見出し画像

藤田真央 モーツァルトピアノソナタ全曲演奏会第4回

 王子ホールで開かれている藤田真央さんのモーツァルトツィクルスに足を運んだ。今回のプログラムはとても濃かった。難しい曲が並べられた構成だったけれど、形式の違いや書法の変化など、作曲された年代や作品番号を比較し、モーツァルトの人生に重ねながらリサイタル全編を聴かせて頂いた。

2022年10月19日

プログラム
モーツァルト
「われら愚民の思うには」による10の変奏曲  ト長調K455 
デュポールの主題による変奏曲 ニ長調  K573
ピアノソナタ第9番 ニ長調 K311
休憩
ピアノソナタ第17番 変ロ長調 K570
ピアノソナタ第15番 へ長調 K533/494

 ソナタ全曲アルバムの発売が重なったため、演奏会前には様々なプロモーションが展開されていた。テレビ出演された際にも話題が及んでいたけれど、即興的に、繰り返しでは装飾音符を足して弾くスタイルに注目が集まっている。一般的に古典のソナタで繰り返しをする場合は、強弱やアーティキュレーションを少し変えるなど、あまり自由なことをする余地がない楽譜から、何かしらの変化をつけて弾く。藤田さんのモーツァルトは、装飾音符以外のそうしたアイディアにも独自性があり、いつも新たな発見をさせられる。

 マンハイム時代のK311は、プロモーションでヴェルビエのマーティンさんがおっしゃっている「シャンパーニュの泡」的な魅力で溢れていた。後期のソナタからK533の1、2楽章とK494の3楽章は、一つ前のK457と共に18曲のソナタの中で一つの頂点と考えるピアニストがいるように、それまでとは性格が異なる、うっかりしたらベートーヴェンのソナタと間違えそうなコントラパンティックな曲。2楽章では調性が崩壊しそうな不協和音を美しく鳴り響かせ、モーツァルトが直面していたクライシスが伝わってきた。それにしても。古典の様式感、読譜、弾く怖さ、といった事柄は全て咀嚼した上で、舞台では自分を解き放って自由に弾く術は神業としか思えない。

 アンコールはショパンのポロネーズの2番と3番、最後にホロヴィッツがよく弾いていたモシュコフスキのエチュード。

──────────

*過去第1回〜第3回

*年間を通して一番アクセス数が多いのがこちら。Verbierで行われた全曲演奏会。家で配信見てただけなんですけれどね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?