初めての営業。「1件の価値」は捉え方で変わるということ。

今晩の読み物。
僕がかつて、初めての営業を通じて学んだことについて、話そうと思う。

2016年の12月。
僕が大学3回生の頃の話だ。

当時の僕は、4回生という就活の年を目前にしながらも
まだ何者でもない自分に対して焦っていた。

『就活のために、色々と話せる経験をしておいた方がいい』

大学に入ってから n 回聞いたセリフだ。

4年間もあれば何かしらはできるだろう、なんて呑気に考えていた僕は、
結局のところ就活に役立てそうなエピソードを、何一つ持っていなかった。

しいて言えば、小説の執筆活動は独特なエピソードになり得たが、
アートの性質に寄り過ぎて、汎用的に活かせるとは思わなかった。

どちらかというと、僕はビジネスチックな経験を求めていた。
学生起業だとか、長期インターンシップだとか。
就職したらビジネスをするのだから、ビジネスな経験はどこに行ったってアピールになるはずだ。

そんなことを考えていたとき、同じ学生寮に住む友人Sが
「最近営業の長期インターンシップを始めたんだけど、めちゃくちゃ成長できるよ!よかったら一緒にやってみない?」
と声をかけてくれた。

特に営業に興味があったわけではないけれど、
言葉巧みにモノを売るってカッコいいし、入社したらまずは営業とも聞く。
このまま何の経験もせずに、就活に突入するよりはいいか。と、そんな理由で僕は営業の長期インターンを始めた。

僕がインターン生として入社した会社は、大阪の梅田にあるベンチャー企業だ。大学生の育成事業の一環として、多くの学生を営業枠でインターン採用していた。

社長は大手コンサルティング会社出身、専務は大手外資メーカー出身と、
2人のゴリゴリのトップ営業マンが経営している。

営業に関して、学生への指導やマネジメントはかなり厳しかったが、
それでも僕は何者かになるために、必死になって食らいついていた。

商材勉強とロープレをひたすら反復した1か月間の研修を終え、
ついに営業稼働の日がやってきた。

人生で初めての営業。
緊張はしていたが、それでも「初日で絶対に契約を獲得してやる!」と、僕は闘志を燃やしていた。

和歌山大学前駅から南海電車に乗って、稼働先の大阪市へと向かう。

お客様にあれを聞かれるかもしれない、これも聞かれるかもしれない、と思って、電車に乗っている間、僕はずっと商材の復習をしていた。

色んなパターンが無限に頭に思い浮かんで、終始落ち着かなかった。
そうしているうちに大阪に着き、稼働先に到着した。

最後に大きく深呼吸をして、僕は営業を開始した。


8時間後...


結論から言えば、結果は散々だった。
契約件数は1件。そのうち自力での獲得は0件。お客様自身からの契約が1件だった。

これは実質0件だ。

情けなかった。
そして自分の力の無さが悔しかった。

心のどこかで「自分なら余裕だろう」と高を括っていた。
でも、それではダメだった。
何回提案しても、成約には結びつかない。
上手く商材提案ができなくて、何件かお客様にお叱りの言葉も受けた。

あまりに悔しすぎて、何がダメで、どこを改善すべきかなんて、そんなことを冷静に考えられる状態でなかったが、とにかく僕は上司に今日の状況を日報として書き綴った。

ずっと一心不乱に書いていたから、気づけば稼働終了から2時間以上が経過していた。

当時住んでいた学生寮は、0時でエントランスが閉まるという門限があったから、そろそろ電車に乗らないといけない。

僕は悔しさが胸の中で渦巻ながら、和歌山市行きの南海電車に乗った。
すると15分くらいして、母からLINEがきた。

「おつかれさま。初めての営業どうだった?」

僕は見栄を張って、数件契約を獲得できたと嘘を書こうとしたが、
それは憚られて、母には正直に話した。

「全然ダメだった」

「自分の力では1件も獲得できなかった。1件だけ計上できたのがあるけど、でもそれはお客様がそもそも契約したがってたから。あれは自分の力じゃない」

自分で書いているうちに、悔しさがまた込み上げてくる。
本当は「契約取れた!」と胸を張って報告したかった。

とても悔しがる僕に対して、母はこう言った。

「1件でもすごいじゃない。あなたからすれば自力ではないかもしれないけど、お客様からすればお金を払うことなのだから」

「その1件に変わりはないはずよ」と。

その言葉に、僕はハッとした。
今日の自分に足りていなかったのはそこだった。

僕は今日の営業を、心のどこかで自分の力を試すゲームのように捉えていた。

これはゲームではない。

そうだ。お金を払うって、その人からすればとても重要なことなのだ。
自分だって、コンビニで買い物するときでさえ値段を気にして、そして考えて商品を買っている。

僕はきっと、契約を獲得したい思いが強すぎて、お客様にもその雰囲気が伝わってしまっていたのだと思う。
そんな営業マンからの提案は、僕なら絶対に聞かない。

僕にとっては明日にでも忘れてしまいそうな1件でも、
お客様からすればこれからもお金を払う1件の契約なんだ。

その意識を忘れずにいよう。

今日の失敗と母の言葉を通じて、僕は営業で大切なことを学んだ。


和歌山大学前駅までの南海電車での残りの時間は、とても冷静に上司への日報に、今日の反省点を書くことができた。

次はきっと大丈夫だ。

僕は強く、そう思えた。



ちなみに、学生寮には0時ギリギリで滑り込んで、なんとか冬の野宿は回避できた、というのはまた別の話。

また和歌山での思い出話について、読み物書きます。

それでは、おやすみなさい。

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