性が上がりファンの獲得に成功し、ドラゴンボールからワンピースやNarutoに至るまで、今日ではフランスのManga市場は日本に次いで世界第二位。Mangaがこれほどまで成長していることは驚きですが、その道程は最初から順風満帆であったわけではなく、「北斗の拳」に見られるような暴力的なシーン、血が流れたり人を殴り飛ばすデッサンは子供に悪影響を及ぼすとして日本のMangaやアニメに対する反対キャンペーンも巻き起こりました。当時そのような過激な暴力シーンの多くは削除されて放映されたり出版されたそうですが、様々な論争や時を経ることで理解され受け入れられたのか、現在はオリジナルのまま販売されています。
 話は飛びますが、マクロン大統領(フランス政府)はコロナで打撃を受けた文化的な活動や施設を支援する目的で、カルチャーパスという助成金のプログラムをスタートさせました。これはフランスの15歳から18歳の若者を対象に、15歳は20ユーロ、16歳、17歳は30ユーロ、18歳は300ユーロのクーポンが支給され、本やDVDの購入、コンサート、お芝居、映画、美術館、楽器の購入、オンラインレッスンなど文化活動に関するものの支払いに使えます。これほど幅広くの用途で使えるにも関わらず、クーポンの8割が書籍に使われ、そのうち7~8割がMangaに使われているため、Mangaの売上が急激に伸びて賛否の議論になっているのだとか。
 日本の文化がこのような社会現象を巻き起こすほどに海外で受け入れられ、市場を拡大させているとは正直まったく知りませんでした。どうしてこれほど「漫画」が人を惹きつけるのか、私には理解できない部分なのですが、現代においては、少なくとも「漫画を持った少年=教養が足りない人」「漫画を読む=ちょっと恥ずかしい」ではない、教養人たちがカルチャーのひとつとして楽しんでいることを一連の学習を通して知っただけでも、勉強した甲斐がありました。
 ここにジャパン・エキスポのようやフェス、ジブリなどアニメ映画が絡めると話題は更に膨らむのですが、今回はこの辺でやめておきます。



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