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モロー 幻想に閉じこもった画家

モロー《一角獣》1885年頃


ギュスターヴ・モロー(1826-1898)


幻想の世界に閉じこもり、独自の美を表現した画家ギュスターヴ・モロー。
鮮やかできらびやかな彼の作品には宝石の装飾も描き込まれ、ジュエリーの輝きも絵画から強く感じることができます。


モローはフランス象徴主義の代表的作家。
象徴主義とは、現実のものではなく、目に見えない精神的な美を神話や文学をモチーフにして表現する芸術運動です。
モローはギリシャ・ローマ神話や聖書を主題に、幻想的な空想の世界を表現しました。

パリに生まれたモローは体も弱かったため、絵を描くことを遊びとする繊細な少年でした。
両親の理解もあり、彼は絵の才能を開花させていきます。
画家として認められるようになり、美術学校の教授にもなったモローですが、その独自の表現は当時の伝統的な画家たちからは批判もされました。

やがてサロンからも遠ざかり、実家の屋敷へ引きこもるようにもなります。
もともと裕福な家であったため経済的な心配もなく、老いた母親と静かに暮らし、ひたすらに自分だけの美の世界に浸ることができました。
モローの作品に見られる危うさや官能的な空想は、そのような引きこもりの生活から生まれたものでした。

モロー《出現》1876年頃 


以前私もモロー展へ行き、彼の繊細で耽美な世界に魅了されました。
代表作の《出現》や《一角獣》も素晴らしかったのですが、他にも彼の残した簡単なスケッチも印象的でした。
特に母親や恋人のスケッチには繊細な愛が深く感じられ、大作に見られるゴージャスな耽美の世界とは対照的な、無垢で優しい子供のようなモローの感性も表れていました。

臆病で繊細で優しい引きこもりのモロー。
そのような人物であったからこそ、幻想の世界では人々を圧倒するような耽美な作品を生み出すことができたのでしょう。

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