米津玄師「カナリヤ」歌ってみた&曲について語り尽くしてみた

きょうこと申します。米津玄師さんの「カナリヤ」を歌わせていただきました。

ここでは、曲が作られた背景や私なりの解釈、思い入れについて語ってみたいと思います。

伴奏音源:Hiroのピアノ伴奏アレンジ 様
https://www.youtube.com/watch?v=XZ-DmtuADmk&list=LL&index=15



この曲は、コロナ禍が始まってからまだ月日が浅い時期に作られました。

米津さんは、この曲が収録されているアルバムの制作に没頭しつつ、混迷を極める世の中を眺めていました。

突然世界に降りかかった禍い。不安を煽られる毎日。そして、混沌とした世界の中で生じた人と人との醜い争いを、米津さんはただ見ていることしかできなかったと感じていたようです。

米津さんにとって、おそらく最も辛かった出来事は、HYPEというライブツアーがコロナ禍で打ち切りになったことです。米津さんのライブはなかなかチケットが取れないこともあり、「楽しみにしていてくれた人たちをどれほどがっかりさせたことか」と、罪悪感に苦しみました。

翌年になってからのインタビューでは、アルバム制作時の心境について「大きな罪を背負っているような気持ちでいた」と語っています〔出典:ロッキング・オン・ジャパン2021年8月号〕。

実際には100%コロナが悪いのであって、米津さんはむしろ一番の被害者のはずですが、それでも自分を責めてしまう気持ちはわかる気がします。

そのような状況の中、米津さんはミュージシャンとしての自分の存在意義を問いました。医療やライフラインに比べ、音楽は生存に必須のものではない。「不要不急」が悪だとしたら、音楽は真っ先に切り捨てられてしまうようなものだろう、などと思考をめぐらせていました。

この頃はかなり思いつめていたようで、「ファンの人たちは自分の音楽を好きでいてくれるけれど、本当に必要なのだろうか。なければないで、何とかなってしまうのではないか」というような思考にまで陥っていたそうです。

苦悩は歌声にも表れています。この曲をはじめ、STRAY SHEEP収録曲の歌声を聴くと、コロナ禍以前よりも米津さんの声がシリアスになっているのがわかります(ご本人もTwitterで言及していました)。
「Lemon」「Flamingo」「馬と鹿」などを聴くと、川幅が広くてゆったりと流れる川を思わせる声なのですが、STRAY SHEEPでは山奥の激流を思わせる声、魂の痛みを呼び起こして浄化するような声に変わっています。

目を背けたくなるような争いがはびこる世の中を眺め、自分の存在意義を問い、想像を絶する苦悩の中で米津さんがたどり着いたのが「カナリヤ」でした(さらにその後「カムパネルラ」を作っていますが)。

ここからは歌詞の解釈をお話ししていきたいと思います。



この曲の核心となる歌詞は、

「あなただから いいよ」

だと思います。

米津さんの解説によれば、これは究極の肯定を表しているそうです。

制作当初、この歌詞は「あなたじゃなくてもいいよ」でした。一見真逆の歌詞に見えますが、そうではありません。

「あなたじゃなくてもいいよ」というのは、あなた以外の誰でもいいという意味ではなく、あなたが今のあなたでなくなっても肯定するという意味です。

例えば「いつも笑顔のあなたが好き」とか、「いきいきと仕事しているあなたが好き」とか、「優しくしてくれるあなたが好き」とか、そういうものは条件つきの肯定です。

「あなたじゃなくてもいいよ」というのは、今の私が好きなあなたがいなくなって、例えば笑顔になれないあなたになったり、優しくしてくれないあなたになったり、極端な話、事故などで会話ができない状態になってしまっても、あなたを肯定するということです。

そんな無条件の、究極の肯定が「あなたじゃなくてもいいよ」であり、それをわかりやすくしたのが「あなただからいいよ」なのです。



ここからは個人的な解釈ですが、「あなただからいいよ」という言葉は、コロナ禍で「自分らしさ」を奪われた人たちへのメッセージなのではないかと思います。

コロナ禍で仕事を失ったり、生きがいを失ったり、米津さんと同じようにライブができなくなったり。そんな状況にあって自分の存在を肯定できなくなっている人たちに、「あなただからいいよ」と語りかけているのではないでしょうか。

この曲を作るにあたっては、苦しんでいる人たちのためにミュージシャンとして何かをしなければならない責任感、ノブレス・オブリージュの精神もあったそうです〔出典:ロッキング・オン・ジャパン2020年9月号〕。ということは、「あなただからいいよ」という言葉を切実に必要とする人たちに聴いてもらいたくて作った曲なのだろうと私は思います。

ただ、この曲は難解であり、ともすればコロナ禍自体を肯定的にとらえる歌とも受け取られかねません。

また、米津さんはコロナ禍で生活に困ったり、危険な現場に赴いたりしているわけではないため、絶望の中にある人に「安全な場所から綺麗事を言っている」と思われてしまうこともあるでしょう。そのようなことがあるためか、米津さんもアルバムの中でこの曲はなかなか気軽に聴くことができなかったといいます。

しかし、そんな曲が世に出たことによって私は救われています。

私自身、条件つきでしか自分の存在を肯定できなくて常に悩んでいます。仕事ができて、家族や友達に親切にできて、歌がうまくて文章もうまくて、そんな自分でなければ存在を許せないと思ってしまいます。しかし、理想の自分には到底なれないため、いつまでも自分の存在を肯定できません。

そんな私には、「あなただからいいよ」という歌詞はものすごく心に沁みるのです。

長くなってしまいましたが、この曲は理解すればするほど心の痛みを癒してくれる曲だと思います。興味のある方は、是非オリジナルも聴いてみてください。

ここまで読んでくださった皆様、聴いてくださった皆様、本当にありがとうございました。



●公式MV
コロナ禍によって隔てられる人たちを描くドラマのようなMVです。
https://www.youtube.com/watch?v=JAMNqRBL_CY

●STRAY SHEEP Radio
米津さん本人によるアルバムの解説ラジオです。「あなたじゃなくてもいいよ」の意味について詳しく解説しています。
https://www.youtube.com/watch?v=LSNqa-8J4Tw

●米津玄師×是枝裕和/カナリヤ対談
MVを監督された是枝氏と米津さんの対談動画です。感動します。
https://www.youtube.com/watch?v=f0Z4hiPhlz4

●おすすめ動画

海の幽霊/米津玄師【歌ってみた&概要欄で語ってみた】
https://youtu.be/R_ledJkN4r4

死神/米津玄師【歌ってみた&概要欄で語ってみた】
https://youtu.be/LMIOOZV5qN8

Smile Again(合唱曲)中山真理【歌ってみた&概要欄で語ってみた】
https://youtu.be/Nm4WIVXFnOk

●録音環境
【DAW】GarageBand
【録音端末】iPad 第9世代
【マイク】オーディオテクニカ AT2020
【オーディオインターフェース】TASCAM iXZ
【キー設定】原曲+5

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?