見出し画像

いらないわ

降ったり止んだり
そんな時雨心地だから
傘はいらないわ
そもそも必要だとしても
何処かに忘れたままだから
本当意味の無い考えだったわ
歳月を経れば
その分だけ草臥れていくのは
どうにも仕方のない事だけれど
何だかあたしって者まで
変わり果てて行くような
小さくなって
誰も知らない部屋に
閉じ込められてしまうような
そんな不安の棘が
いつの間にやら
親指の先っちょに刺さってしまって
初めは何てことない痛みだったのだけれど
今となっては
あたしの心や思い出達よりも
大きな顔をして
茶碗のシミのはじの裏っこや
閉め切ったまんまで軋んだ窓枠や
止むに止まれず掛け続ける電話口
うんざりしても足りやしない
いったいあと何年
あと何ヶ月
何日
何秒
こうやって過ごして行くのか
とはいっても
すっかり今日の日付なんてものも
ずいぶん曖昧になってきて
数えられないものだから
まるで蜘蛛の巣に捕まった
相手にもされない羽虫みたいに
無間の隙間に挟まって
あたしはあたしに
放ったらかしにされたまんま
降ったり止んだり
そんな時雨心地だから
やっぱり傘はいらないわ
そうね
やっぱり傘はいらないわ

この記事が参加している募集

やりたいことなんて何もなかった放課後 ぺっちゃんこにした鞄に詰め込んだ反逆 帰る所があるから座り込んだ深夜の路上 変えたい何者かを捕まえられなかった声 振り向くばかりの今から届けたいエール